「うーん……」
朝食を食べながら、乱は俯いて考え込んでいた。
「ん?どうした乱」
乱の真向いで白ご飯をかき込んでいた薬研は、そんな乱に気づいて声をかけた。
厨で会ってから一緒に朝餉を食べる事になった五虎退も、彼の話を聞くために一旦端を止めた。
「明日はボクが鶴丸さんを起こす番なんだけどさ、どうやって起こそうかなって」
「王子様になるんじゃなかったのか?」
「そうなんだけど、実際どうすれば王子様になれるか分からなくってさ、こういう事にキスは使いたくないしさ」
「……言われてみれば、具体的には分からないな」
「何話し込んでんの?」
頭上からの声に全員が顔を上げると、鯰尾藤四郎と骨喰藤四郎が立っていた。
「おはようございます。鯰尾兄さん、骨喰兄さん」
「おはよう、五虎退」
「おはよう」
五虎退が挨拶をすると二振も挨拶を返して、鯰尾は乱の隣に、骨喰は薬研の隣に座った。
「ねえ。鯰尾兄と骨喰兄はどうやったら、王子様になれると思う?」
「え、王子様?」
「乱は王子様と言うものになりたいのか?」
話が読めない二振は、きょとんと目を丸くして、ひとまず朝餉を食べながら、事のあらましを聞いた。
「成程ね。すごく面白そうだけど、確かに詳しく考えると分かんないかも」
話を聞き終えて、朝餉も平らげた鯰尾は腕を組んでうんうんと頷いた。
「でしょ?何かいい案ないかな?」
「形から入ってみるのはどうだろうか」
「形から?」
食後の緑茶を飲み終えた骨喰の提案に、乱が首を傾げた。
「乱はいつも可愛らしい格好をしているから、王子様の様な格好いい姿になれば鶴丸も驚く筈だ」
「それいいかも!」
骨喰の提案を、乱は名案とばかりに身を乗り出して目を輝かせた。
「俺も骨喰も午後から遠征だから、それまで衣装探し手伝うよ」
「本当?ありがとう!」
午前の遠征で出る薬研と五虎退を見送った後、乱は脇差の兄達と共に明日の為の衣装を探しにいった。
「姫様」
浮き上がった意識の中、鶴丸は何者かに呼ばれた。
「姫様、もう日が昇りました。一緒に朝食へ参りましょう」
長い間色んな所へ渡ってきた鶴丸だったが、今まで自分の事を姫と呼んだ者はいなかった。
しかし、声の主は確かに鶴丸を姫と呼んだ。
「さあ姫様、起きて下さい。起きてその宝石の様な美しい瞳を私に見せて下さい」
柔らかなテノールの声と共に、温かな感触が鶴丸の頬を包んだところで、鶴丸はパチリと目を開くと、目の前に空色の両眼があった。
朝日を背にして押入れの扉を開けた人物の髪は、横髪を残して後ろに1つにまとめられていて、光を吸い込んだかの様にきらきらと淡い黄金色に輝いている。
薄暗い押入れに突然光が入ってきて思わず目を細めたが、目が慣れてくると目の前にいる人物が、まだ少年だと言う事に気が付いた。
惹きつけられる様な笑みを浮かべた少年に、鶴丸は言葉も発する事もなく、思わず見とれてしまった。
「ふふ……な~んちゃって!おはよう鶴丸さん!」
「え……あ、ああ乱か!」
スイッチが切り替わる様に、見覚えのある人懐っこい笑顔で「おはよう」と言われて、ポカンとしていた鶴丸だったが、目の前の美少年が乱だと気づくと、思わず声を上げて起き上がった。
「声も格好もいつもと違うから驚いたなあ、随分印象が変わるもんだ。この服は脇差の兄弟の物か?」
鶴丸が尋ねると、乱は「うん」と頷いてその場でくるりと一回転してみせた。
乱はいつものスカートの装束ではなくて、粟田口の長袖に長ズボンの服になっていて、内番着に身に着けているリボンは、落ち着いた色の髪紐に代わっていた。
「骨喰兄が、奇跡的に型崩れせずに縮んだ服を持ってたから借りたんだ。髪もいつものリボンじゃなくて鯰尾兄の髪紐を借りたの。声は低い方がそれっぽくなると思ったから少し練習したんだ。驚いたでしょ?」
「誰だか分からなかったし、思わず見とれる程驚いたぜ。いや~俺も負けてられないな」
悪戯めいた顔でウインクをする乱に、鶴丸は笑いながら押入れから出てきた。
「よかった、じゃあ一緒に朝御飯に行こう!」
「ああ」
二振は厨へ向かおうしたが、乱は「あ、そうだ」と何か思い出したのか、部屋を出ようとしたところで、鶴丸の方へ振り向いた。
「コホン……お手をどうぞ?お姫様」
小さな咳払いをしたかと思ったら、鶴丸を起こす時と同じ少し低い声で微笑みながら、手を差し出した。
鶴丸もそれに乗っかって、僅かに口角を上げて控えめな笑みを見せて、女性らしい所作で乱の手の上に自分の手を乗せた。
「それではエスコートしてくれるかい?王子様」
鶴丸は乱に手を引かれながら、厨へと向かう廊下を歩いて行った。
「おはよう!」
「おはよう」
「おはよー…って乱!?」
二振りが声を掛けると、おかずを取り終えた厚が挨拶を返そうとすると、いつもと違う格好をしている乱が目に入ると、驚いておぼんを取り落としそうになった。
そんな厚のリアクションを見て、乱と鶴丸はニッとイタズラが成功した子供の様な笑顔で、互いの顔を見合わせた。
「どうしたんだよその恰好?それ骨喰兄のだろ?」
「ふふ、いいでしょ?今日はボクが鶴丸さんを起こす番だったから、骨喰兄と鯰尾兄に服と髪紐を貸してもらったんだ。おかげで大成功だったよ」
乱は自分が身に着けている服を見せつける様にポーズを取って見せて、厚は「へえ~」と未だに目を丸くしたまま、乱と鶴丸の顔を交互に見た。
「あ、そうだ。今日から部隊が交代するんだっけ?」
「え?……お、おう。第四部隊の連中が全員特が付いたからな、今日から第三部隊と第二部隊の合同部隊になる。最初は愛染と今剣の予定にしているけど、乱も準備しとけよ」
「分かってる、いつでも準備万端にしておくよ」
厚はしばらく何を聞かれていたのか分からず、少しの間ポカンとしていたが、すぐに隊長の顔に戻って今の本丸のイベントの進行状態を伝えて、乱に次に備えるように伝えた。
「と言うわけだから、鶴丸さんもうちの部隊連中をよろしくな」
「こちらこそ、よろしく頼むぜ。……それより厚、今日は畑当番じゃあなかったかい?早めに食事を済ませてしまうのをおすすめするが」
「えっ……うわっ、もうこんな時間か!じゃあな、二振共よろしく頼むぜ!」
鶴丸の言葉に厚は厨の時計を見やると、中々遅い時間になっていた事に気づいた彼は、慌てて大広間の方へ小走りに自分の朝餉を持って行った。
「さて、俺達も朝餉をいただくとしようか」
「うん!」
二振は積み上げられたおぼんを手に取って、今日の朝餉を食べる為に用意されているおかずの皿を乗せ始めた。

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