八、髭切のレベリング奮闘記

刀剣乱舞合歓木本丸

 数日後、無事に回復した髭切は大阪城の部隊に復帰して、イベントが終わるギリギリで何とか目標の練度まで上げる事が出来た。
あらかじめ鶴丸が言っていた通り、髭切はしばらくの間出陣を休む事になり、本丸の当番など以外は殆ど暇を持て余していた。
大阪城のイベントが終わり、梅も散り始めた頃、髭切が膝丸の様子と見に行くと、初めて離れに来た時と同じ燭台切が、彼らの枕元にある桶の水で手拭いを濡らしている所だった。

「眼帯君、僕も手伝ってもいいかい?」
「ありがとう。簡単に体を拭くだけなんだけど、僕は伽羅ちゃんをやるから、髭切さんは膝丸さんをお願いしてもいいかい?」
「分かったよ」

 燭台切の指示通りに、髭切は膝丸の身体を手拭いで拭いていった。
同じ体格の身体を拭くのは若干苦労はしたが、燭台切が大倶利伽羅の身体を拭いている様子を見て、その真似をしながら何とか終わらせる事が出来た。
髭切が頬を撫でると、膝丸が心地よさそうに頬を摺り寄せた。
その仕草はまだ起きてはいないが、少しずつ彼の身体が起きる為の準備でも始めているかの様でもあった。

「もう少し温かくなってきたら、少しずつ彼らも目を覚ますと思うから……膝丸さんの方が時間はかかってしまうみたいなんだけど、そうしたら内番から慣らしていって一緒に出陣出来ると思うよ」
「そっか」
「髭切さんは、膝丸さんが起きたら何をしたい?鶴さんからは、膝丸さんと同じ練度になって驚かせようと考えているって聞いたけど」
「そうだね、それは鷺丸が言ったとおりだよ」
「さぎまるって……ああ、鶴さんか」

髭切の言っていた名前に一瞬誰の事か分からかったが、燭台切は鶴丸の事だと分かるとすぐに納得した様に頷いた。

「けど、やっぱり弟が起きたら一緒に戦場に行ってみたいなあ。きっと楽しいと思うんだよ」
「そっか、楽しみだね」
「うん。……君はその子が起きたら、いつも何してるの?」
「僕かい?」

髭切の質問に「そうだなあ……」と言葉を零して、燭台切は眠っている大倶利伽羅の髪を撫でた。
その手つきは優しくて、燭台切にとって彼が大事なのが理解できた。

「まずはおはようって言って、一緒にご飯を食べながら、伽羅ちゃんが寝ている間の本丸の事を話しているかな」
「成程ね。じゃあ僕も弟が起きたら、弟に僕がここに来るまでにどんなことをしていたのか聞いてみようかな。他にも色んな話も聞いてみたいし」
「いいね。せっかくだから、僕と伽羅ちゃんと膝丸さんと髭切さんの四振で、この離れでご飯を食べながら色んな話とかもしてみたいな」
「そうだね。僕も君達の話はもう少し聞いてみたいな」

そう言って二振りは同じタイミングで顔を上げた。
互いの目が合ったのが何故かおかしくて、燭台切が小さく噴き出したのをきっかけに、しばらく二振りは小さな笑い声をあげた。


「桜が咲いたねえ、弟」

 髭切は離れの入り口近くの縁側に腰かけて、少し遠くにある桜を眺めながら茶を飲んでいた。
日に照らされた桜は、白に近い淡い桃色で、いつ見ても飽きが来る事はない。
春が始まり先に起きた大倶利伽羅は、少しずつ起きられる時間が増えてきたので、彼は自分の部屋へ戻っていった。
今この離れで眠っているのは膝丸しかいない。
広くなった部屋で、髭切はここ最近時間が許される限りは膝丸の近くで、彼が目を覚ますのを待っていた。

「一緒に寝ていた子は先に起きちゃったよ、大分温かくなったのに弟は寝坊助だね」
「……ん」

 背後から小さな声が聞こえて、髭切はバッと振り向いて膝丸の枕元に近づいた。
しばらく彼の様子を見ていると、膝丸は小さく身じろぎをしたかと思うと、睫毛を震わせてゆっくりと目を開けた。

「……あに…じゃ?」
「やっと起きたんだね。おはよう、膝丸」
「……久しぶりに、兄者の夢が見れるとは…吉夢だな……」

夢だと思っているのか、膝丸は寝ぼけまなこのまま、へにゃりと笑った。
髭切はそんな彼を見て、ニッコリと笑って彼の頬を人差し指で軽く小突いた。

「こーら、僕は春の夢じゃないよ」
「……え?」

小突かれた頬をを押さえてパチパチと瞬きをしながら、膝丸は自分の顔を覗き込む髭切の顔を見上げた。

「夢じゃ、ない……?」
「夢じゃないよ、久しぶりだね。弟」
「……あ」
「ん?」

「あにじゃああああああ!?」

ようやく夢じゃないと気づいた膝丸は、顕現してから一番の大声で叫び声を上げて、それは本丸中に響き渡った。
その叫び声を遠くで聞いていた鶴丸は、「大成功だったみたいだな」と再会を喜んでいるだろう兄弟の事を思って、愉快だとばかりに笑い声をあげた。


 その数日後、離れでは髭切、膝丸、燭台切、大倶利伽羅の四振が、燭台切の用意したおにぎりを食べながら談笑している姿が見られた。
それにいつの間にか鶴丸が加わり、彼らに縁のある刀や、賑やかな気配に酒を持ってくる刀も集まって、終いにはちょっとした宴会になっていた。
そして更に数週間後、ようやく一緒の部隊で出陣ができた髭切と膝丸は、満開の桜も負けるくらいの笑顔で敵を倒しにかかっていた。

2020年5月2日 Pixivにて投稿

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