十三、沖田組の本丸大掃除

刀剣乱舞合歓木本丸

「長曽祢さん、おはよう」
「おはよう長曽祢さん」
「ああ、おはよう二振り共」

 加州達が毎年の持ち場である玄関の前に向かうと、同じく掃除当番で加州達と一緒に玄関を掃除している長曾祢虎徹が立っていた。
既に掃除の為の用意を始めていたらしく、彼の足元には箒や笹やビニールシートなどの掃除道具が並べられていた。

「下駄箱の靴をどかすために倉庫から道具を持ってきたんだが、これで足りそうか?」
「うん、ばっちり。取ってきてくれてありがとう」

長曽祢が見せた道具をさっと見た加州は、数を確認すると礼を言った。

「じゃあ、さっさとやってしまおうか」

大和守は意気込む為に、自分の内番着のたすきを結びなおした。


 まず三振りは玄関の砂を履き出す為に、下駄箱や玄関口に並べられている履物を出す事にした。
長曽祢が下駄箱の引き戸を開けると、中には出陣用の靴を中心に、隙間なくぎっしりと並べられていた。

「こうして見ると、ここも随分と大所帯になったものだな。おれがこの本丸に来た時は、この靴箱に全員分の履物が収まっていというのに。……時が経つのは早いな」
「本当だね。もう一つ同じ下駄箱があっても、すぐにいっぱいになりそう」

 下駄箱の中と、玄関口に並べられている沢山の履物を眺めた。
草履、下駄、革靴、ブーツ、運動靴など、沢山の刀達が出陣や内番に使う、大小様々な種類の履物が並べられている。
それを眺めて頷きながら感慨深げに呟く長曽祢に、大和守もそれに倣って辺りに並べられた履物を見下ろすと、同じように頷いた。

「はいはい、そこでしみじみとしてないで手を動かそうか。内番用と出陣用で分けないといけないから、間違えないようにね」
「は~い」
「了解した」

加州が二振りの背中を押して急かすと、長曽祢と大和守は下駄箱の靴を運び始めた。

「うわっ。この辺草履ばっかり、これ見分けつくかな」
「えっ、これ誰の?泥だらけなんだけど」
「なあ大和守。この靴片方が見当たらないが、見てないか?」
「ええっと……あ、これじゃない?」

 数の多い靴に時々土を払ってあせくせしながら、玄関の外の少し離れた場所に広げたビニールシートの上に、内番用と出陣用の靴を分けていった。
出陣でも内番でも使う刀が多いので特に草履の数が多く、差があるとしたら大きさが僅かに違う位で、誰の物か見分けを付けるのが難しかった。
ようやく一通り靴を並べ終えた時には、それなりに時間が経ってしまっていた。

「よーし、靴はこんなもんかな。じゃあ俺は、玄関とゲートまでの石畳を履いていくから。安定はまず玄関の表のすす払い、その後でゲートの門のすす払いね。長曽祢さんは門の屋根の掃除をお願いね」
「はーい」
「了解した」

加州は玄関から真っすぐ続く石畳と、その先にあるゲートの門を指さしながら指示を出し、二振りはそれに頷いた。

「大和守、梯子を支えてもらえるか」
「分かった」

長曽祢は屋根の上を掃除するための箒を手に取り、大和守は長曽祢が門の屋根へ上る為の梯子を抱えた。

 加州は玄関の砂を掃き出す為に箒を動かし、大和守は長い笹を振るって、玄関の表の屋根の裏にある蜘蛛の巣や埃を落としていった。
長曽祢は門の屋根の上に上り、柄が短い箒を使って屋根の瓦の一枚一枚を履いて、一年間溜まった土埃を払っていった。
乾いた土埃は箒の動きに合わせて舞い踊り、汚れを払う規則正しい三つの音が、晴れた寒空の下で響いていた。
作業が一通り終わった頃には、もうすっかり昼餉の時間になっていた。

