一、とある本丸のある一日

刀剣乱舞合歓木本丸

ゴンッ

 博多がレシートの回収から戻ってから数分後。
突然の大きな音に、全員がその原因に振り向いた。
眠気に負けた国広が、とうとう盛大に机に頭をぶつけて、そのまま動かなくなっていた。

「ああ……まんばがとうとう力尽きた」
「おい、山姥切。貴様主が頑張っていると言うのに、貴様だけ寝るつもりか」
「……うぅ…」
「……あちゃ~、隊長また最初に寝落ちしたか」

各々彼に声を掛けたが、国広は呻くだけで動かない。
しびれを切らした長谷部が立ち上がろうとしたが、その脇を小さな人影が通り過ぎた。
それは細長い筆を持った、小夜左文字だった。

「大丈夫……任せて」

静かに告げた小夜は、国広の頭上で的を絞り、あらかじめ持ってきた筆を逆さにして、指で引き絞った。

バチィッ!!

「ぐっ……!?……ハッ!」

小夜が指を離すと、筆が盛大な音を立てて、彼の後頭部に直撃した。
予想外の攻撃に、国広は潰れたような声を上げて跳ね起きた。

「起きました?」
「……さよか?……すまんな、たすかった」
「おはよう小夜、さっそくだけどこっちの文章の代筆頼む」
「分かった」

 審神者が渡した文書用の和紙と、文章が書かれた紙を小夜が受け取ると、長谷部の近くにあるスペースに腰を下ろすと、持ってきていた硯で墨を磨り始めた。
それから余り時間が経たないで、歌仙兼定が飲み物と作業道具を持って部屋に入ってきた。

「お疲れ様、相変わらず雅じゃない光景だね」
「歌仙、遠征お疲れ様」
「飲み物を持ってきたよ、どうせ夕餉から何も飲んでいないだろう?」
「おお、助かる!このメンバーになるといっつも部屋が狭くなるから、暑くってすぐに喉が渇くんだよ」

 真っ先にコップを受け取った厚が、一気に飲み物を煽った。
他のメンバーも一息にと、次々に飲み物を受け取った。
一息ついてコップを片付けた審神者は、時間が惜しいとばかりに書類の束を差し出した。

「歌仙、さっそくで悪いんだけど……シャレにならない量で溜まっているから、小夜と一緒に代筆頼む」
「はあ……もう少し計画的に処理は出来ないのかい?」

渡された書類の分厚さを見て、歌仙は眉を歪めた。

「……面目ない。これでも分単位で切羽詰まっていた書類は処理したんだ……」
「それでまだこんなに残っているのかい?まったく、政府はどれだけ書類を出してくるんだ……」

ぶつくさと言いながら、歌仙も小夜の隣に座って墨を磨り始めた。
これで書類整理の最強布陣が揃った。

 歌仙と小夜は、計算事や書類整理は苦手だったが、二振り共筆を使った字がとても綺麗だった。
審神者も筆で文字を書く事はできなくはないが、元々悪筆な審神者が書くと、とても読めたものではなく、書類を受け取った担当が、解読にかなりの時間がかかるから、何とかしてくれと苦情が入る程だった。
国広と厚は審神者譲りなのか、綺麗な字とは言えず、長谷部と博多は速さを重視した、走り書きの様になってしまいがちなので、結果綺麗な文字を書く事ができなかった。
それを見かねた歌仙と、たまたま近くにいた小夜が代筆をすると、それがパッタリと無くなったので、それ以来政府に筆で書かないといけない物は、歌仙と小夜が代筆を務めている。

 小夜が代筆を務めるのには、もう一つ理由がある。
小夜はここの本丸の短刀の中でも少し特殊で、睡眠サイクルが昼夜逆転した刀だった。
空がオレンジに染まり始める夕方に目を覚まして、主に夕方からか、早朝に出発する部隊に出陣して、日が高くなる前に眠りにつく。
夜に生活する彼は、戦闘においても、書類整理においても、深夜でも問題なく活動できる貴重な戦力だった。
その為彼は、寝落ちしそうになっているメンバーを、様々な手段で起こすと言う重要な役割を担っている。
最初はデコピンから始まり、筆で頭を一撃したりと、最近どんどんバリエーションが増えていき、最近では太い輪ゴムが彼のお気に入りらしい。
何回も起こしても何度も寝落ちする刀に、思い切り引っ張った輪ゴムをお見舞いすると、手間も少なく効果は大きい。
とても痛いので食らいたくない代物だったが、大体の被害者は審神者と国広なので、止める者は誰もいなかった。

バチッ

「痛っ」

バチッ!

「ウッ」

バチイッ!!

「いっ!」
「……ああもう、いい加減ちゃんと目を覚ましてくれないな!?お小夜の作業が全然進まないじゃないか!」

 輪ゴムの弾く音に、気が散って集中力が切れた歌仙が、とうとう声を上げた。
今剣達が帰ってきてしばらく経ち、書類もあと4分の1程という所まで裁くことが出来た頃、審神者と山姥切の眠気がピークに達して、交互に寝落ちしかけていた。
その間隔がかなり短いために、小夜は彼らの近くで常に控えるようにまでなっていた。
本人達も頑張ってはいるものの、時間は午前3時、既に日は跨いでおり、審神者はとっくに眠りについている時間だ。
眠気が酷いのも無理はない。
しかし、出来上がった書類に、最後の確認の判子を押す事が出来るのは、審神者と国広だけだ。
つまり、どちらも寝落ちてしまったら、他がどう頑張ってもこの仕事は終わらない。
なのでこの二人だけは、何としても起きて貰わないとならないのだ。
 二人だってやる気が無い訳ではない、ただどうしても眠気に抗えないのだ。
堪忍袋の緒が切れる寸前の歌仙が、いっそ拳骨の一つでも落とそうかと考え始めていると、審神者がバンと机を叩いて、何とかして起き上がった。
その姿はさながらどこぞのゾンビの様で、歌仙風に言うなら雅じゃない、その一言に尽きた。

「まんば……何とかして、終わらせるぞ……」
「……うう…」

 するとユラリと審神者は立ち上がって、極太の黒い油性サインペンを取り出し、向かいで寝落ちている国広の片頬に、大きな字で思いっきり「傑作」と書いた。
いきなりの事に驚いた国広も、さすがに目を覚まして立ち上がった。

「いきなり、何するんだ!?」
「ふふふ……ペナルティだよ……それぞれ寝落ちしたら、互いの顔に落書きをする。寝落ちをすればするほど、朝に恥をかくって訳さ……次は(笑)って書いてやるよ」

 サインペンを片手に、非常にいいゲス顔で「ふふふ……」と不気味に笑った。
眠気も書類によるストレスもピークになって、審神者のテンションもおかしくなっていた。
こすっても顔の落書きが落ちない事に気づいた国広は、眠気で瞳が落ちかかりながら、それでも出陣時並みの眼光で審神者を睨んだ。

「言ったな……望むところだ。あんたが寝たら、俺も書くからな」
「いいだろう」

 それからは、怒涛の勢いで書類が片付いていった。
顔に落書きをされたくない思いで、手を止めることなく、どんどん書類の山がなくなっていった。
ずっと二人に控えていた小夜も、そんな二人を見て大丈夫だと判断して、代筆の作業に戻った事で、代筆の作業量も上がった。
二人の気迫に触発されて、厚、長谷部、博多もラストスパートとばかりに、作業スピードを上げていった。

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