「はあ……」
「浮かない顔をしているな、山姥切」
「鶴丸殿」
内番が終わり、山姥切が縁側に腰かけてため息をついていると、突然背後から声を掛けられた。
声の方を振り向くと、湯呑みを二つ持った鶴丸国永が立っていた。
「茶を淹れてきたんだ。一緒に飲まないか?」
「ありがとう。いただくよ」
鶴丸は彼に緑茶を淹れた湯呑みを手渡すと、彼の隣に腰かけた。
山姥切は彼から受け取った湯呑をしばらく見つめると、息を吹きかけて中の茶を冷ましてから口をつけた。
湯気がでた緑茶は舌をやけどする程熱くはなく、体の中がじんわりと温かくなる。
ほっとした様に息をつく山姥切の顔を見て、鶴丸も自分の湯呑みに口をつけた。
「中々珍しい組み合わせだな」
「鶯丸殿」
「おっ、鶯丸か」
鶴丸とは反対の方向から、今度は鶯丸が自分の分のお茶と、小皿を乗せたお盆を持ってやってきた。
「茶だけでは物足りないだろう?茶菓子も持ってきたぞ。鶴丸の分もあるから遠慮なく食べるといい」
「おっ、俺の分もあるのか?嬉しいねえ、じゃあ遠慮なく頂くとしよう」
鶯丸は鶴丸とは反対側で山姥切の隣に座り、彼らにそれぞれ茶菓子を乗せた小皿を渡した。
鶯丸が持ってきたのは、みたらし団子だった。
ツヤツヤとしたタレがかかっていて、日の光を反射して光っているそれは食欲を誘い、口の中に唾が溜まる。
口に含むと、柔らかい団子が伸びて、控えめな甘さが広がった。
喉に詰まらせないようによく噛んでから飲み込んで、緑茶を一口飲むとまた違う旨さがあり、山姥切は初めて食べる茶菓子に目を輝かせ、鶴丸と鶯丸はそれを見て微笑ましい気持ちになった。
「鶯丸、うまいなこれ。どこで手に入れたんだ?」
「うまいだろう。平野に教えてもらった万屋街の店で売っていたんだ。偶然にも主の金平糖が売っている店の近くでな、主に途中まで連れて行ってもらったんだ。茶によく合っているだろう?」
「へえ、後で教えてくれないか?」
「俺もまた食べたいな、俺にも教えてくれないかな」
「ああ。今度案内しよう」
鶯丸のみたらし団子を気に入った様子の鶴丸と山姥切に、彼は柔らかく笑った。
「それで、何の話をしていたんだ?」
「まだこれからする所さ、山姥切がどうも浮かない顔をしていたからな」
「成程、『お悩み相談』というやつか」
場が和んだ所で、鶯丸が話の内容を聞き出すと、鶴丸が本題を切り出した。
「『お悩み相談』ね……そんなに顔に出ていたかな」
山姥切は少し困った様に笑った。
「いや、まだ聡い者しか気づいていないだろうな。……まだ、眠れていないんだろう?」
「そうだね、まだここに来てから一度も眠れていない。この本丸では睡眠を大事にしているのだろう?眠る事が出来ない俺は、ここでは随分と異質だなと……そう思ってね。もちろん自分の体質がまだはっきりと分かっていないと言うのもあるけど、それでこれから何かしらの迷惑をかけるのではと思うと……」
彼はそう言うと少し沈んだ表情で、手の中にある湯呑みの中に映る自分の顔を見つめた。
「成程な。……君は俺が顕現して一時期、睡眠不足になっていたのは知っているかい?」
「いや、初めて聞いたよ」
「俺も初めて聞いたな。そうだったのか?」
「ああ。驚きだろう?」
意外そうに目を見開く二振りを見て、鶴丸は目を細めて笑った。
「自分に合った睡眠方法がまだ分かっていないせいで、睡眠が足りなくて調子を崩していてな。あの時は俺も中々気が滅入っていたなあ。あっはっは」
当時の彼にとっては大変な事だったろうに、鶴丸はその事を笑い話の様に話しながら大口を開けて笑った。
「それがまさか五虎退が取り逃したボールを取りに、縁側の下に潜り込んだ事がきっかけで、自分の体質が分かるとは思わなかった。自分の寝床が見つかったのも、光坊がたまたま押入れの土壁を見つけたおかげだったしな」
「……そんな事がヒントになる事もあるのか?」
自分では想像出来ない事に、山姥切は驚いて目を丸くした。
「驚くだろう?案外自分では予想していなかった所や、ちょっとした偶然で正解が見つかる事もあるんだ」
「自分では予想していなかった所、か」
鶴丸の言葉を反復して、物思いにふける山姥切の背中を、鶴丸はバシンと叩いた。
「いっった!?」
「いつかその悩みも、笑い話として誰かに話せる日が来るさ。山姥切」
「まあ、気負わずに肩の力を抜いて色々とやってみるといい。何かあれば相談に乗ろう」
「鶴丸殿……鶯丸殿……ありがとう」
年長の刀二振りに挟まれて、山姥切は力が抜けたような笑みを浮かべた。

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