「あ、もう昼餉の時間か。っあー、つかれたー!」

遠くで昼餉を知らせる声を聞いて、加州は石畳を掃いていた箒の手を止めて顔を上げた。
ずっと下を向いて箒を掃いていたので、上体を逸らすと腰に鈍い痛みが走った。

「集中していたら、あっと言う間だったね」

門の屋根から降りる長曽祢の梯子を支えながら、大和守はそれに言葉を返しながら、首を回して上を向き続けて固まった首の筋をほぐそうとした。

「よし、昼を取ったらもうひと頑張りするか。加州達は本丸の見回り任せたぞ」
「うん。長曽祢さんも玄関の仕上げの拭き掃除、お願いね」
「ああ、任せてもらおう」
「必要なのはあとバケツと雑巾だけ?他の箒とか梯子は片付けておいた方がいい?」
「ああ。片付けはよろしく頼む」

加州達は必要ない梯子や箒を担ぐと、長曽祢と一旦別れて倉庫へ道具を片付けに行った。

「そういえば、誰も来なかったね。今の所どこも順調なのかな?」
「そーね、だといいけど。じゃ、さっさと片付けてお昼食べに行こう」

そう言って昼餉を取る為に加州達は足を速めた。


 昼餉を取り終えた加州達は二手に分かれて、本丸で他の持ち場についている刀達の様子を見に行った。
そこで大和守はまず毎年一番時間がかかる庭当番の刀達の様子を見に行く事にした。

「あれ、みんなどこだろう?」

 簡単に本丸の周りの庭を一周したが、肝心の彼らが見つからない。
通常彼らは大人数で一か所に固まって作業をしているのだが、大掃除においては一日に作業をする範囲が圧倒的に広いので、見つけるのが中々難しいのだ。
庭を見ていると、どこも昨日に比べて綺麗になっていたので、既に本丸回りの掃除は終わっているのかもしれない。
庭ではないのなら畑への一本道の方だろうかと、そちらの方へ足を向けると、ガサガサと葉が擦れる音が聞こえてきた。
 もう少し進むと、御手杵や江雪左文字、そして宗三左文字が箒で落ち葉をかき集めて、同田貫正国は大きなちりとりを使って落ち葉を運んでいる。
もう少し遠くでは、愛染国俊と蛍丸は競う様に軍手をはめた手で落ち葉を抱えては、明石国行がしゃがんで口を広げてさせているゴミ袋の中にそれを詰め込んでいた。
長時間寒い外でずっと作業をしているせいか、皆鼻頭がほんのり赤く染まっている。

「お疲れ様、どれくらい進んだ?」
「おお、大和守か。お疲れさん」

 大和守が彼らに声を掛けると、自分の大きな両腕で大量の落ち葉を抱えている日本号が、彼に気が付いて振り返った。
大抵彼は内番の時に、上半身の部分のつなぎは腰元にまとめてあるが、さすがに冬ではそうもいかず、今日の彼はしっかりつなぎを着た上に、首元には黒いネッグウォーマーを身に着けている。
他の刀達も見渡すと、動きやすい服装に着替えた上に、同じように防寒具を身に着けていた。

「本丸の周りの庭の落ち葉はある程度片付いた。あとはこの畑までの道の落ち葉を掃除するだけだ」
「確かに庭はすごく綺麗になってたよ。今年はすごく早いね」
「邪魔な枝とかは、少し前にあらかじめ切っておいたからな。今日は落ち葉を集めるだけにするようにしたって訳さ」
「そっか。正直一番人手がいるかなと思ってたんだけど、今年は大丈夫そうだね」

大和守は去年、この庭掃除が一番時間がかかっていた事を思い出しながら、再び作業をしている彼らを見渡した。

「そうだ、終わったら他の大変そうな所の手伝いにも回って貰ってもいいかな。特に力仕事が必要そうな所とか」
「そうだな。さっきゴミ袋の追加を取りに行っていたら、倉庫の掃除をしていた連中が大変そうだったな。終わったら様子でも見に行くか。他の奴にも言っておこう」
「うんお願い。夕方からもっと冷え込むみたいだから、なるべく早く終わらせたいんだ」
「ああ。晴れていてもこれだけ寒い中で長く外にいたら、風邪でもひいちまいそうだ」

そう言って日本号はいかにも寒いとでも言うように、首をすくめて見せた。

「じゃあ、続きも頑張って」
「おう」

大和守が片手を上げてその場を去ると、日本号もひらりと片手を上げて自分の作業に戻っていった。

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