「……では、俺のお勧めの昼寝スポットを紹介する」
「「お願いします」」
カメラ相手に若干緊張した面持ちで棒立ちになる国広相手に、鯰尾とくろのすけはいい声で彼に向かってカメラを回した。
戦闘ではあれがけ勇ましく駆けるのに、今目の前で手と足が一緒になって、ぎこちない行進の様に歩く国広を見て、鯰尾は笑いをこらえる為に口元を手で押さえながらカメラを回していた。
「まずはそうだな……遠くの方から紹介するか。案内も兼ねて畑の方から行こう」
「畑……ですか?」
いきなり畑などと、昼寝からあまりにもかけ離れた単語にくろのすけは困惑したが、国広はそんな事はお構いなしに畑の方へ歩き出した。
木々に囲まれた一本道を通ると、様々な野菜が植えられている広い畑に出た。
収穫の時期はまだ早いが、中々順調に育っているのかが良く分かる。
このまま育てれば、収穫の時期にはおいしい野菜になっているだろう。
更に少し遠い場所には、小さな馬小屋も建っていた。
「ここがうちの畑だ。本丸の近くはほとんど木に囲まれているから、少し距離がある場所に作る事になったんだ。まだ種植えがされていない状態で、耕した直後の土の上で寝るのはふかふかでとてもいい。だが、この時期でここで寝ると野菜を傷つける可能性があるし、直接当たる日差しが強くなってきているから、この時期は余りおすすめ出来ないな」
「えっと……土の上で寝るのですか?」
「ああ、いつも畑で寝る時はこの辺りで寝ている。ここの土はいい土だからな、寝心地はかなりいいぞ」
緊張がほぐれてきたのか、自分のお気に入りの昼寝スポットについて語り始めたら、熱が入り始めたのか表情が生き生きしだした。
若干引き気味になっているくろのすけ相手に、国広は当然の事の様に言いながら、自分がいつも寝ている場所の辺りの土を撫でた。
既に変わった所で寝る事がある彼に慣れている鯰尾は、くろのすけのリアクションを楽しみながら、カメラを回し続けた。
「……と、ここは今のおすすめではないな。もう少し歩くぞ」
「今日は大分ぐいぐい来ますね、隊長さん」
「数は結構あるからな、特におすすめな所だけでも回るのは時間がかかる。行くぞ」
そう言いながら、国広は畑を横切って歩き始めた。
その先はちょっとした坂道になっていて、小さく水が流れる音が聞こえてくる。
「この先って……川くらいしかありませんよ?」
「ああ、行くのは川だからな」
首を傾げる鯰尾にそう言って国広が向かった先は、畑や洗濯でもよく利用する小さな川だった。
青々とした木々の間からの木漏れ日を受けて、水面がキラキラと光っている。
岩にぶつかって小さい水しぶきを上げながら、冷たい水は絶え間なく流れ、透き通ったそれは川の底まで見通せるほどだった。
そんな川の一角に船着き場の様な、木で作られた場所がある。
いくら浅いとはいえ、水場で転んだら怪我をして危ないという事で、庭当番や手が空いていた刀達で協力して造った物だ。
「ここですか?」
「ああ、ここだ。日陰にもなっているし、川の音もうるさすぎず丁度いい音量だ。足を川に浸しながらここで寝転ぶと、これからの暑い季節には最高だ」
「へえ~ここで昼寝なんて考えた事なかったです」
鯰尾はそう言いながら、カメラを持っていない方の手を水に浸して、パシャパシャと手を動かして遊んだ。
「ただし雨が降った次の日は水量が上がって危ないから、ここは日にもよるな。今日は水量は丁度いいが、予想していたよりも水が冷たい。じゃあ、次に行くぞ」
「あっ、待ってくださ~い!」
鯰尾は慌てて水に浸していた手をプラプラとして水を払い、次の場所へと歩き始めた国広を追いかけた。
「次はここだ。皆も寝ているから静かにな」
「ここって大広間じゃないですか?」
「ああ」
足音と声を潜めながら国広に案内された場所は、昼餉の後は昼寝用に開放される大広間だった。
既にいくつかの短刀達が、揃いの掛け布団をかぶってすやすやと眠っている、
今日は庭の木の剪定で疲れたのか、同田貫と江雪を除いた庭当番の連中も、広間の端の方で固まって眠っていた。
「ここでは昼寝の時間を設けているのですか?」
「いや。特に設けている訳ではないんだが、短刀達は昼寝を挟まないと酷い眠気に襲われる体質の者が多くてな。昼餉の後のここを昼寝用に開放したら、自然とこうなったんだ」
「なるほど、そうなのですね」
くろのすけの質問に答えながら、国広は大広間の前の廊下を横切った。
「でも隊長さんここでは余り昼寝しませんよね?何でここがおすすめスポットなんですか?」
大広間で寝ている国広の姿を、ほとんど見た事がない鯰尾は、なぜ国広がここを昼寝スポットに選んだのか疑問に感じた。
「そうだな、皆が昼寝によく使っているからというのもあるが……俺が気に入っているのは、昼寝が終わってある程度ここが空いてきた時だ」
「?」
「皆の昼寝が終わると、使われない掛け布団が増えるだろう?それを一つの山にして思い切り顔を埋めて寝るんだ……別に皆の使用済み布団がいいと言う訳じゃないぞ!?」
思わぬ事をカミングアウトされて、「自分の隊長にそんな趣味が?」と僅かに引いた様子を見せる鯰尾に気づいた国広は、立ち止まって慌てて弁解をした。
もちろん大広間の近くなので、声量は小さめにしてある。
「本当は洗いたてが良いのが本音なんだが……それを俺だけが使ってたら皆に迷惑だろう?だから使い終わった物を使わせて貰っているんだ」
「顔を埋めて寝たいのならば、大きめの布団やクッションを使えばよいのでは?」
もっともなくろのすけの意見に、国広は「それもそうなんだが、違うんだ」と否定した。
「ふかふかのクッションとかでも、もちろんいいんだが……薄い布を何枚も重ねて、そこの山に顔ごと飛び込む……あの瞬間は、最高だぞ。クッションとかふかふかの布団とはまた違った安心感がある」
僅かに頬を染めて拳を作りながら、国広は熱弁した。
「まさか……たまに洗濯物の山に頭を突っ込んで寝ているのって……」
「ああ……兄弟には後で必ず怒られるが……あれはやめられない」
少し恥ずかしげに微笑む目の前の国広を見て、頭の中で大量の洗濯物の山に頭から突っ込んで寝ては、洗濯当番である堀川に怒られながら引きずり出される彼を思い出した。
「へ、へえ~そうなんですね……」
堀川を怒らせるリスクを負ってまでは実行しようと思わないなあと思いながら、自分の昼寝に対して予想以上にこだわりを持っていた国広に、くろのすけと鯰尾は、若干引き気味に相槌を打ちながら、次の昼寝スポットへ向かった。

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