十一、初期第一部隊の逆鱗

刀剣乱舞合歓木本丸小説

「は?あっちは三振りだけ?」

 既に試合会場で待機している相手部隊の刀剣男士は、今回の試合に登録されている刀剣男士のリストを見て驚きの声をあげた。

「なんか急に編成を変えたみたいだよ」
「格下の審神者と主から聞いていたから、胸を貸してやろうと思っていたのだが……勝ちを諦めたのか?」
「ま、相手がどうしようが関係ねえよ。要は勝てばいいんだからな」

 試合開始のブザーが鳴り、相手部隊は森の道を駆けだした。
政府の特殊な装置によって作られた仮想戦場は、本物そっくりに作られている。
吹きすさぶ風や、周囲を囲む木々のうっそうとした雰囲気、木陰で湿気を含んだ土の匂い、土を蹴る感覚まで本物そっくりだ。
大小様々な木々と草むらに囲まれた戦場は、剥き出しの土の一本道があるだけだ。
隠れる場所が多いので、圧倒的に数が少ない審神者達の刀剣は、この様な物陰に隠れながら戦おうとしているのだろうかと推測した相手部隊の刀剣男士達は、周囲を警戒しながら森の一本道を進んだ。

「おい、あそこ」

 誰かがあげた声に全員が顔を向けると、遥か前方に三日月がたった一振りで刀も抜かず、完全に隙だらけの状態で突っ立っていた。

「三日月だけ?三振りのはずだったよね」
「他の二振りはどうしたんだ?まさかはぐれたのか?」
「待て、三日月が囮の可能性もある。逆に相手をおびき寄せる為に、まずは遠戦で三日月を攻撃するぞ」

 部隊長の指示で隊員達は遠戦の為に刀装を展開した。
部隊の打刀全員が持っているのは全て投石兵で、三日月に集中して全て当てる事が出来たら、刀装を全て剥がす事が出来るし、上手くいけば三日月を倒しやすく出来る。
単体とはいえ、刀装を多く持つことが出来る三日月は厄介なので、早いうちに倒しておきたいのだ。
 しかし、一本道となると相手に気づくのは相手部隊だけではない。
相手部隊の存在に気づいていた三日月は、戦場に似つかわしくない優美な笑みを浮かべた。
そうして彼が刀をゆっくりとした手つきで抜いて、相手部隊の方へ向けたと同時に、彼の背後から二丁の銃が現れて、乾いた音と共に相手部隊の刀装の一部を破壊した。

「なっ、三日月が銃兵!?」
「いや、彼の背後に短刀が隠れているだけだ!残っている刀装で反撃するぞ!」

 破壊された刀装は遠戦に使う刀装ではない、なので相手部隊の打刀は投石兵で攻撃をした。
無数の石礫が空中で弧を描いて三日月の上へ降り注ぐ、それを見た三日月は持っていた刀装を全て展開した。
展開した刀装は盾兵が三つ、防御をするには絶好の装備だ。
重い音と一緒に大きな土煙が舞い上がり、相手部隊は三日月がどうなったか固唾を飲んで見守った。
土煙がようやく引くと、防御の姿勢を取っていた三日月が無傷の状態で立っていた。
どうやら刀装が剥がれただけで、本刃は無傷だったらしい。

「このような石礫ではつまらぬな、どうかこのじじいと遊んでおくれ」

 そう言った三日月は、強気な笑みを浮かべて、遠くにいる相手部隊へ刀を向けて挑発をした。
その挑発に乗った相手部隊は、一斉に三日月へ襲い掛かろうとした。
しかし、部隊の後ろを走っていた刀が気が付いたら地面に倒れていた。

「なっ……ぐっ!」

 それに驚いていて思わず立ち止まってしまった刀は、足に熱い感覚が走って、体勢が崩れてしまった。
何が起こっているのか分からないでいると、視界の端に癖のある白い髪と、見覚えのある粟田口の制服が見えた。
しかしそちらに意識が向いていたせいで、次の攻撃に気づく事が出来なかった。
首元に何かが巻き付いたかと思ったら、強い衝撃を受けて視界が真っ暗になっていった。
視界が暗くなるほんの少し前、真っ赤な血しぶきの中に、一切の慈悲を感じさせない冷たい紫の瞳が自分を見下ろしていた。


「おい、後ろふたりがやられたぞ!」
「何だって!?」

 慌てた隊員の声に、部隊長の刀は驚きの声を上げた。
背後を見ると、既に二振りの刀が戦線崩壊まで追いやられて、地面に臥していた。

「一体いつの間に……残りのふたりか?」
「物陰に隠れていた五虎退と厚だ。投石の攻撃の時に、三日月に目を向けさせて隠れていたんだ」

 草むらに隠れていた五虎退が、まず相手部隊の刀の足を斬って体勢を崩して動きを鈍らせ、その隙をついて反対側から飛び出した厚が、彼の首元に飛びついて、そのまま喉笛を掻き切ったのだ。

