燭台切は自室で布団を敷きながら、考え事をしていた。
鶴丸の寝床探しを始めてから数日、鶴丸自身も単独で夜に良さそうな場所を探すようになった。
自分で作ってそのままにしてあった落とし穴に落ちたまま眠ってしまったり、休憩がてら大きな木の根の間に腰かけて寝落ちをしてしまったり、裏庭の倉庫の片隅で膝を抱えて眠ってしまっている所を、毎朝燭台切や薬研が見つけて起こしていた。
部屋に彼を起こしに行くとそこはもぬけの殻で、毎朝思わぬ所で見つかるので正直心臓に悪い。
薬研と意見を交換して彼が眠ってしまう条件は絞れつつあるけれど、それもまだ確証できるものではない。
いつか誰にも見つけられない所で、あの白い太刀はずっと眠り続けてしまうのだろうかと思うと、心配でならなかった。
「あ…」
さあ寝ようと布団に入った所で、燭台切は自分の枕がない事に気が付いた。
「今の僕、恰好悪いな……」
ため息を吐きながら、一度閉めた押入れを開けて奥に転がっている枕に手を伸ばした。
ふと鼻を掠めた香りに顔を上げると、そこである事を思いついて燭台切は鶴丸の部屋に押し掛けた。
「鶴さん!」
「み、光坊?」
鶴丸もこれから部屋を出ようとしていたらしく、燭台切がスパンと障子を開けると、中途半端に空中に手を出したまま固まっている鶴丸にでくわした。
突然の訪問に鶴丸はポカンとした表情のまま、固まっていた。
「鶴さん、今日の夜は外じゃなくて、試して欲しい場所があるんだ。ちょっと来てくれないかい」
「あ、うわっ」
ちょうど近くにある宙に浮いた鶴丸の手を取って、燭台切は彼を自分の部屋に連れてきた。
鶴丸は彼の部屋を見渡したが、特に大きな変化はないいつもの部屋に、燭台切の意図が読めず首を傾げた。
「それで、試して欲しい場所ってのは光坊の部屋なのか?正直俺の部屋と余り変わりないと思うんだが……」
「ううん、こっちだよ」
そう言って燭台切は部屋の奥に進んで彼を手招きをした。
不思議に思いながらも、鶴丸は彼のいる部屋の奥へ足を運んだ。
「ほら、ここだよ」
「……押入れ、か?」
「うん、この中を見て欲しいんだ」
鶴丸は言われたままに押入れの中を覗き込むと、僅かに土の香りがした。
不思議に思ってもう少し中を見てみると、壁の一部の塗装が剥がれて土の壁が剥き出しになっている所があった。
「なるほど、土壁か」
「あ、気づいた?僕の部屋の押入れ、塗装が剥がれて土の部分が剥き出しになっている所があるんだ。最近鶴さんが寝落ちしている場所って結構狭い所が多かったから、土の香りがする狭い所がいいのかなと思ったんだけど……どうかな?」
「じゃあ悪いが光坊、さっそく試させてもらってもいいかい?」
「うん、じゃあ鶴さんの布団運んでくるよ」
その夜、鶴丸は燭台切の押し入れで寝る事になった。
照明を落とした後、鶴丸がちゃんと眠れているか内心かなり心配していた燭台切は、しばらく布団の中で寝たふりをして、真夜中になってから少しだけ押入れの扉を少しだけ開けて、中の様子を覗いてみた。
押入れの中いる彼は、仰向けになって胸元で軽く腕を組んで安らかな顔で眠っていた。
その眠る姿と夜の闇に浮かび上がる白い肌が死人の様で、不安になって思わず彼の口元に耳を近づけたが、ちゃんと規則正しい寝息が聞こえたので、ようやく安心した燭台切はいつもより遅い時間に床についた。
「おはよう。朝だよ鶴さん」
「んん……」
燭台切に軽く肩を揺さぶられた鶴丸は、小さく身じろぎをしたと思うとパチリと目を覚ました。
今まで起きるまで少し時間がかかっていたのに、今日は随分と早い。
燭台切の顔を見てしばらく見つめていた鶴丸だったが、ガバリと身を起こすと「くわっ」と小さくあくびをして、ぐぐっと背中を伸ばした。
「おはよう光坊」
「おはよう、この押入れの寝心地はどうだった?」
「それがな……」
僅かに俯いた鶴丸の表情に、やはり眠る事はできても駄目だったのだろうかと、燭台切も視線が下に下がった。
「すごく良かった」
その言葉に燭台切がパッと顔を上げると、鶴丸が目の前で笑顔を浮かべていた。
「光坊の考えが当たったみたいでな、ちゃんと落ち着いて寝られたし、布団で寝る事も出来たから寒くもなかった。おかげですごく良く眠れた!」
ニカリと歯を見せて笑った鶴丸は、ポカンとしている燭台切の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「光坊のおかげだ、ありがとうな!」
「鶴さん……!……ははっ、どういたしまして」
顕現してからどこかぎこちない笑顔しか見れていなかった燭台切は、ようやく鶴丸のちゃんとした笑顔が見れた気がして、彼の笑顔につられてくしゃりと笑った。

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