「…………」
「なあなあ、どうだったんだ?」
何かを思い出す様に、上を見上げている国広と長谷部に、審神者は面白そうに身を乗り出した。
審神者はあの夜、長谷部達に出陣計画を立てているのを、見られていた事を知らない。
しかし、毎晩ノートに情報を書き込んでいる姿は、今でも長谷部の大きな支えとなっている。
けれど、それを審神者に伝えるのは気恥ずかしく、長谷部と国広との間の秘密にする事にしていた。
「内緒だ」
「えー?いいじゃないかー、長谷部は?」
「……内緒です」
「えー……まあいっか。よし、こっちは終わった!まんば達はどうだ?」
フイとそっぽを向く国広と、少し照れ臭そうに笑う長谷部を見て、少し残念そうにした審神者だったが、すぐに深く聞くのをやめて、仕事の話に切り替えた。
ファイルに入れる資料は、国広がほとんどファイルに入れ終わっていたので、残っている資料の山は殆ど無くなっている。
既にパソコン作業を終えていた長谷部も、国広の手伝いとして、もう使わないファイルを、掃除し終えた棚の中に直していた。
「もう少しで終わる」
「分かった。じゃあ廊下にいらないのは出しておくよ」
「廊下にと言う事は……アレか」
国広が手を止めて審神者を見ると、審神者はニッと笑っている。
それを見て国広は、昼餉を持ってきていた燭台切同様、審神者が何をしようとしているのか察した。
「そうアレだ。じゃあ先に準備しておくよ」
「分かりました。すぐに済ませましょう」
二振りが作業のペースを上げている間に、審神者はいらなくなった資料を廊下に持ち出して、平等に二つの山にし始めた。
「こっちは終わったぞ」
「よし、二振り共お疲れ様!じゃあ始めるか」
二振りを連れて廊下の外に出た審神者は、周りに聞こえるように大きく手を叩いた。
「よーし、審神者主催、不定期開催のホッチキス外し勝負だ!勝ったチームには、今日のおやつが多めに貰えるぞ!参加者は先着十振りだ!」
ちょうど近くで短刀達が遊んでいたので、審神者の声で一気に定員まで集まった。
他に声に気づいた者達も、その勝負を見物しようと集まり、ちょっとした人だかりになった。
「じゃあ、まんばと長谷部をリーダーにして、チーム作るから。皆それぞれに分かれてくれ」
簡単なジャンケンで、チームはすぐに決まった。
国広のチームには、厚、今剣、前田、薬研、骨喰。
長谷部のチームには、愛染、平野、五虎退、博多、鯰尾がメンバーになる事となった。
「初期刀と初鍛刀が同じチームか。厄介だな」
「そっちこそ、博多に愛染と、足が速いのが多い俊足チームじゃないか」
「ふふん、まけませんよー!」
「お、お手柔らかに……」
「よーし、やるぞー!」
「前は勝ってるからな、今回も勝たせてもらうぜ」
「勝負だ、兄弟」
「へへ。俺も負けないからなー、骨喰」
それぞれが宣戦布告をしながら持ち場につくと、審神者は開始の合図をする為に、両チームの真ん中に立った。
「よし、決まったな。ルールはいつもと同じ。それぞれの山にある、紙の束を留めているホッチキスの針を外して、紐で束ねる。そして遠くにあるあそこの焼却場まで紙を持っていく。それでここまで全員戻ってきたチームの勝ちだ。審判はたまたま焼却場の近くにいた鶴丸が務める」
「俺か!?よーし分かった!任せておけ」
いきなり審判を任された鶴丸は、驚いて自分を指さしたが、すぐに快諾して執務室から数十メートル離れた、焼却場から大きく手を振って見せた。
「じゃあ皆、位置について、よーい始め!!」
審神者の合図で、皆一斉に作業に取り掛かった。