「このまま進んでいたら、またやられかねないな……二振りは五虎退と厚を頼む、俺達は三日月を倒しに行くぞ」

 相手部隊は部隊長の指示によって、二手に分かれる事になった。
その場に残った相手部隊二振りは、草むらに隠れていた二振りを倒そうとした。
短刀二振りは小柄で足も速いのでどこから来るのかが予測しにくいので、背中合わせで彼らが来るのを待ち構えた。
しばらくそうしていると、少し離れた草むらの一角がガサリと動いた。
そちらに意識を向けると今度はその反対側から音がする、二方向から来るつもりなのかと思ったが、驚く事にそこから随分離れた所からも物音が聞こえた。

「えっ!?」
「三日月以外は厚と五虎退だけだろう?どういう事だ!?」
「そんなの分からないよ!」

 音は少しずつ数を増やして動き回り、それは明らかに短刀二振りだけで出している音ではなく、既に相手部隊二振りは、五虎退と厚がどこから来るのか全く分からなくなっていた。
すると一層大きくなった複数の音が、二振りに向かって一斉に迫ってきて、その内の一つ、彼らの背後から五虎退が草むらから飛び出して、身体ごとぶつかる勢いで彼らの足に突進して、体勢を崩させた。
突然の衝撃に膝をついてしまって、彼らは慌てて立て直そうとしても間に合わず、木の上に隠れていた厚に首を一突きされて、あっけなく戦線崩壊となった。


 一方、三日月の方へ向かった二振りは、彼と激しい打ち合いをしていたのだが、徐々に苛立ち始めていた。
先程から二振りがかりで三日月に斬りかかっているのだが、三日月の方からは一切仕掛けて来ないのだ。
攻撃を受け流したり、軽い跳躍で避けたりしてばかり。そしてその間三日月は余裕そうな笑みを一切崩さず、難なく二振りからの攻撃を捌いているのだ。
打ち合い始めてからかなりの時間が経ち、とうとうこの状況にしびれを切らした刀が、大きく振りかぶって三日月に斬りかかった。
しかし、その攻撃はこの長い攻防の中では、いささか精彩を欠いた隙の大きいもので、相手の集中が切れるのを待っていた三日月はそれを見逃さず、その攻撃をかわしながら大きく足を踏み込んで、下から上への逆袈裟で一気に切り払った。
最後に残った刀は、三日月が攻撃した事で出来た隙をつこうと踏み込んだが、それにいち早く気が付いた三日月は、攻撃した時の足と斬り放った刀の遠心力を利用して体を素早く回転させて、相手の攻撃が入る前にその背中を斬りつけて戦線崩壊にした。

「さすがだな、二振り共」
「こっちも囮になってくれて助かったぜ」
「最初に三日月さんが投石を受けてくれたおかげで、簡単に隠れる事ができました!」

簡単に血ぶりをして刀を納める三日月に、厚は身体に付いた葉っぱを払いながらニカリと笑い、五虎退も方々に散っていた虎を引き連れながらやって来た。

「それにしてもかなり長い打ち合いだったな。やっぱり持久戦になると三日月さんは強いな」
「いやなに、俺は待つのは得意だからな。相手の剣先が崩れるのを待っているだけさ」

 この本丸の三日月は、持久戦が得意だ。
本丸屈指の体力と持久力を持ち、戦いながら冷静に相手の動きを見極めて攻撃を流し続け、先に集中力が切れて剣先が鈍り始めた相手に、会心の一撃を叩き込むのだ。
更に盾兵を三つ持った三日月は、防御力が非常に高く、いくら打ち込んでも三日月の剣先は鈍らず、この本丸で一番の強さを誇る国広でも中々倒す事が出来ない程で、戦闘で不利になり撤退する時の殿役を務めたり、遠戦時に盾の役割を買って出る事もあった。

「そういえば、どうして三日月さんの背中に隠れて銃兵を使うように言ったんですか?別に最初から茂みに隠れていても良かったのに」

五虎退が不思議そうな顔をすると、三日月は「はっはっは」と楽しそうに笑った。

「俺には銃兵は扱えないからな、俺が銃兵を放った様に見せて、少々かっこつけてみたかったのだ」
「三日月さんらしいな」

ほけほけと笑う三日月に、厚は小さく息を吐いて笑った。

「さて、俺達は次の試合を観戦するとしよう」

短刀二振りは三日月にやんわりと背中を押されながら、三振り揃って演練の会場の外へ出ていった。

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