一、とある本丸のある一日

刀剣乱舞合歓木本丸

 出陣するための門の前に着くと、先程昼寝から起きた薬研達含む、第一部隊が集まっていた。

「主、おはようございます」
「おはよう、長谷部」

 審神者に気づいたへし切長谷部が、礼儀正しく頭を下げた。
それに伴ってその他の隊員達も、審神者の存在に気が付いた。

「よお、主。ようやくお目覚めか?」

長谷部の隣に立っていた鶴丸国永が、明るい調子で振り返った。

「ああ、今日鶴丸は三日月の代理だったな、よろしく頼むぞ」
「ああ、任せておけ」

 三日月宗近は本来、第一部隊に所属している。
しかしその名前から来るものなのか、彼の睡眠時間は月の満ち欠けによって左右されていて、その為に月に一度、月が空から完全に姿を隠す、新月の日だけは、朝から何をしても起きない体質だった。
その為、新月の日に第一部隊を出陣させる時は、第二部隊隊長の鶴丸を、代理で出陣させる事にしている。
彼の練度は第一部隊の刀達より僅かに低いが、第二部隊を率いているだけあって、その経験がその差を埋めていた。

「あ、そういえば、さっき大倶利伽羅が起きてたぞ」
「おお!ようやく伽羅坊が起きたか、また楽しくなりそうだ」

 大倶利伽羅が起きた事を伝えると、鶴丸は嬉しそうにパッと表情を明るくさせた。
審神者が隊員の顔を見るため辺りを見渡すと、編成していた隊員が、二振り足りない事に気づいた。

「あれ、そういえば隊長と鯰尾は?」
「今鯰尾が、その隊長を部屋に迎えに行っています。……全く、体質のせいとはいえ遅刻とは」
「まあまあ、その分うちの隊長は頼りになるんだから、大目に見てやろうぜ旦那」

 眉間に皺を寄せる長谷部を、薬研がその肩を軽く叩いて宥めていると、遠くから二つの足音が慌ただしくやってきた。
先程話題にでてきた、鯰尾藤四郎と第一部隊隊長である山姥切国広が、息を切らせてやって来た。

「すまない、遅くなった」
「遅いぞ、また寝坊か」

膝に手をついて息を整えながら謝る国広に、長谷部が小言を言った。

「すまん……一応、目覚ましはかけたんだが」
「隊長さんの部屋の隅に、壊れた目覚まし時計が転がっていました!」
「……」

 歯切れの悪い言葉で目を泳がせている国広の隣で、鯰尾が明るく、彼の寝坊の原因をさらりと言ってのけた。
それを聞いて、何とも言えない顔になった長谷部を見て、国広はがっくり項垂れた。

「……まあ、しっかり眠れたのならいい。だが、戦での怠慢は許さんぞ」
「ああ、もちろんだ」

長谷部の言葉に、国広は力強く頷いた。
これで今日出陣する部隊、第一部隊が全員揃った。

「じゃあ、全員揃ったな。守るべきことは一つ、決して折れずに帰って来い!」
「「「「「「応!!」」」」」」

審神者の激励に、六振りの力強い声が響き渡った。

「では、行ってくる」
「ああ、頼んだぞ隊長」

 眠気から完全に覚醒した国広の、頭からすっぽりと被っている襤褸布の奥から覗く、翡翠の瞳が爛々と光っている。
彼の瞳は、敵を前にした出陣前が、最も美しく光り輝く。
とはいえそれをいざ本刃に伝えると、「綺麗とか言うな」と、襤褸布で少し赤くなった顔を隠してしまうだろう。
スッと背筋を伸ばして、戦場へ向かう隊長を先頭に、第一部隊はゲートの向こうへ消えていった。
彼らの姿が完全に見えなくなると、審神者は提出する予定の書類を裁く為に、再び執務室に戻る事にした。
僅かな眠気が襲ってきて、小さなあくびをしながら、長い廊下を歩き始めた。


「おはよう。平野と前田」
「おはようございます、主君」
「おはようございます、主」

 執務室の扉を開けると、前田と平野が、すでに書類の整理を始めていた。
審神者は睡眠時間が長いせいで、政府に提出する書類がどうしても溜まってしまう。
そうこうしている内に、提出期限が迫っている書類が、山と溜まってしまっていたのだ。
今日の夜は最強布陣で作業に充てる予定なので、それまでにこの二振りに書類の種類分けを頼んでいた。

「二振り共、昼寝は?」
「既に取っています」
「夜までお手伝いさせていただきますよ」
「助かる、じゃあ急ぎの書類から片付けていくから、二人はそのまま書類を分けてくれ。山みたいになってるけど、無理はしないようにな」
「「わかりました」」

二振りのいい返事に、これからの書類地獄を前に、審神者の荒みかけた心が癒された。
部屋の三分の一を占められた、大量の書類を片付ける為に、審神者は愛用のパソコンを開いた。

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