十、くろのすけと鯰尾藤四郎の本丸視察

刀剣乱舞合歓木本丸

「あ、宗三さん。おはようございます!」

 一振りと一匹が裏庭へ向かうと、宗三左文字が大きなじょうろを両手で抱えるように、彼が作った花壇へ水をやっていた。
鯰尾が声を掛けると、宗三は水をやっていた手を一旦止めて、鯰尾の方へ顔を向けた。

「ええ、おはようございます。……その肩にいるのはこんのすけですか?」
「いえ、わたくしは政府からの使いでくろのすけと申します」
「ああ、確か視察がどうとか言っていましたね」

見慣れない存在に僅かに警戒した表情を浮かべた宗三だったが、くろのすけが名乗った事で納得したように頷いた。

「それは紫陽花ですか?」
「ええ、見ごろはもう少し先になりますけれど、そろそろ花は咲きそうですね」

 花の事を聞かれると、宗三は表情を和らげて自分が育てた花の事を話し始めた。
ほっそりとした白い指先で、水滴を乗せてキラキラと光る開花前の紫陽花を、愛でる様に撫でる姿は一枚の絵みたいにカメラに映った。

「あちらの花壇には何が植えられているのですか?」
「あちらの花壇には月下美人、少し遠くの倉庫の壁際には朝顔も育てています。月下美人の苗は、江雪兄様とお小夜と一緒に植えたんですよ」
「そういえば、何で今年は月下美人だったんですか?」

「去年の夜顔も綺麗で好きだったのになー」と言う鯰尾に、宗三は「ありがとうございます」と返して微笑んだ。

「元々去年の花の候補の一つではあったんですけれど、お小夜が三日月と蛍丸と一緒に見てみたいと言っていたので、今年はこの花になったんです」
「なるほど~楽しみですね!」

「あー、悪い鯰尾。ちょっとそこ通してくれ」

 間延びした声が後ろから聞こえてきたので、鯰尾達が振り向くと、大きな一輪車を押す御手杵が、若干危なっかしいバランスで歩いて来た。

「御手杵、花壇に当たらないように気を付けて下さいね」
「大丈夫だって、絶対当たらないように出来るだけ離れて運ぶから」

宗三がその危なっかしさに釘をさすと、御手杵は笑いながらも花壇から若干距離を取った。

「おはようございます御手杵さん、今日は枝の剪定ですか?」
「ああ、隊長から森でかなり薄暗くなっている場所がある所があるって聞いて、日当たりを良くする為に朝から庭当番のみんなと切りに行っているんだ。……けど枝って何であんなに伸びるの早いんだろうな、気が付いたらボーボーだし」
「何ででしょうね?せっかくだから、付いていってもいいですか?」

鯰尾が滅多に言ってこない事に、御手杵は不思議そうな顔をした。

「別にいいけど、そんなに面白くないぜ?」
「今日は色んな所を回るんで大丈夫です!」
「そっか、じゃあ行くか」
「あ、御手杵!枝の剪定に行くなら水筒を持って行ってくれないか?日本号達も忘れてしまったから、全員分お願いしたいんだ」

御手杵達が再び歩き出そうとすると、廊下から顔を出した歌仙兼定が、声を張り上げて彼らを呼び止めた。

「おー分かった。じゃあ、ここに乗っけてってくれ」
「助かるよ。これだと倒れてこぼれるから籠を用意しよう。ちょっと待っていてくれ」

そう言って歌仙は廊下の向こうへと姿を消して、数分もしないうちに戻ってきた。
歌仙が麦茶を入れた竹筒を、倒れないように籠に入れた状態で持ってきた。

「じゃあ、こぼさないように気を付けて運んでくれよ」
「ん、ありがとう歌仙」
「鯰尾の分もあるから、後で飲むと良い」
「俺も分もあるんですか?ありがとうございます!じゃあ行きますか」

鯰尾の分も入れてくれた歌仙の心遣いに礼を言って、鯰尾は一輪車を再び押し始めた御手杵の後ろをついていった。

「そういえば鯰尾。さっきから気になっていたんだが、その肩に乗っているのこんのすけか?黒いけど墨汁でもかぶったのか?」
「いえ、わたくしは政府から本丸の視察に参りました、くろのすけと申します」

