日が傾いてきた時間に、昼頃出陣していた第一部隊が帰ってきた。
さすがはこの本丸の最高戦力、見事に全員無傷で帰ってきている。
手入れをすると、審神者が消耗をする事を知っている刀達は、無傷で帰る事を常の目標としている。
皆審神者が消耗して長く眠ってしまうのを、心配しているのだ。
拾ってきた資材を片付けている隊員達に、労いの言葉をかけながら、審神者は国広と長谷部に声を掛けた。
「二振り共出陣で疲れていると思うが、書類がまずい事になっているから、今日は最強布陣で作業する」
「分かった」
「分かりました」
「助かる。しばらく寝るから夕餉を取った後、執務室に来て起こしてくれ」
それだけを伝えて、これからやって来る修羅場に備えて、審神者は部屋で僅かな仮眠を取った。
「はせべー!」
「お、長谷部も大将の手伝いだよな?」
夕餉も取って空もすっかり暗くなった頃、長谷部が執務室に向かう途中、曲がり角で博多と厚に出くわした。
「む、厚に博多か。今日は主曰く、最強布陣で書類を片付けるそうだ」
「確かに、この面子で主の手伝いをするのは、久しぶりばい」
「それだけ今回は切羽詰まっているという事なんじゃないか?、急ごうぜ」
「それもそうだな」
雑談もそこそこに、三振りが執務室の扉を開けると、審神者が国広に叩き起こされている所だった。
「おい、長谷部達が来たぞ。いい加減に起きろ」
「ん~まだねむい……」
「起こしたって中々起きないのに、何で仮眠なんか取ったんだ。起こす身にもなれ、俺も眠い」
「……」
何も言わず審神者は布団をかぶりなおすと、国広は焦った顔からスッと真顔になった。
「……起きないなら、また短刀達に顔の落書きをさせるぞ」
「すまんかった、起きるからそれは勘弁して」
一段階低くなった声に、審神者は慌てて布団から這い出した。
以前、余りにも審神者の寝起きが悪い時に、悪戯心が湧いた鯰尾が審神者の顔に落書きをして、かなり恥ずかしい思いをした事があった。
それを知っていた国広が、試しに「短刀達に顔を落書きさせる」と脅してみると、意外にも効いたので、それ以来審神者を起こす脅し文句として使うようになった。
「うぅ……くわぁ~…。すまん、ちょっと仮眠を取ろうとしてたんだが……」
「あれは仮眠とは言わない」
「悪かったってまんば、長谷部達もすまないな、付き合ってもらって」
「いえ、大丈夫です」
「さっさと終わらせようぜ、大将」
「腕が鳴るたい!」
すっかり置いてけぼりを食らっていた三振りに声を掛けると、それぞれ言葉を返して持ち場についた。
書類がどうしようもなく溜まってしまった時、審神者はこの最強布陣で作業に取り掛かる。
まずは初期刀と初鍛刀である国広と厚。
本丸を最初から支えてきた二振りは、この本丸の誰より勝手が分かっているので、国広は審神者と同じく書類の最終確認と判子押し、厚は仕上げた書類を提出先別に仕分けて、封筒に入れる作業をしてもらっている。
次に長谷部は、国広に次ぐ二番目の打刀として顕現した。
そしてなによりパソコンの操作を覚えるのが早く、文字を打つのは審神者より早い。
その為作業量が多くなりやすい、書類作成に当たってもらっている。
最後に博多は、さすが豪商から受け継いだ刀とだけあって、数字の扱いに長け、計算事がこのメンバーの中では一番早い。
その為長谷部の書類を作るための数字を、計算して打ち出してもらっていた。
最強布陣のメンバーはもう二振りいるが、一振りはまだ寝ていて、もう一振りは遠征に出てしまっていて、帰りは夜遅くの予定となっている。
彼らがやってくるまでには、ある程度作業は済ませてしまわないといけない。
審神者も仮眠を取るまでは、本当に急ぎの書類だけ済ませていたが、それでも書類の山の10分の1も片付いてはいなかった。
審神者がさぼっているのではない、書類が余りにも膨大過ぎるのだ。
「よし。目も覚めた。皆、死ぬ気で終わらせよう」
審神者の声を皮切りに、もう一つの戦いが始まった。

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