無事遠征の任務を終えて、報酬の資材の袋を抱えながら、三振りは本丸への帰路を歩いていた。
強い西日は勢いを失って、今では夕闇を連れて山の向こうへ沈もうとしている。
道を歩きながら、江雪が静かに口を開いた。
「……既に夕餉の時間だというのに、空はまだ明るいですね」
「そりゃあ、夏ですからね。僕はこの位の時間の方が、涼しくて過ごしやすいです。お小夜は夏とはいえ、夜は肌寒くはありませんか?」
隣を歩く宗三に話を振られて、小夜は少し考えるように俯いた。
「僕は余りそう思ったことはないかな……逆に寝ている時は暑くて、寝苦しい日があるよ」
「寝ながらでも、熱中症になってしまう事があるらしいですからね……とはいえ、冷房の風は浴びすぎると、体調を崩してしまう事がありますから、今度主に扇風機を頼めないか聞いてみましょう」
「それもそうですね」
そんな事をぽつぽつと話しながら歩いていたら、あっという間に本丸に着いてしまった。
太陽は山頂から僅かに頭を出している位まで沈み、だんだん薄暗くなってくる。
江雪は日が沈むと眠ってしまう体質なので、江雪は報酬の資材を片付けて先に部屋へ戻る事になった。
「……では、私は資材を倉庫の方へ運んで、そのまま失礼します。主への報告はお願いします」
「分かった。おやすみなさい、兄さま」
「お休みなさい、お小夜。宗三も余り夜更かししてはいけませんよ」
「ええ。明日は出陣ですから、そんな事はしませんよ。お休みなさい兄様」
江雪と別れて、残りの二振りは帰還の報告を審神者にする為に、執務室へと足を運んだ。
執務室の襖を開けると、資料とにらめっこしながらパソコンを操作する審神者が、画面から顔を上げた。
「主、遠征から戻りましたよ」
「……ただいま」
「おっ、おかえり二振り共。江雪は一緒じゃなかったのか?」
江雪の姿が見えない事に疑問を持った審神者は、首を傾げた。
「江雪兄様はもう日が沈むので、資材を倉庫に運んでもらって、そのまま部屋へ戻りましたよ」
「そっか。ごめんな、急に遠征に向かわせて。厚とまんばから、第三部隊のメンバー間の練度差が大きくなっているから、久しぶりに三振りで遠征に出て欲しいと聞いたんだよ。遠征はどうだった?」
「無事成功したよ」
小夜の言葉に審神者は満足げに頷いた。
「うん、お疲れ様。宗三は明日出陣だったな、ゆっくり休んでくれ。小夜は悪いけど、ちょっと手伝ってくれないか?」
「わかった」
「はあ……あなた、また書類を溜めているんですか?」
呆れたような溜息をつく宗三に対して、審神者は乾いた笑い声でごまかした。
「ははは……まあ、今は大丈夫な方だから。今日は終わった書類の封筒詰めを頼みたいんだ。量はそんなにないから、一五分もかからないと思う」
「それくらいなら、僕も手伝いますよ。二振りなら、更に早く終わらせられるでしょう?」
「それもそうだな、じゃあ悪いけど頼むよ」
ニカリと笑う審神者を見て、仕方がないとばかりに、宗三は小夜の隣に座った。
「じゃあ、僕は封筒に書類を入れて宛先を書いていくから、兄さまは封をしていってくれる?」
「分かりました」
審神者が溜め込んだ書類を一気に処理する、最強布陣の一振りだけあって、小夜も書類を捌く速度は速い。
書類提出を担う厚程ではないが、てきぱきと提出先の部署の名前を、書き上げていった。
その手際の良さに倣って、宗三もあらかじめ部屋にあった道具箱からのりを取り出して、小夜から手渡された封筒にそつなく封をしていった。
宗三が言った通り、審神者が思っていたより遥かに早い時間で、封詰め作業は終わった。
「出来ました、これで全部ですか?」
「ああ、助かったよ。あ、この前万屋街行った時に金平糖多めに買ったから、良かったら二振り共食べて」
「え……いいよ」
「お小夜、貰える物なら貰っておきましょう」
「……」
小夜が貰うのを躊躇している内に、審神者は一体どこにあったのか、透明で小さな袋を二つ取り出して、大きなガラス瓶に満杯に入っていた金平糖を一掴みして、それぞれの袋に入れて、小夜と宗三に手渡した。
「はい、これは小夜の分。疲れた時には甘い物だからな」
「あ、ありがとう…」
とぎまぎしながらも、小夜は僅かに頬を染めて、金平糖の袋を受け取った。
「では、明日の出陣に響いてはいけないので、僕もそろそろ部屋に戻ります」
「そっか、兄さまは九時までには寝ないといけないからね」
宗三は夜に九時間は寝ないといけない。
その時間が短くなればなる程、動きが鈍くなって戦いに支障が出てしまうので、宗三は明日出陣がある日は、身支度の時間も考えて夜の九時には寝るようにしていた。
「ええ、お休みなさいお小夜」
「おやすみ兄さま」
微笑んで部屋へ戻っていく宗三に、小夜は小さく手を振って別れた。

コメント