十二、山姥切長義の夜の手合わせ

刀剣乱舞合歓木本丸

 それから数日、山姥切は自分なりに色んな方法を試してみた。
ストレッチをしてみたり、安眠効果のある香を焚いてみたり、音楽を流してみたり、鯰尾に頼んで一緒に寝て貰ってもみたが、これといった効果は表れなかった。
ならば場所が悪いのだろうかと、倉庫や図書室にある仮眠室、森の木の根っこの窪みや、刀掛けの近くでも横になってみたが、それでも眠気がやってくる事は無く、早々に手詰まりになってしまった。
ため息をつきながら縁側を歩いていると、視界の先に日向ぼっこをしながら横になる腐れ縁がいた。
それを見て少しだけ気分が浮いた山姥切は、うとうととしている彼へ近づいた。

「この季節にここで昼寝すると、そろそろ風邪をひくんじゃないか」
「んにゃっ!?」

いきなり声を掛けられた南泉一文字は、驚いて跳ね起きた。
しばらく目を丸くしてキョロキョロとしていたが、山姥切の姿を見つけると、「何だお前か」と言いながら、もぞもぞと身を起こした。

「ふふっ、かわいい驚き方だったよ」
「せっかくこっちが気持ちよく昼寝しようってのに起こしやがって、何の用だよ。にゃ」

起こした事を悪びれもせず、綺麗な笑みを浮かべる目の前の男に、南泉は昼寝を邪魔されて不機嫌気味になっているのを隠す事なく、彼に向き直った。
不機嫌でもちゃんと自分の話を聞く姿勢を取ってくれる所が、山姥切にとって彼を好ましいと思う所の一つだった。

「俺が眠れなくて悩んでいるというのに、薄情じゃないか。猫殺し君」
「悩んでいる割には、まだまだ元気そうじゃねえか、にゃ。本当に眠れてねえのかよ」
「疲労は溜まっているよ。内番や遠征は行っているから、時々休んではいる。だが残念な事にここに配属されてもうすぐ三週間、全く眠気が来ていない。鶴丸殿や薬研君にも協力はしてもらっているけれど、今の所これといって効果は出ていない、かな」

平気そうに言っているが、その表情はそれなりに滅入っているのが、南泉には見て取れた。

「ふーん……薬研でも中々分からないのか。眠気が来ていないって、眠いってのはわかんのか?にゃ」
「政府にいた時には、最低限の睡眠はとっていたからね。眠いという感覚は分かる。ここに配属される時に主に再顕現してもらったから、肉体やおそらくこの本丸特有の体質も、皆とたいして変わりない筈だよ」
「そういうもんなのか」
「猫殺し君の体質は猫に近いんだったよね」

山姥切がそう尋ねると、彼は不満そうに鼻に皺を寄せて、口をへの字にした。

「不本意ながらな。いくら夜にしっかり寝てても、睡眠が浅いせいで短刀の奴らより長めに昼寝をとらないと後々きつい、にゃ。夕方が一番目が冴えてるから、第三部隊に入る事になったし……お前も化け物斬ったんだから、案外化け物に近い寝方でもするんじゃねえの?」

 南泉がそう言うと、山姥切は山姥がどう寝るのかを想像してみた。
しかし姿は想像出来ても、実際どのように普段暮らしているのかは、分からない。
ましてや山姥が寝る姿なんて、彼には全く想像できなかった。

「……そもそも山姥って、睡眠を取るのかな」
「……だよな。じゃあ、鶴丸みたいに寝ている場所が合ってないんじゃないか?お前の写しにいい場所聞いて来いよ」
「何でそこで偽物くんが出てくるんだよ」

 南泉が国広の事を話題に出すと、途端に彼は不満げな声を出した。
彼とはこの本丸で再顕現した時に、審神者と一緒に顕現に立ち会っていた時くらいにしかまともに会っていない。
互いに避けているという訳でもないが、生活サイクルが合わないのか、彼が出陣に向かっている所か、眠そうにご飯を食べている所か、本丸のどこかで寝ている所しか見た事がない。
『山姥切』の名前の事もあって、彼に気軽に話しかけられる程、国広とは会話も何もかも足りていなかった。

「あいつとは昼寝の場所で話が合うんだよ。実際あいつに教えてもらった場所での昼寝はぐっすり寝られる、にゃ」

 それを聞いて、少し話を聞いてもいいかもしれないと思ったが、国広を見かけた時に彼が寝ていた場所を思い出して、すぐに真顔になってその考えを打ち消した。

「木の上とか、落ち葉で作った山とかが寝心地いいとは余り思えないかな」
「俺もお前が木の上で寝ている想像が全くつかねえ、にゃ」
「「…………」」

 山姥切が南泉の案を否定すると、彼も真顔になってそれに同意して、それきりいい案は浮かばず、しばらく無表情で見つめ合ったまま無言の時間が続いた。

「はあ……出陣したい」
「お前最近そればっか言ってるな、にゃ。気持ちは分からなくもないけどよ」

自分の膝に頬杖をついて、背中を丸めてため息をつく彼に、南泉は「また始まった」と心の中で呟いた。

「遠征だって本丸を回していくには、重要な事だとは分かってはいるけれど、せっかく人の身体を得て本丸に配属されたんだ。出陣して刀を思い切り振るいたいに決まっているじゃないか」
「この本丸で全く眠れていない例はお前が初めてだから、主達も慎重なんだろ」
「そんなの倒れてからまた考えたらいいじゃないか。慎重すぎるのも考え物だよ」
「お前そういう所あるよな、にゃ」

ふてくされたように言う山姥切に、南泉は呆れて彼と同じ様に自分の膝に頬杖をついた。

「……こっそりゲートを使って戦場に行ってみようかな」
「お前ならやりかねないだろうが、やめとけよ。そもそも勝手にゲートを使うのは駄目だろうが、それでいいのかよ元監査官殿」
「終わりよければ全てよしという言葉があるじゃないか。ばれなきゃいいし、怪我しなきゃいいんだよ」
「お前にゃあー」

ぐだぐだな会話をつづけながら、南泉は夕方の出陣に支障が出ない程度の時間まで、山姥切の愚痴を聞き続けた。

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