「よーし。じゃあ、今日の遠征は終わりだな」
月もすっかり出た夜、遠征の隊長をしていた厚は皆に解散を告げて、昨日は大阪城の出陣メンバーに入っていたが、一時的に他の刀と交代して同じ遠征部隊になった愛染国俊と一緒に、集めた資材を倉庫へ運んでいた。
それなりに重さのある資材が入った袋は、短刀である彼らの体格には若干大きく、両手で抱えてよたよたと歩くしかない。
「あー、さすが疲れたなー」
「夕方から三往復したからな、早く片付けてとっとと風呂に入ろうぜ」
「だな」
そんな会話をしながら倉庫に着いた二振は、それぞれ持っていた資材を所定の場所に保管した。
「よーっし終わった!って、どうした厚?」
今日の用事を全てやり終えて、さっさと帰ろうとした愛染だったが、倉庫の奥の方へ入っていった厚に気づいて足を止めた。
何をしようとしているのか気になった彼は、しゃがみこんで何か探し始めた背中へ足を向けた。
「なんか探してんのか?」
「いやー、明日の朝鶴丸さんを起こす事になっててさ、何か使えそうな道具ないかなーって探してるんだ」
「へーなんか面白そうだな!」
愛染は顔をパッと明るくさせて、その話に食いついた。
「なあなあ、それオレも一緒にやってもいいか?鶴丸さんにはいっつも驚かされてばっかだったから、たまにはこっちからも驚かせてやりたいんだよ」
「じゃあ、一緒に驚かせてやろうぜ愛染!」
「おう!」
二振は拳と拳を合わせて、歯を見せて笑いあった。
「で、どうする?遠征の合間に考えてたんだけど、正直あんまりいい案が浮かばなくってさ」
「どうせだったら、ドカーンと派手なのがいいよな!」
二振りは倉庫に保管されている物を漁って、使えそうな物を探した。
倉庫に置かれている物は資材以外は基本、すぐには使わない家具や道具しか置かれていない。
中には鶴丸が誰かを驚かせる為の小道具もあって、びっくり箱や空気が入れられていない風船などのパーティーグッズも置いてあった。
愛染が倉庫の更に奥に入ると何かみつけたらしく、厚を呼んで手招きをした。
「なあ、これなんてどうだ?」
「ん?どれだ?」
愛染が指さしたのは、数カ月前の秘宝の里で手に入れた太鼓の余りだった。
「お、なるほどー。でっかい音で驚かせる作戦か。でも他の連中を起こしちまうのは良くないよな」
厚は以前、この太鼓を試しに叩いてみた時に、予想より大きな音がして驚いた事があったのを思い出して、他の寝ている刀達に迷惑が掛からないかと腕を組んで考え込んだ。
愛染はそんな彼の肩に手を置いて、ニッと笑って見せた。
「だったらいいもんがあるぜ?」
「えっ」
「取ってくるからオレが戻ってくるまでに、この太鼓使ってもいいか聞いておいてくれ」
「ええ?お、おう」
笑顔のまま倉庫の外へ出ていった愛染に、厚は意図が分からないまま、彼が言った通りに倉庫を管理している者か、初期刀である国広に許可を貰う為に、一旦倉庫の外へ出ていくことにした。
「ほらよ、これだ」
「んん?なんだそれ、何かの呪符か?」
執務室の方へ歩いていくと、たまたま国広に会った厚はちょうどいいとばかりに彼に許可を貰った。
彼が急いで倉庫に戻ると、既に戻っていた愛染が倉庫の入り口で待っていた。
厚が愛染に彼が持って来たらしい「いいもの」とは何かと聞くと、彼は厚めの和紙に朱色の流麗な文字が書かれている札の様な物を取り出した。
「国行がこの前万屋で見つけたらしいんだけどさ。これを扉に貼っておくと外からも中からも反対側の音が聞こえないらしいんだ。国行が非番の時の昼寝に使っているんだけどかなり効果はいいらしくってさ、一枚貰って来たんだ」
「へえ、そんな便利な物があったのか。けどいいのか?こんないいもの貰ってさ」
「内番一回代わってやるって事で手を打ってもらった。だから遠慮なく使ってくれ!」
「分かった、ありがとう愛染。こっちも許可は貰ったから、後はこの太鼓を運ぶだけだな」
「なにやっているんですか?」
「「うわあーっ!?」」
順調に明日の計画が決まっていく中、突然の別の声に二振は声を上げて飛びのいた。
声の方へ向くと、今日出陣していた筈の今剣が立っていた。
