六、鶴丸国永は押入れの中の眠り姫

刀剣乱舞合歓木本丸

 日が昇り、本丸中の建物に朝日が差し込み始めた頃、いつもより早く起きた五虎退は、寝間着のまま二枚のタオルを抱えながら、一緒に起こした五頭の虎達を連れて、鶴丸の部屋へ向かった。
鶴丸の部屋に入るとそこは誰もいない、がらんとした空間だった。
普段本丸を駆けまわって、現地調達をした小道具などを使って、周りの刀達を驚かせようとする賑やかな刀だが、彼の部屋は意外にも物が少なく、自分の装束を入れる為の棚や、書き物をする為の文机に本が数冊ある位の最低限の家具しかなくて、やや殺風景な印象を受ける。
 五虎退は誰もいない事に動揺する事無く、一見誰もいない部屋の奥にある、少しだけ入り口が開けられている押入れに手をかけた。
余り音を立てないように、そろそろと押入れの戸を開けると、そこには仰向けで胸の上で手を組んで眠っている鶴丸がいた。
その静かすぎる寝顔は、息をしているのか手をかざして確かめたくなる程安らかで、彼を見た目通りの儚げな者の様にも見せた。
五虎退はそんな彼の枕元の近くに座って、鶴丸の顔の周りをぐるりと取り囲むように、虎達を誘導させた。

「じゃあ虎くん達、お願いします!」

 五虎退の掛け声で虎達は、一斉に鶴丸の顔を舐め始めた。
顔を舐められている事が分かっていないのだろう、鶴丸は僅かに顔をしかめて顔を逸らしただけだったが、五虎退がそれに追い打ちをかける為に、彼の脇や首をくすぐり始めると、笑いをこらえる様に身をよじらせた。

「うっ……くふっ、っふ……っははは!くすぐったいぞ!」

とうとうこらえ切れなかった鶴丸は、くすぐられた所を庇うようにして、笑いながら飛び起きた。

「おはようございます、鶴丸さん」
「ああ、おはよう五虎退。一日目は君だったんだな、いい驚きだったぜ」

五虎退が鶴丸を舐めていた虎を抱えながら、笑顔で挨拶をすると、鶴丸も笑いすぎて目尻に溜まった涙を拭いながら、同じように挨拶を返した。

「僕もさっき起きたばかりなんです。タオルも持ってきたので、一緒に顔を洗いに行きませんか?」
「おっ、タオルも持ってきてくれたのか、ありがとう。じゃあ一緒に洗面所へ行くとするか」
「はい」

鶴丸は五虎退からタオルを受け取って押入れから出ると、今日の朝餉は何だろうかと五虎退と話しながら、洗面所へを足を運んだ。

「おはようございます」
「おはよう」
「おはよう!五虎退、鶴丸さん」
「おう、おはよう二振共」
「おはよう。鶴さん、五虎退君」

 朝餉を取りに二振が挨拶をしながら厨に入ると、そこには厨当番の燭台切と、先に朝餉を取りに来ていた薬研と乱がいた。
入り口にある濃紺ののれんをくぐると、ふわりと味噌汁の良い匂いがした。

「五虎退、ちゃんと鶴丸を起こせたんだな。いつもこれくらいの時間に起きていたから、正直少し心配していたんだ」
「えへへ、昨日は少し早めに布団に入ったんです。虎くん達にも手伝ってもらいました」
「そっか、初日は大成功だね!」

薬研は五虎退に食器をのせる為のおぼんを手渡し、鶴丸を起こす事に成功した事を、乱は五虎退の頭を撫でて喜んだ。
一方で鶴丸は既に用意されているおかずをおぼんに乗せて、味噌汁を温めている燭台切に近づいた。

「光坊、味噌汁よそってくれるか?」
「オーケー、あれ?鶴さん髪の毛が濡れてるけど、先に顔洗いに行ってきたの?いつもなら朝餉の後にするのに」

顔を洗った時に濡れた毛先に気づいた燭台切が指摘すると、鶴丸が自分の髪の毛の毛先に目を向けると、「ああ」と今気づいたような声を上げた。

「起こされる時に五虎退にくすぐられて、虎達に顔を舐められたからな。ちょうど五虎退がタオルを持ってきてくれていたから、一緒に顔を洗いに行ったんだ」
「そうだったんだね。はい、味噌汁。今日は鶴さんも遠征だっけ?」
「ん、ありがとう。俺も短期の遠征が入っている。光坊も今は遠征に行って貰っているが、思ったよりも早く今の大阪城の部隊の連中と交代になりそうだから、準備はしておいてくれよ」
「分かったよ」
「じゃあ、明日もいい驚きを待ってるぜ」

おかずを全て取り終えた鶴丸は、すれ違いざまに五虎退の頭を撫でながらそう言って、厨から去っていった。

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