「おはようございます。既にこんのすけから話は行っているかと思いますが改めて、今回政府からこの本丸の視察の任を任されました、『くろのすけ』と申します。明日の朝までよろしくお願いします」
「おはようございます、今日はよろしくお願いしますね!」
本丸視察当日の朝、背中に小さなビデオカメラを布切れで固定したくろのすけがやってきた。
出迎えを任されていた鯰尾は、しゃがんでくろのすけに目線を近づけて、笑顔で挨拶をした。
「さっそくで申し訳ないのですが、カメラの電源を入れて貰ってもよろしいでしょうか?これでは電源ボタンを押せないので」
僅かに申し訳なさそうな顔をしたくろのすけは、鯰尾に背を向けてカメラを見せた。
「いいですよ。……どれですか?」
「上のつまみを押してもらうと、カメラの左側が開くのですが、その中にある赤いボタンがそうです」
くろのすけを抱き上げて、彼の説明を聞きながら鯰尾がボタンを押すと、カメラの電源が入って向こう側の景色の映像が映った。
「あ、つきましたよ」
「ありがとうございます。……あの、鯰尾様?降ろしていただけませんか?」
抱きかかえたままの鯰尾に、くろのすけは僅かに困った様な声を上げた。
「え?この方が移動しやすいですよ?一緒に行きましょう!」
「え?わっ」
鯰尾がくろのすけを肩に乗せて、くろのすけの背中のビデオカメラを取ると、自分の手に構えて映像を撮り始めた。
「な、鯰尾様。カメラを!」
「だーいじょうぶです、ちゃんと撮りますよ。じゃあ本丸を案内しますね!」
そう言って鯰尾は本丸の中へくろのすけを案内し始めた。
「ではまず、こちらの審神者様に挨拶を」
「あ、主さんこの時間はまだ寝ているんです」
既に日は高く昇っていて、本来なら起きていてもおかしくない時間帯だ。
当たり前の様に言った鯰尾にくろのすけは声を上げようとしたが、事前にこんのすけから聞かされていた本丸の情報を思い出した。
「……ああ、そういえばこの本丸では睡眠が大切なのでしたね」
「そうなんです。そういう体質なんで、寝かせておいてください。って、うわあっ!?」
「わっ!?」
突然鯰尾が驚きの声を上げて身体をのけぞらせたので、くろのすけも振り落とされないように咄嗟に彼の方にしがみついた。
何が起こったのか確認しようと、くろのすけが肩の上で体勢を立て直して見下ろすと、そこにはウゴウゴと廊下を這う白い毛の塊と、うつ伏せになったまま微動だにしない人影があった。
「……って、ああなんだ。鳴狐さんと小狐丸さんか」
「ど、どうされたのですか!?」
「あ、大丈夫ですよ。この二振りめっぽう朝が弱いんです。それにしても、今日はいつも以上に丸まってますね小狐丸さん。着物がなかったらどこが顔か分からないですよ」
慌て始めるくろのすけをしれっと流して、鯰尾はいつの間にか覚えたカメラのズーム機能を使って、丸まって呻くだけの小狐丸の様子を撮影した。
しばらくそうしていると、鳴狐の部屋の方から彼のお供の狐がやって来た。
「これはこれは鯰尾どの、おはようございます。肩に乗っていらっしゃるのはお客様ですか?」
「おはよう。さっき政府から視察にやって来たんだ」
「申し遅れました、わたくし政府から参りましたくろのすけと申します。本日は視察でこの本丸にお邪魔させていただいてます」
「それで、俺がこのカメラで本丸の事を撮影しながら案内しているんだ」
「ややっ、そうでありましたか!鳴狐、政府の方が参られましたぞ!そろそろ起きてください!」
「きつね……るさい」
「頭に響く……静かにせい」
狐が高い声で鳴狐の頭の周りをぐるぐる回りながら声を上げると、二振りから出たとは思えない程の低い声が聞こえてきた。
「これだけ声を掛けてもお二方が起きぬので、こうして喋っているのではありませんか、使いの方に見られておりますぞ!起きて下さーい!!」
「おや?これはまた大きな狐が転がっているなあ、はっはっは」
背後から声がしたので鯰尾が振り向くと、内番着に着替えた三日月が笑いながら歩いてきた。
「あ、三日月さん。おはようございます」
「おはよう鯰尾。……その肩にいるのはこんのすけか?しばらく見ぬうちに随分と日焼けしたのだな」
くろのすけをこんのすけと勘違いしている三日月は、首を傾げて肩に乗っている彼をまじまじと見つめた。
「いえ、わたくしはくろのすけと申します。こんのすけはわたくしの同僚で、本日は政府からの視察に参りました」
「おお、そなたが政府からの使いだったのか。まあ、ゆるりとしていくといい。ふむ、これでは誰かが通る時の妨げになるな。どれ、運ぶとするか」
そう言って三日月は、それなりの体格している二振りを、軽々と脇に抱えた。
「重くないですか?せめて鳴狐さん位なら俺も運びますよ」
「これくらいは平気だ。世話はされる方が好きだが、たまには俺も世話もするさ。鯰尾はそのお客人を案内するといい」
鯰尾が手伝おうとしたが、三日月は笑って彼らを抱えたまま大広間の方へ歩いていった。
自分の腹に三日月の腕が食い込んで、小狐丸が若干苦しそうにしていたが、三日月も軽く手加減は出来るのでまあ大丈夫だろう。
「あれは、大丈夫なのでしょうか?」
「いつもの事なんで心配しないでください。さあ、次行きますよ次!」
彼らの背中を見送りながら心配するくろのすけを連れて、鯰尾も気を取り直してまずは裏庭の方へ向かった。

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