国広チームは、ホッチキスを外すメンバーを、厚と国広に絞って、前田と今剣は彼らの補助で紙を渡して、薬研がバラバラになった紙を紐で束ねた。
そして、この中で一番多く書類を持てる骨喰が、持てるだけの束を抱えて、焼却場へと走っていった。
一方長谷部チームは、書類のホッチキスを全部外してから、運ぶつもりらしく、こちらも勢いは負けていない。
厚程手捌きが速くはないが、唯一次に運びやすくする為に、五虎退が手際よく受け取った紙を束ねて、綺麗な山にしていた。
国広チームが六割程運び終えた頃、長谷部チームはホッチキスの針を全部外し終わり、全員で紙を運び始めた。
平均して国広チームより、機動が上回っている者が多い長谷部チームは、博多や愛染が先陣を切って、焼却場へ走っていく。
長谷部も持てるだけの紙の束を抱えて、焼却場へと駆け出した。
だがしかし、長谷部の隣で走っていた鯰尾が、突然彼の視界から姿を消した。
「鯰尾!?」
足を止める訳にもいかず、走ったまま長谷部が振り返ると、鯰尾は膝がすっぽり嵌まる位の落とし穴に足を取られて、派手に転倒していた。
何が起こっているのか目を走らせると、先陣を切っていた博多と愛染は砂埃でも思い切り被ったのか、身体中砂まみれになっている。
序盤から書類を運んでいた、国広チームの骨喰に関しては、色んな種類の罠にでも掛かったのか、頭に葉っぱや小枝、ふわふわの羽などが沢山ついていた。
「おお?ようやくこっちも掛かったか」
焼却場に立っている鶴丸が、罠にかかった者達を見て、面白そうに声を上げた。
「鶴丸貴様か!」
「実は光坊と主が話しているのを聞いてな、この勝負に簡単な罠をいくつか仕掛けたのさ。もちろん怪我とかはしないように、安全面は考えてあるぜ」
「くそー、今回は鶴丸さんコースかよ!」
鶴丸がグッと親指を立てて、楽しげに話す声を聞いて、焼却場に紙束を置いて戻ろうとして、大量の紙吹雪を浴びた愛染が、大声で悪態をつきながら、再び紙束を取りに走っていった。
審神者がこの勝負を開催する時、それを聞いていた鶴丸が、平坦な何もない地面に、罠を仕掛ける事がある。
地面の色に似せた袋を設置しただけの、簡単な物だが、踏むと砂埃が舞い上がったり、紙吹雪や羽や葉っぱが飛び出したりなど、無害ではあるが、いざ食らうと地味に厄介な代物だ。
ちなみに鶴丸が作ったコースになると、皆盛大に服を汚すので、鶴丸は洗濯当番の者から、毎回怒られていた。
そうこうしている内に、勝負は終盤に入り、国広チームはとうとう全てのホッチキスの針を外し終わり、残りの大きな紙の山を、全員で運び始めた。
一方長谷部達は、全てのホッチキスを外し終えてから運び始めたので、もう一往復しないといけない。
同じチームの博多と愛染は、二つ目の紙の束を焼却場へ持って行き、既に帰路を走っている。
スタート地点に一旦戻ろうと長谷部と鯰尾が走っていると、二回目の書類を運び始める、平野と五虎退とすれ違った。
国広チームもほとんどの者が紙の束を運び終えており、国広が最後の束を取りに走っていた。
罠を踏んで、真正面から砂埃を被りながらも、焼却場に紙を置いた折り返しで、二振りはようやく国広に追いつき、後はどちらが元のスタート地点に、速く戻れる事が出来るかの勝負となった。
国広より足が速い長谷部は、ギリギリで抜かす事が出来たが、最初の小さな落とし穴で僅かに遅れていた鯰尾が、国広と並んでいる。
鯰尾と国広では、国広の方が僅かに足が速い。
鯰尾も頑張ってはいるが、その差はじわじわと開き始めていた。
「うわっ!?」
