「えっ、あの審神者もう二勝してるの?しかもそれぞれ三振りと二振りだけで?」
最後の試合開始前、最後の相手部隊の一振りは、これまでの試合を偵察で見ていた仲間から話を聞いて、困惑の声を上げた。
「さっき見てきたが本当だ。随分と型破りな戦い方だったが、見事なものだった」
「主には落ちこぼれの審神者と聞いていたから、胸を貸してやるつもりだったけど……こちらも余り油断できないかもしれないね」
「あれ、ねえちょっと待って。次の試合、俺達の相手一振りだけだよ!?」
そう言って指をさした何もない平原の遥か向こうに、山姥切国広がただ一振りで立っていた。
彼の仲間は離れた所にいるのだろうかと、彼の周りを確認してもそれらしい人影は見当たらない。完全に一振りで試合に参加するようだ。
「はあ!?ふざけてんのか!俺達を倒すのに一振りだけで十分だって事かよ!」
「こちらも随分と舐められたものだ……ならばこちらも全力で叩きのめすだけだね」
相手が一振りだけという事に、相手部隊の者達は怒りを覚えながら自分の刀を抜いた。
「投石兵、放て!!」
試合開始の合図と共に、相手部隊の刀達は自分達が持っている全ての投石兵が展開され、多くの石礫が放物線を描いて飛んでいった。
轟音と共に大きな砂埃が立ち上がり、互いの姿が見えなくなる。
その砂埃に乗じて彼に奇襲をしかける事もできたが、彼らはそれをせずに砂埃が引くのを待った。
たった一振りでうちの本丸で一番強い部隊を倒そうとしている相手に、下手な小細工は必要ない。
真正面からの純粋な戦闘で、完全に叩きのめそうと考えたのだ。
ふと強い風が吹いて、砂埃があっという間に引いていく。しかしその先には国広の姿は無く、だだっ広い平原が広がるだけだ。
投石で国広がやられたとしたら、その時点で試合終了の合図が鳴る。まだ鳴っていないという事は、国広はまだ倒されていない。
ならば一体どこに隠れているのだろうと思いながら周囲を見渡すと、足元で小さく鯉口を切る音が聞こえた。
その音に誰かが目を向けると、そこに翡翠色に目を光らせる鬼がいた。
一番最初に気づいた者がすぐさま刀を振り下ろしたが、彼の居合の速さはそれを遥かにしのぎ、大きく深く斬りつけられた。
他の者達も仲間が斬られた事で国広の存在に気づき、一気に国広に襲い掛かった。
それを分かっていた国広は、足止めの為に先程斬りつけた刀の身体を、次にやってくる相手へ向かって思いきり蹴り飛ばした。
力の入っていない仲間の身体は重く、かなりの質量を持って他の仲間二振りへと覆い被さり、大きな足止めを食う羽目になった。
そんな足止めを咄嗟に回避した他の刀二振りは、まだ体勢を立て直していない彼の隙を見て、左右挟み撃ちで横凪に刀を振りぬいた。
更に国広が自分の刀と鞘でそれを防御した瞬間を狙って、他の刀ががら空きになっている背中を斬りつけようとした。
それに気づいた国広は、つま先で土を強く蹴って細かい土を飛ばして、背中側にいた刀に一時的な目つぶしを仕掛けて怯ませて、体を捻って防御を解き、その場で独楽の様に回りながら、襲い掛かった相手三振りを刀で斬り、鞘で殴りつけて昏倒させた。
彼が三振りを倒している間に、最初に仲間を蹴り飛ばされて足止めを食らっていた刀二振りは、隙が出来るタイミングを伺いながら彼に駆け寄り、一振りは上から刀を振り下ろして国広に刀で防御をさせて、もう一振りは仲間の陰から飛び出して彼の右腕を斬りつけた。
利き腕を斬りつけられた国広は「ぐっ」と堪えた呻きをあげたが、布を留めている紐をすぐさま解いて、更なる追撃を仕掛けようと前に踏み込んでいた刀に向けて、自分の纏っている布を被せて視界を覆った。
いきなり視界を奪われた刀は何が起こったのかが分からず、僅かの間動きを止めてしまい、それが大きな隙となって国広に布ごと体を串刺しにされて、あっけなく戦線崩壊となってしまった。
最後に残ったのは、国広より頭一つ練度が上の部隊長が一振り。
六対一の圧倒的有利な状態にあったのに、あっと言う間に一対一にまで戦況をひっくり返されてしまった。
最初は一振りで戦おうなんてこちらを侮っているのかと怒りを覚えたが、どうやらそれは冗談ではなかったようだ。
布を取り払って刀を構える国広を見て、相手の部隊長は今までの考えを改めた。
目の前の相手からはビリビリと刺すような殺気が発せられている。
顔を隠す布が無くなった今、剥き出しの殺意は先程とは比べ物にならないくらい、凄味を増していた。
少しでも気を抜いてしまえば、こちらが気圧されて自分の刀を取り落としてしまいそうだ。ジワリと滲む手の汗を感じながら、再度自分の刀を握りなおす。
両者の睨み合いは数分間にも数秒にも感じられた。
一歩も動くことなく、ほんの僅かな挙動にも目を向け、瞬きの瞬間すら惜しい程、互いが互いのこれからの動きを読み合った。
そんな張りつめた均衡が崩れたのは、片方がじりじりと立つ位置を変えようとした時に、近くにあった小さな木の枝がパキリと折れた音がした瞬間だった。
ほぼ同時に両者共駆け出し、殺気と殺気が火花を散らしてぶつかり合った。
防いでは払い、斬り込んでは防ぎ、薙いでは避ける。一撃一撃が重い攻防戦が、目にも止まらぬ速さで繰り出されていた。
もしここで誰かがまだ残っていたのだとしたら、この斬り合いにはとても介入できなかっただろう。
下手にこの中に入ればこちらが斬られてしまう。それ程までに彼らの戦いは激しく、隙が無いものだった。
しかしその攻防は長くは続かなかった。
何度も打ち合って受け続けた衝撃に、刀を持っていた手がだんだんと痺れていき、手に力が入らなくなってきたのだ。
それは国広も相手の部隊長も変わりなく、互いにもうそれ程の回数を打ち合う事はできないのは理解していた。
どちらからともなく後ろに距離を取って、二振りは再度睨み合ってから、最後の一撃を振るう為に同時に駆け出した。
そしてほぼ同時に振るわれた刀は、分かる者にしか分からない程僅かな差で国広の方が速く、その差が相手の部隊長を横凪に斬り裂いた。

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