「あ~スッキリした!!全戦全勝、みんなよくやった!!」
先程の冷え切った表情は嘘みたいな満面の笑顔で皆を労いながら、審神者達は帰路についていた。
「いやー、久しぶりに思い切り刀装を使えたので楽しかったです!」
「鯰尾兄さんすごく生き生きしてましたしね。長谷部さんの投石も、すごくかっこよかったです!」
「ありがとう、五虎退。五虎退もあんなに苦手だった銃兵もちゃんと命中してたし、特訓の成果だね」
「ありがとうございます、虎君達もいっぱい頑張りましたよ」
「確かに、五虎退の虎達も大分攪乱が上手くなったよね。草むらの音の立て方なんて、五虎退とほとんど区別付かなくなったし」
「ふふ、ありがとうございます」
先頭を歩く五虎退と鯰尾は、五匹の虎達を分担して抱えながら互いの戦いぶりを褒め合っていた。
戦う前の急降下していた気分も晴れて、今は興奮や達成感で頬を赤く染めながら、歩いている。
「しかし主、あの対戦相手共こちらに謝罪をするどころか、あの後不正をしたなどと言いがかりをつけてきたと言うのに、何故何もされないのですか」
審神者のすぐ後ろを歩いていた長谷部が、眉間に皺を寄せながら声を掛けた。
「んー?ああ、いいんだよあれは」
全ての試合が終わった後、審神者に負けた相手審神者達は、「俺達がこいつに負けるはずがない、何か不正をしたのではないか」と言い始めたのだ。
まだ言うかと激昂しそうになった長谷部を、満面の笑みで引き止めた審神者は何かをする事も無く、ぎゃあぎゃあ喚く彼らを完全に無視して、その場を後にしたのだ。
そんな審神者の対応に少しばかり不満気な顔をする長谷部に、審神者はケラケラ笑って答えた。
「試合が終わった後のあいつらの顔見たろ?いかにも納得できないって感じでさ。そんなんで形だけの謝罪なんかされたら逆に腹が立つ。あの悔しそうな顔が見られただけで十分さ」
笑ってはいるが、どこか相手を切り捨てるような口ぶりでそう片付けて、審神者は「それに」と付け加えた。
「演練に参加する時。参加リストと一緒に、うちの本丸の事情とかも書いた、医者からの簡単な診断書のコピーも一緒に出してあるから、こちらの事情は理解してもらっている。あいつらが何を言っても相手にもされないだろうさ」
「診断書?そんな物を出していたのですか?」
何も知らなかった長谷部は驚いた様に目を見開いた。
「そうだよな?まんば、厚」
「……気づいていたのか」
「あはは……やっぱり大将にはばれちまったか~」
審神者が立ち止まって振り返り、少し後ろを歩いていた国広と厚に目を向けると、国広は小さくため息をつき厚は困ったように笑った。
「診断書のコピーを持ち出している所を見ていたからね、バレバレだったよ。でもありがとう二振り共、お陰で助かったよ」
「おい、どういう事なんだ貴様ら。説明しろ」
彼らの会話に置いてけぼりにされてしまった長谷部は、国広達に詰め寄った。
「大将にこの演練の知らせが届いた日、オレが近侍だったんだ。その時の大将の様子を見て、また大将の同僚の審神者に会うんじゃないかと思ったんだよ」
「俺達に特がついた頃に、主の同僚の審神者から似たような言いがかりをつけられて、通報されかけた事があっただろう?だから事前にこちらの事情を政府側に知って貰えば、そういった事は防げると思ったんだ」
数年前、本丸が軌道に乗り始めた頃、第一部隊全員ようやく特が付いて自分の体質にも慣れ始めてきた頃、審神者の同僚が率いる部隊と演練で対戦した。
相手の審神者は研修時代とても優秀な審神者だった。
保有している霊力も多く、新人であるというのに彼の刀の練度は、審神者の刀達の練度の倍近くあった。
本来なら到底勝てる状況ではなかったが、審神者の立てた作戦と、皆の息が合った連携で何とか勝利する事ができたのだ。
そこで異議を唱えたのが敗北した審神者だった。
研修を受けていた審神者は、まだ自分の体質を理解しておらず、霊力を消耗しては実技の研修中だとしても構わず眠ってしまっては、講師に叱られていた。
成績も平凡より下の明らかに格下である審神者に、練度も能力も勝っている筈の自分達の刀が負けるはずがないと、そう政府の役人に主張したのだ。
もちろん審神者は不正などをしていない。
普通に戦っては勝ち目のない相手に勝つために、部隊の刀達と何度も話し合っていくつもの策を企てていたのだ。
そして戦闘ではその策を存分に発揮させて、格上の審神者から何とかもぎとった勝利だったのだ。
長谷部を筆頭に皆激昂し、審神者ももちろん反論して不正はしていない事は認められたが、それ以来審神者は参加しないといけない時以外演練には行かなくなってしまった。
その日演練から帰る時に審神者の横を歩いていた国広と厚は、審神者の唇を噛んで泣くのを堪える横顔を、ずっと忘れる事が出来なかったのだ。
同じ事が起こるのを危惧した厚と、それについて相談を受けた国広は、審神者が風呂に向かっている間に執務室へ忍び込み、昔審神者が自分の体質を知る為に受けた検査の診断書をコピーして、演練の受付に国広がそれを提出したのだ。
「……なるほどな、だがまた同じ事があったら俺達にも言え。俺達も主に何かあった時にすぐに対処できるだろう」
「はっはっは、心配性だなあ長谷部は」
皆の一番後ろを歩いていた三日月が、笑いながら長谷部の肩をポンポンと叩くと、彼は苛立ったように声を上げた。
「笑いごとではないぞ三日月!あのような事、何度もあってはたまらん。本来なら圧し切ってやりたい所だ」
「いやなに。あのような輩は、何度でも己の力で返り討ちにしてやれば良い。そうだろう?主」
「確かに、三日月の言う通りだな。……長谷部」
審神者が長谷部に声を掛けると、長谷部は眉間に皺を寄せたまま審神者に向き直った。
「……はい」
「さっきもあの時も一番に相手に怒ってくれたのは、長谷部だったな。……嬉しかったよ、ありがとう」
「っ……い、いえ。主の刀として、当然の事をしたまでですよ」
審神者の少し泣きそうな笑顔に、長谷部から先ほどまで怒りが急速に萎み、どこか恥ずかしくなった長谷部は、審神者に笑い返しながらもふいと目を逸らした。
2020年10月11日 Pixivにて投稿

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