「今剣?どうしたんだよ、いきなり声掛けられてびっくりしたぜ」
「いっしょにえんせいにいっていたものが、ふたふりがふろにこないといっていたので、ようすをみにきたんです。なにかさがしていたんですか?」
愛染が声を掛けたのが今剣が分かると肩を撫でおろして、今剣はそんな彼を見て腰に手を当てて「ふん」と息を吐いた。
「実はさ、明日の朝鶴丸さんを起こす事になってんだけれど、どうせだったら何かで驚かせてやろうと思ってさ。それを愛染と考えてて、一緒にこの太鼓で驚かせようと思ったんだよ」
「鶴丸をですか?へえ~おもしろそうなんで、ぼくもいっしょにやっていいですか?」
面白い事が大好きな今剣が、赤い目を輝かせて愛染同様その話に興味を持った。
「いいけど、明日も出陣だろ?大丈夫なのか?」
「それがきょうのしゅつじんで、じゅうしょうのかたながでて、ていれべやがいっぱいになってしまったんです。あるじさまのていれでそれはなおったんですけど、こんどはあるじさまがねむっちゃいましたので、あしたのおおさかじょうのしゅつじんはなくなったんです」
「そうだったのか。……大丈夫だとは思うけど、寝る前に念のため大将の様子は見に行くとするか。じゃあ、今剣も一緒にやろうぜ!」
「ありがとうございます!」
こうして三振になったメンバーは、鶴丸を起こす為に着々と準備を進めていった。
翌日、鶴丸の部屋を訪れた三振りは、あまり音を立てないように太鼓を運び入れて、愛染は入り口の障子を閉じて持ってきていた例のお札で防音を施した。
「例のお札、貼ったぜ」
「こっちも太鼓の準備はバッチリだ」
「おしいれあけるじゅんびもできましたよ!」
「おーっし、じゃあいくぜ!」
厚の合図で今剣が押入れを開けると、愛染が「いよっ!」と声を上げて、思い切り手に持ったバチを振り下ろした。
ドオンッ
一発大きく太鼓を鳴らすと、愛染はそのまま太鼓を演奏し続けた。
かなり大きな音が鳴ったので、さすがの鶴丸も驚いて飛び起きた。
それを気にすることなく、残りの二振りもあらかじめ待ってきていた楽器を演奏し始めた。
今剣は太鼓と同じく秘宝の里で残っていた笛で軽やかなお囃子を奏でて、厚も鈴を二つ手に持ってタイミングよくそれを鳴らした。
軽快な音楽は気分を高揚させ、祭囃子の様な楽し気な演奏に、寝ぼけ眼のままぼんやりと演奏を聴いていた鶴丸もようやく目を覚ました。
「……ははっ、朝から随分と可愛らしいお囃子隊が現れてくれたもんだ。今日は祭りの日かと思ったぞ」
「おはよう鶴丸さん」
「おはよう!」
「おはようございます鶴丸」
「ああ、おはよう。今日は随分と大所帯で来たんだな」
鶴丸は目を擦りながら、笑って短刀達に挨拶をした。
「今日はオレが鶴丸さんを起こす番だったんだけどさ。愛染と今剣が一緒にやりたいって事で、協力してもらう事になったんだ」
「どうせならドカーンと派手なのがいいから、太鼓で驚かせようって考えたのはオレなんだぜ!」
「それにぼくがいっしょにふえをふいて、おはやしにしようっていったんです!」
厚の説明と、愛染と今剣の得意げな笑顔を見て、鶴丸は「なるほど」と腕を組んで頷いた。
「それにしても今剣が笛が上手いのは知っていたが、愛染が太鼓が上手いのは知らなかったなあ」
「へへっ、実はさ、今度本丸で祭りをする時に太鼓を弾きたくって、こっそり練習してたんだ。バチは主さんに頼んで買ってもらったんだぜ」
そう言って愛染は自分の私物であるバチを見せた。
いつから練習していたのかは分からないが、愛染が持っていたバチはかなり使い込まれていた事が鶴丸には見て取れた。
「そうだったのか、そりゃあ驚いたな」
「他の奴ほどの驚きはないけど、たまにはこういった定番の驚かし方もいいだろ?」
「ああ、十分驚かせてもらったよ」
ニカリと笑う厚の頭を、鶴丸は柔らかな笑みを浮かべてわしゃわしゃと撫でた。
どうせならもう少しお囃子を聞いてみたいと鶴丸がリクエストしたので、部屋の中での小さなお祭りは朝餉の時間ギリギリまでそれは続けられた。

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