十、くろのすけと鯰尾藤四郎の本丸視察

刀剣乱舞合歓木本丸

「最後はここだ。中々の名スポットだぞ」

 次にたどり着いたのは、本丸の図書室だった。
最初は裏庭の近くにある書庫だけだったのだが、本好きの物が置きに来る本や、すぐには使われない書類などが増えて、すぐに書庫のスペースがいっぱいになってしまったので、書類は書庫に保管して、本などは後に新しく増築した図書室に保管する事になったのだ。
 図書室の中は、日本家屋である本丸の中では珍しい、洋風の要素が入った部屋だった。
一段階暗めの板張りの床に、高くそびえるいくつもの本棚達から隠れる様に、部屋の片隅には洋風の小さなテーブルとそれを囲う様に四つの椅子が置かれている。
本の多さにくろのすけは圧倒されながら、周りを見渡した。
 そして部屋の一番奥にあるもう一つのテーブルには、大倶利伽羅が座っていた。
テーブルに山積みにされた本から、一冊ずつ貸出カードをチェックしては、記録用のノートに書き記す作業を繰り返していた。
国広達に気づいた大倶利伽羅は、ペンを走らせる手を一旦止めて、目だけで彼らを見上げた。

「また昼寝か?」
「ああ。……随分忙しそうだな。大倶利伽羅が寝ている間は、鶴丸が一応管理はしてくれていたんだが」

そう言いながら、国広は彼の手元を覗いた。
長時間作業していたのだろう、彼の指は乾ききっていなかったペンのインクが付いてしまったのか、数か所僅かに汚れていた。

「あいつに頼んでいるのは、本棚の整理とここの掃除だけだ。貸し借りのチェックは俺がやっている。……戻ってきていない本に気づけないからな」
「そうか。……よろしく頼む。奥使ってもいいか?」
「うるさくするなよ」
「ああ」

 短いやりとりをした後で、国広は大倶利伽羅の後ろにある扉を開けて中に入り、鯰尾達もそれに続いた。
扉の中は小さな座敷部屋になっていて、特に何の家具も置かれていない殺風景な部屋だ。
奥の開いた窓からは丁度いい風が流れ込んできて、白いカーテンがたなびいている。
昼寝を終えた短刀達が起きてきたのだろうか、いくつかのはしゃぐ高い声や、手合わせの木刀が打ち合う固い音も聞こえてきたが、それすらも遠くにある物の様に、微かにしか聞こえては来なかった。

「静かな部屋ですね」
「へえ、この部屋ってこんな場所があったんですね。知らなかったなあ」
「ああ、この部屋は大倶利伽羅の許可がもらえないと使えないんだ。静かに寝たい刀用の仮眠室だからな」

くろのすけは率直な感想を言って、この部屋の存在を知らなかった鯰尾は初めて見る部屋に、興味津々でカメラを回した。
国広はそんな彼らにはお構いなしに、畳の上に寝転がって寝る体勢を取り始めた。

「ひとまずおすすめスポットの紹介は終わりだな。……俺は寝るが、鯰尾達はどうする?」
「ん~……せっかくだから、俺も寝よっかな」
「では、わたくしはまだ視察が残ってますので」

国広に倣って、彼の隣に大の字に寝転んだ鯰尾の方から離れて、くろのすけは自分だけ視察の任務を続けようとした。

「せっかくだから、くろのすけも寝ていきませんか?睡眠を大事にしている本丸での昼寝、ちょっとぐらいならいいと思いますよ?」
「……」

 視察を続けようとするくろのすけに、鯰尾が昼寝に誘うとくろのすけは立ち止まって、彼らの懐と部屋の出口を交互に見た。
くろのすけはこの本丸以外の本丸の視察をいくつもやっていた、それも任された本丸の数は多く、たった一匹でまともな休みも無く行い、非常に疲れていた。
今はあぶらあげよりも睡眠が欲しい、丁度そう思っていたのだ。
なので鯰尾の昼寝のお誘いが非常に魅力的に感じて、結果くろのすけはあっさりと折れた。

「そうですね、睡眠を大事とする本丸で睡眠をとるのも、この本丸を知る為にも大事かもしれませんね。……お邪魔してもよろしいですか?」
「いいですよ、じゃあおやすみなさ~い」

遠慮がちにくろのすけは鯰尾の懐に入って尻尾ごと丸まると、寝ようと意識しないうちに、あっと言う間に眠りの世界へと落ちていった。

「……んん……はっ!」

 くろのすけが目覚めた時には、窓から見える空がオレンジに染まっていた。
少しだけと思っていたら、どうやら予想以上に眠ってしまっていたらしい。
慌てて鯰尾の懐から抜け出すと、くろのすけは自分の身体が随分と軽くなっている事に気が付いた。
寝不足がただ解消されただけではない、今までで取ったどの睡眠よりも質の良い物だったらしく、とても深く眠る事が出来たのだ。

「んん……あ、おはようございます。よく眠れましたか?」
「はい、とても良く眠れました。心なしか体が軽くなった気がします」
「よかった、ちゃんと戦う為にも睡眠は大事ですからね」

 くろのすけが動いた事で気づいたのか、鯰尾も目をこすりながら起きて身を起こした。
くろのすけが正直な感想と伝えると、鯰尾は「うーん」と伸びをしながらも、嬉しそうに笑った。

「じゃあ、そろそろ行きますか」
「はい。……山姥切国広様はこのままで大丈夫なのですか?」

まだ眠ったままの国広は、最初に寝っ転がった姿勢から全く変わらない状態で、すやすやと寝息を立てていた。

「ああ、隊長さんの昼寝はいつも長いんで大丈夫ですよ。夕餉の時間になったら、堀川あたりが回収に来ると思うんで。じゃあ行きましょうか」

 再びくろのすけを肩に乗せて、鯰尾はカメラの電源を入れなおしながら、仮眠室を後にした。
既に作業を終わらせたのか、大倶利伽羅が座っていた机は誰もいなかったみたいに、山積みにされていた本も、記録用のノートも綺麗に片付けられていた。

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