十二、山姥切長義の夜の手合わせ

刀剣乱舞合歓木本丸

「おい、いつまでそうしてんだよ隊長」
「……うう」

 山姥切と南泉が会話している間、道場では薬研藤四郎と同田貫正国が手合わせをしていた。
しかし、それはある事で集中力がそがれてしまい、長くは続かなかった。
道場の入り口付近で、山姥切の写しである山姥切国広が、道場から外へ顔を出しては引っ込めてを繰り返し、頭を抱えて床に蹲ったまましばらく唸っているせいだった。
集中が切れては手合わせにならないという事で、二振りは一旦休憩する体で、入り口に転がっている布饅頭に声を掛けた。

「えらく重症だな、また声を掛けられなかったのか?隊長」
「……いわないでくれ薬研。分かっているだけに、よけいに傷つく……」

蹲る彼の前に薬研がしゃがみこむと、国広からぐぐもった弱い声が聞こえてきた。

国広は山姥切が顕現してから、ずっと彼に話しかけたいと思っていた。
しかし国広にとって本歌である彼は、憧れに近い存在で遠くから眺めているだけで精一杯の為、話しかける勇気が中々持てず、そのままずるずると日にちが経ってしまったのだ。

「山姥切と話をしてみたいとはずっと思っているんだ……けれど無理だ……山姥切を前にして平然と話ができる気がしない。……ただでさえ今山姥切は自分の事で大変だろうに、俺が話しかけたせいでいらない心労をかけさせたくない」
「そういえば、まだあいつ眠れてねえのか?」

同田貫が尋ねると、薬研は考えるように腕を組んだ。

「ああ。山姥切自身も自分なりに色々と試してはいるみたいなんだが……まだこれといった効果が出た例がない。正直言ってほとんど手詰まりだ、まさかここまで分からないなんてな」
「……」

 薬研の言葉に耳を傾けながら、国広は床に顔をつけたまま、先程盗み聞きしていた山姥切と南泉が話していた内容を思い出した。

「山姥切と一緒に出陣出来ないだろうか……」
「いや無理だろ。隊長と山姥切の練度差考えろよ」
「うう……」

国広の呟きを同田貫はバッサリと切り捨て、国広は再び床に撃沈した。

「隊長、それを除いても今は難しいだろうぜ?まだ山姥切の体質はほぼ全く分かっていない状態だ。長谷部の時はまだ本丸が出来て間もなかったから仕方がなかったが、今では長谷部みたいにいきなり倒れる事も考えられる状態じゃあ、大将もそう簡単には出陣命令を出せないだろう。幸いにも今の所遠征時に眠そうにしている様子はないと、長谷部から聞いているが、いつ何が起こるか分からないからな」

薬研の言葉に、国広は床と仲良くしたままブツブツと何かを呟き始めた。

「わかってる……わかってはいるんだ……。俺は薬研や長谷部みたいに頭が回るわけじゃないし、鶴丸みたいに気軽に声を掛けて相談に乗ってやる事も出来ないし……けど俺にも何かできないだろうか……いや、俺なんかが山姥切に」
「ああ゛~~もう面倒くせえな!うじうじじめじめと!難しい事うだうだ考える位なら、とっとと当たって砕けちまえばいいだろうが!」
「いや砕けたら駄目だろ」

国広から漂う湿度の高い空気に、とうとう限界を迎えた同田貫は彼に向かって怒鳴りつけ、薬研はそんな同田貫の言葉に冷静にツッコミを入れた。

「当たって砕けろ……当たって砕けろか……そうだな、それしかない」
「隊長?」

同田貫の言葉を受けて何かを決断した国広はガバリと起きて、立ち上がった。

「ありがとう同田貫、確かに俺には難しい事を考えるのは性に合わない。全力で山姥切に当たって砕けてくる為に用意してくる」
「いや、だから砕けたら駄目だろ」
「やっとましな顔になったな、まあ上手くいかなかったら手合わせでも、ヤケ酒でも付き合ってやるよ」
「ああ、その時は慰めてくれ。では行ってくる」

すっかり元気を取り戻した国広は、道場から出ていきそのままどこかへ行ってしまった。

「隊長一体どこに行くつもりなんだ?何かいい策でも思いついたのか?」
「さあ、知らねえな。あのままずっとここでうじうじしても何も変わらねえんだから、いいんじゃねえの?ま、隊長が砕けちまったら俺達で慰めてやろうぜ」
「何で砕けるのが前提なんだ?……まあ、いいか」

薬研はツッコむのを諦めて、彼のこれからの行動がどのような結果になるのだろうかと、彼が先程まで丸まっていた場所を見下ろした。

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