「主、入るぞ」
「ああ、おはようまんば、長谷部」
「主、おはようございます」
執務室に入ると、既に作業に取り掛かっていた審神者が、大量の紙の山の間から顔を覗かせて二振りに笑いかけた。
「それで、今日はどれだけ書類が溜まっているんだ?この前急いでいる書類は終わらせて、全て出し終えた筈だが」
急ぎの書類の山を、この本丸の最強布陣で片付けたのは、つい最近だ。
それでもまだこんなに残っていたのかと、内心げんなりした国広が、近くにあった紙の束を手に取って、床にあぐらをかいた。
「今日は急ぎの書類はないから、うちの資料の整理をしようと思っている。また切羽詰まった時に、資料を見やすくしておかないと、後々地獄を見るからな」
審神者は先日の修羅場を思い出して、「ハハハ…」と力のない、乾いた笑い声をあげた。
「じゃあ、さっさとやるぞ。時間が惜しい」
「そうだな。起きてからずっとやってるし、今日出陣しているメンバーが、夕方帰ってくるから、手入れに備えて昼寝の時間が欲しい」
「主、俺はどこから手をつければいいでしょうか?」
「長谷部はいつものように、この資料の数字を表にしてまとめて欲しい。自分は出来上がった物をチェックして、いらない物と保管する物を決めるから」
「分かりました」
パソコンの前に座った長谷部は、パソコンの電源を付けながら、近くにある資料の山から一つを手に取って、どんな内容か一通り目を通し始めた。
「俺は保管する書類の整理か?」
「そうだな、まんばは自分が渡した資料を、ファイルにまとめていって欲しい。どうせ棚から全部出さないといけないだろうから、ついでに棚に溜まった埃も払って貰えると助かる」
「分かった」
簡潔に審神者が指示すると、各々自分の作業に入って、部屋には作業音だけが響くようになった。
長谷部がパソコンで、審神者から渡された資料を元に新たな資料を作り、審神者は出来上がった資料を確認して、いくつか必要事項をなどを書き込んで国広に渡し、いらなくなった古い資料は、部屋の隅に積んでいった。
書類を受け取った国広は、棚を埋め尽くす程の沢山のファイルに、出来上がった資料を種類ごとに挟んでいくのだが、古いファイルは埃をかぶってしまっているので、先に棚とファイルの埃を払う為に、棚からファイルを全て抜き出し始めた。
ガシャ
作業を始めて数時間、音の方へ顔を向けると、長谷部がキーボードへ突っ伏していた。
キーボードが彼の頭で押されたままの状態の為、同じ文字が延々を打たれてしまっている。
「長谷部!?」
「ええっ!?……あ~、今日は長谷部が先か」
「しまった、もうこんなに時間が経っていたのか」
慌てて国広が部屋にある壁掛け時計を見ると、作業を始めて既に三時間程経っていた。
国広は長谷部がキーボードへ頭から突っ込んだ為、怪我が無いか簡単に確認してから、起こさないようにそっと肩に担いだ。
「悪いが、長谷部を俺の部屋へ寝かせてくる。本当は長谷部の部屋がいいとは思うが、ここから近い俺の部屋の方がいいだろう」
「分かった、続きは出来るだけやっておくよ。二振りは長谷部が起きるまで、昼寝の時間にしよう」
「分かった。起きたらまた戻る」
「ああ、おやすみ」
意識の無い長谷部を担いだ国広は、重そうなそぶりを見せることなく退室した。
部屋に残った審神者は、長谷部が倒れてしまった事で、同じ文字で埋め尽くされてしまったパソコンをどうにかする為に、さっきまで長谷部が座っていた座布団に座った。

コメント