くろのすけに対して三日月同様、独特な勘違いをしている御手杵に、くろのすけが改めて彼に向かって自己紹介をして訂正した。

「あ、こんのすけじゃないんだな、悪い。政府からって聞いてたから、てっきり人間が来ると思ってたよ」
「あ、それ俺も思いました」

御手杵の言葉に、鯰尾も人差し指を立てて同意した。

「そういえば何でくろのすけが視察をする事になったんですか?」
「本丸の数があまりに膨大故……そこに全ての政府役人に向かわせる為の人手が無いんです。他のくろのすけも皆、この視察に駆り出されていますが……それでも足りず、わたくしも本丸視察はここが初めてではありません」

そう言ってくろのすけは若干疲れたような、重い溜息を吐いた。

「へえ……本丸って、俺たちの所以外でどれくらいあるんですか?」
「それは機密事項ですので、教えられません」
「まあそうだよな。お、見えた。おーい!!」

遠くに見えたいくつかの人影に向かって、御手杵は大きく手を振った。

「おいおい遅いぞ御手杵、一体どこで道草食ってたんだ」

 大きな枝に乗っかって、大きな刈込ばさみで枝を切っていた日本号が、枝の陰から顔を出した。
上半身だけ脱いだつなぎの内番服は、どこか貫禄があって、ベテランの庭師の様に見える。
そんな彼は若干呆れたような声で御手杵に声を掛けて、ガサガサと大きな音を立てながら枝から飛び降りてきた。

「悪い悪い、歌仙から水筒持って行けって言われたからさ、持ってきたんだ。みんなの分もあるぜ」
「おお、助かった。ちょうど喉乾いてたんだ」

日本号がいた木の下で、切られた大きな枝を運びやすくするために、鉈で小さくしていた同田貫正国が、首にかけた手拭いで汗を拭いながら、御手杵が持ってきた竹筒の水を一気に煽った。

「ぷはっ、あ~生き返った。っと、あいつらどこ行った……あ、いた。おい江雪、来派三振り!お前らも一旦休めよ、ぶっ倒れちまうぞ!」
「はい、頂きます」
「はーい!国俊、行こっ」
「あっ、待てよ蛍!」

 水を飲み終わって口を拭いながら、同田貫が大声で遠くに向かって声を掛けると、大きな脚立に乗って、高枝ばさみで背の高い枝を切っていた江雪左文字が脚立から降りてやって来た。
涼やかな色の長い髪も、長い間日に照らされるとやはり熱いのだろう、彼の髪の毛は後ろに一つにまとめられて、その上に麦わら帽子を被っている。
涼しい表情を浮かべる顔には、僅かながら汗が光っていた。
更にその向こうの茂みでは、長くなった雑草を刈っていた蛍丸が作業を切り上げて飛び出してきて、置いて行かれた愛染国俊は慌てた様に声を上げた。

「ほら、国行もいつまでもへばってねえで、水もらいに行くぞ」
「あかん待って、ずっと雑草むしってたら腰が……国俊持ってきて」
「ええーっ!?……ったく、しゃーねーな。ちょっと待ってろよ!」

 愛染は長時間しゃがんでいたせいで、すっかり腰をやられてへたり込んでいる明石国行の服を引っ張って立たせようとしたが、明石の方は既に立つ元気も無いらしく、地面と仲良くしたまま動こうともしなかった。
早々に諦めた愛染は、彼に呆れた目を向けてながらも、彼の分の水も取りに行った。


「庭の剪定は皆様でされているのですか?」

ついでにと手伝わされる事になった鯰尾が、枝を焼却炉に運んでいる途中で、くろのすけが尋ねた。

「ここでは内番以外に当番ってのが決められていて、洗濯当番とか厨当番とかがあるんですけれど、こういった森の木の剪定とかはさっきの庭当番の刀にやって貰っているんです」
「そうなのですね。ちなみに鯰尾様はどのような当番をされているのですか?」
「俺ですか?俺は五虎退と一緒に、資材とか刀装とかの管理を任されていますよ。量は多いんですけど、実質ひたっすら数を数えてるだけですからね。案外なんとかなるんですよ」
「そうなのですね」

枝を焼却炉に運び終えると、鯰尾は手に付いた土をパンパンとはたいて、一時的にくろのすけが抱えていたカメラを構えなおした。

「じゃあ、そろそろお昼の時間なんで厨に行きましょっか」
「はい」

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