このまま国広チームが勝つかと思われたが、突然国広が声をあげて、長谷部達の視界から消えた。
その隙に、長谷部と鯰尾がスタート地点に戻り、これで長谷部チームの全員が元に戻った。
一方何が起こったのか分からない国広は、尻餅をついたままポカンとしていた。
鶴丸の罠の位置は見抜いていたし、確実に避けたはずだったが、突然布を引っ張られて、バランスを崩してしまったのだ。
「と、虎君!?」
五虎退が声を上げると、国広の布の中から虎が一匹這い出して、五虎退の元へ走っていった。
勝負の途中、たまたまそこにいた虎が、ひらひらと動く国広の布に興味をひかれて飛びついたため、国広はバランスを崩して転倒してしまったのだ。
「あっはっは!驚きの罠が潜んでいたなあ。立てそうか?総隊長殿」
「……俺も驚いた。ありがとう」
気が付けば国広の近くに立っていた鶴丸が、笑いながら手を差し伸べると、国広は礼を言いながら、鶴丸の手を借りて立ち上がった。
「す、すみません隊長さん。大丈夫でしたか?」
「ああ、大丈夫だ五虎退。ありがとう」
先程の虎を抱えた五虎退が、慌てて国広に駆け寄ると、国広は小さく笑って五虎退の頭を撫でて、元のスタート地点へ戻った。
「よーし、これで全員戻ったな。今回は長谷部チームの勝利だ!」
鶴丸の声で勝負が締めくくられ、勝負を見ていた者達からは歓声が上がった。
「お疲れ様!今日のおやつはミックスフルーツだよ。長谷部君チームの子達は多めにしてあるから、こっちのを取ってね」
「皆土まみれだから、ここで食べてくれ。洗濯も一気にやってしまいたいから、食べ終わったら、着替えてもらえると助かるよ」
タイミングよくおやつを持ってきた燭台切は、長谷部チームの者から順に、ミックスフルーツが入ったグラスとスプーンを手渡した。
同じく一緒におやつを運んできた歌仙は、勝負を見物していた者達の分も持ってきていたらしく、縁側で各々に配り始めた。
「随分と派手に汚したな」
国広が少し離れた縁側に腰かけて、グラスのフルーツを食べ始めていると、彼に声を掛けた長谷部が国広の隣に腰かけた。
「長谷部こそ、顔が砂まみれじゃないか。お互い様だ」
「正面から罠にかかったからな。後で風呂にでも入りに行くさ」
そう言いながら、長谷部は顔に付いた砂を払おうとしたが、フルーツに砂が落ちてしまう事に気が付いて、途中で手を引っ込めた。
「ん」
「?……なんだ?」
長谷部はスプーンを手に持っても、グラスに入った山盛りのフルーツを食べ始めようとはせず、スプーンですくったフルーツを、国広のグラスに移し始めた。
突然自分のグラスにフルーツを移されて、固まっている国広をよそに、長谷部は国広と同じ量になるまでフルーツを移した。
「お、おい長谷部」
「多く貰えるのは嬉しいが、さすがにここまではいらん。お前の方がよく食べるだろう」
「あ、ああ。ありがとう」
いきなり中身を足されて困惑する国広に、長谷部はつんとした表情で言ってのけたので、頭にはてなを浮かべながらも、国広は礼を言って足されたフルーツを食べ始めた。
「あー……んん、ゴホン。……山姥切国広」
やや間があって、もったいぶる様なわざとらしい咳をしたと思うと、長谷部は国広の名前を呼んだ。
「何だ?」
「……あの日の事……俺は感謝している」
一瞬何の事か分からないでいた国広だったが、言った事が恥ずかしくなったのか、赤くなった顔を隠すように、そっぽを向いて、フルーツを頬張り始めた長谷部を見て、国広は小さく笑って、自分もまだグラスに残っている分を食べ始めた。
2019年10月20日 Pixivにて投稿

コメント