翌日、長谷部は改めて自己紹介をした国広が率いる部隊で出陣した。
顕現したてで、慣れない体ではあるが、元から持ち合わせている足の速さを生かして、目の前の敵を中傷まで追い込んだ。
そして最後に止めを刺そうと刀を振りかぶったが、突然強制的に視界が黒く塗りつぶされて、長谷部は自分が斜面を転げ落ちている感覚を最後に、意識を失った。
「うーん……国広とはまた違うタイプの倒れ方だな」
事の成り行きを、他の隊員全員から聞いた審神者は、長谷部の手入れで手を動かしながら呟いた。
長谷部が意識を失った後、彼は近くの急な坂道を転げ落ちて、中傷を負ってしまった。
最初は皆、長谷部がバランスを崩したものかと思っていたが、斜面を転げ落ちてから、長谷部が動く素振りを見せず、意識を失っている事に気づき、国広が長谷部を背負って慌てて帰還したのだ。
「申し訳ありません主。戦場にいながら倒れるなんて失態を」
「いいんだよ長谷部、まだ手入れの途中だから寝てな」
今にも起き上がって、土下座でもしそうな勢いで謝る長谷部に、審神者は彼の肩をやんわりと押し返して再度横にさせた。
「長谷部、本当に眠気とかを我慢していた訳では無いんだな?」
「はい」
「うん」
そのまま考え込む様に、無言で手を動かしていた審神者だったが、手入れ作業に一区切りを付けると、真剣な顔で横たわる長谷部に向き直った。
「長谷部、この本丸で一番大事な事を伝えておく」
「はい」
「睡眠をしっかり取る事だ」
「……睡眠、ですか?」
てっきり武勲を上げろとか、日々の鍛錬を怠るなとか、そう言った物を考えていた為、睡眠といった一番大事だとは思えない事に、長谷部は困惑の表情を浮かべた。
「ああそうだ。ここで顕現する刀は、皆自分の体質の影響で、皆眠りに関して特殊な事情を抱えている。これから来るだろう刀達も、そうなるだろうと診断もされている。……今回長谷部が倒れたのは、それが原因の可能性が高い。だから、戦う為にちゃんと睡眠を取って欲しいんだ」
「……はい」
それから長谷部は、何度も出陣と遠征を重ねた。
しかし長い遠征や出陣では、最初の出陣同様、何度か倒れてしまい、その度に撤退を繰り返していた。
出陣の度に霊力を大量に消耗して、すぐに眠ってしまう国広の様に、自分もそういった体質なのかもしれないと、夜の睡眠時間もしっかり取ってみたり、出陣の時間に間に合るギリギリの時間まで寝てみたりもしてみたが、今の現状は変わる事は無かった。
そしてそれは日常生活でも同じで、普通に廊下を歩いている時、食事を取っている時、審神者に教えられた書類の作業をしている時、眠気が来るとは思えない状況でも、長谷部の意思に反して意識を失い、気が付けば自室の布団に寝かされている。
予測が出来ない意識の喪失を危険と考えた審神者は、長谷部の側にできるだけいるようにする長谷部係を設けた。
始めはその事に反対した長谷部だったが、審神者と一対一で理由を伝えられると、了承する事しか出来なかった。
皆嫌な顔一つせず、長谷部の側にいてくれる。
審神者もそんな長谷部を、変わらず戦場に立たせて、彼が思いつめている様ならタイミングを見て声を掛けたりしていた。
しかし、長谷部にはその優しさが、日に日に辛く感じていた。

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