十二、山姥切長義の夜の手合わせ

刀剣乱舞合歓木本丸

 月明かりが柔らかく差し込む、草木も眠る丑三つ時。
小夜左文字は縁側の向こうに、ポツリと人影が立っている事に気が付いた。

指どおりが良さそうな銀の短髪。
月の光を受けて光る水面の様に静かな青い瞳。

先日この本丸に配属された元監査官、山姥切長義がそこにいた。

 真夏に比べて肌寒くなってきたせいか、内番着のジャージの上から、戦装束のストールを肩に羽織って、肩から滑り落ちないように片手でストールを摘まんでいた。
特に何かをしている訳でもなく、ただぼんやりと月を眺めているようにも見えるが、小夜には彼が何か考え事をしているようにも見えた。
それだけなのにその立ち姿は絵になっていて、彼も三日月とはまた違って夜が似合う刀なのだと感じた。
小夜は足音を立てないようにそっと近づいたつもりだったが、気配に聡い彼はすぐに気が付いて、小夜に微笑みかけた。

「やあ。こんばんは、小夜君。いい夜だね」
「こんばんは、山姥切さん。……月を見ていたのですか?」
「あ、ああ。この季節の月は特に綺麗に見えるからね。つい見とれていたんだよ」
「……」

僅かに言い淀んだ返答に、小夜がなんて話を続ければいいか分からず、言葉を返せないでいると、二振りの間に気まずい空気が流れた。
何気ない話から話を広げて会話を続ける程、まだこの二振りは互いに打ち解けてはいなかった。

「……まだ、眠れそうにないですか?」
「……そうだね……今夜も眠れそうにはない、かな」

やや長い沈黙があってからの小夜の問いかけに、彼は少し困ったように眉を下げて笑った。


 特命調査聚楽第の報酬として、山姥切長義が本丸に配属された。
今までにないタイプのイベントである事と、こんのすけと共に監査官を名乗る、いかにも怪しい男が本丸にやって来た事で、審神者と本丸の刀達は皆少なからずとも警戒した。
 任務では長期に渡って現地へ向かわないといけないので、本丸の守りが手薄になってしまうのを防ぐため、審神者は各部隊の隊長を呼び、部隊の編成を考えた。
本丸の刀達は、皆睡眠に関して特殊な体質を持っているので、部隊編成はかなり難航した。
何度もは話し合った結果、洛外、洛中は第二、第三部隊から比較的睡眠サイクルが安定している刀を選び、聚楽第内部からは第一部隊も交えた部隊で進行する事になった。
途中帰城できる所では必ず帰還命令を出して、次の新しい部隊を投入する、それを繰り返しながら調査を進めた。
何度も帰還する本丸の部隊に、監査官は焦れったそうな様子だったが、調査期間ギリギリの所でなんとか優の判定を貰う事が出来た。
 後日報酬として政府から送られてきた刀が山姥切長義だった。
監査官としての彼は、高圧的で近寄りがたい印象だったが、本丸の刀としてここに来てからは人当りが良く、一時期同じ場所にいた旧知の刀も多かった事もあり、すぐ本丸に打ち解けていった。

 しかし、そんな彼はある一つの問題を抱えていた。
本丸に配属されてから数日、彼は一度も睡眠を取る事が出来ていなかった。
適切な睡眠が取れていないと、この本丸では霊力が不足して体が思うように動かなくなっていく。
けれど彼は睡眠をとるどころか、眠気すら感じる頃ができていなかった。
 この本丸では異例の事に、審神者は薬研と協力して調べるも、彼の体質が分からないまま遠征と内番をこなし、それなりの日数が経つ。
長谷部みたいに急に倒れるケースも考えられるので、出陣は一時的に止められていた。

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!

コメント