十三、沖田組の本丸大掃除

刀剣乱舞合歓木本丸

「お疲れー長曽祢さん」
「見回り終わったよ」
「ああ、ご苦労だったな二振り共。こちらも今終わらせた所だ」

 空も大分暗くなってきた夕方頃、見回りが終わった加州と大和守は、互いに見てきた場所の事を伝え合いながら玄関に戻ると、長曽祢がバケツで雑巾を洗っている所だった。
何度も雑巾を洗っていたのだろう、バケツの水はすっかり濁っている。
それとは対照的に、玄関の下駄箱や玄関周辺の床は綺麗に拭かれていて、すっかりピカピカになっていた。

「わあ、さすが長曽祢さんピッカピカだね」
「やっぱり長曽祢さんが雑巾がけすると、段違いで綺麗なんだよな~。何が違うんだろう?」

大和守は綺麗になった玄関を見渡して素直に感心して、加州は感心しながらも顎に手を当てて考えた。

「ははは、玄関は本丸の顔だからな。普通の雑巾がけよりも数段丁寧にしているだけさ」

長曽祢はそう答えながら、満更でもなさそうな顔で笑った。

「そういえば、皆の掃除は終わりそうだったか?」
「そうだなあ……清光とも話してたけど、こっちは倉庫の掃除が大変そうだったかな。かわりに今年は庭当番のみんなの掃除がすごく早かったから、途中から手伝いに行ってくれたみたい。最後にもう一度見に行ったら、外に出していた家具を直す作業をしていたから、今頃はもう終わってると思う」
「俺の所は鶴丸達がやっていた図書室が大変そうだった。予想よりも本が増えちゃったのと、割り振られたメンバーが少なすぎたみたいで。ちょうど道場の掃除が終わった短刀達に手伝いを任せたから、何とか間に合いそうって所かな」
「なるほど、新入りはこれからも増えるだろうが、来年はもう少し割り振りを考えた方がいいだろうな。だが、今年は特に大きな問題も無さそうでよかった」

見回りの内容を聞いて、長曽祢は来年の事を考えながら腕を組んだ。

「みんなお疲れ様、こちらも終わったみたいだね」
「あ、蜂須賀」

声に大和守が振り返ると、蜂須賀が玄関口にやって来た。

「お疲れ蜂須賀、そっちも終わった?」
「ああ。そろそろ終了の時間だからね、呼びに来たんだ」
「ありがとう蜂須賀。主の部屋はどうだった?蜂須賀がいるから大丈夫だと思って、見には行かなかったんだけど」

加州が尋ねると蜂須賀は、「大変だったよ」と言いながら疲れた様に息を吐いた。

「主の部屋は使わないのに「いつか使うかも」って言って、ずっと部屋に置いていた物が多くてね。一つずつ手に持たせて、五つ数えるうちに捨てるかどうか決めさせたよ。迷っている時には考える時間を決めて、きっぱりと決断した方がいいからね」
「あ~、あれなんでか知らないけど、捨てるかどうか迷っている時にいいよね」

 蜂須賀の片付けの方法を聞いて、加州は頷きながら同意した。
蜂須賀の部屋はいつも綺麗に整頓されているが、その理由の一つに、部屋にいらない物を捨てるかどうかを判断するのが上手いという点がある。
実際部屋が散らかりがちの刀の部屋に、蜂須賀のチェックが入ると、その部屋から沢山のゴミ袋ができて、たちまちの内に綺麗になっているのだ。

「おかげでかなりはかどって綺麗になったよ」
「じゃあ、今日の掃除はもう大丈夫そうかな」
「そーね。明日もあるし、今日はこれで終わりにするか。じゃあ俺主の所に行って、明日のゴミ袋の引き取りの手続きの確認してくるから、先行くね」
「ああ。よろしく頼むよ」

 加州がその場を離れると、ふと蜂須賀と長曽祢の視線がかち合い、二振りの間にぎこちない空気が流れた。
しばらく無言の状態が続いたが、蜂須賀はふいと長曽祢から視線を逸らして、雑巾がけが終わった玄関を一通り見渡した。

「……中々綺麗にできているじゃないか」
「え?……あ、ああ」
「道具の片付けぐらいはやっておくから、風呂場の洗面所で手でも洗ってくるといい」
「?……ああ、分かった」

 蜂須賀は長曽祢の足元にある、雑巾が入ったバケツを手に取ると、そのまま外へ出ていった。
普段から用事でも無ければ互いに話もする事もないので、いつものように会話も無くそのまま通りすぎるだろうと思ったら、珍しく蜂須賀から声を掛けられたので、長曽祢はポカンとしながら相槌を打って、そのまま玄関の戸を開けて外へ出ていく彼の背中を見つめた。

「長曽祢さん?」
「あ、ああ。じゃあ手でも洗いに行くか」

残っていた大和守が長曽祢に声を掛けると、長曽祢は我に返って蜂須賀が言った通り、風呂場の洗面所へ向かうことにした。



「それにしても何で遠い風呂場の洗面所だったのかな。別に外に設置されている水道とかでいいのに」
「まあ、蜂須賀がそう言っていたんだ。風呂場で手を洗うとしよう」

 玄関から風呂場へ行くにはそれなりの距離がある。
ただ手を洗うだけなら、彼らが今いる玄関からなら、一旦外に出た所にある水道が一番近かった。
なので、あえて風呂場で手を洗うように言った蜂須賀に、大和守は疑問を浮かべたが、長曽祢は笑いながら風呂場の洗面所へ向かった。
洗面所へ到着すると、今日は洗濯機がある洗い場と、脱衣所と風呂場の掃除を任されていた、洗濯当番である堀川国広が、一振りで自分の手を洗っていた。

「あ。長曽祢さん、大和守さん、お疲れ様!」
「お疲れ、堀川」
「お疲れ様、堀川」

 洗面所に入ってきた二振りに気づいた堀川は、顔を上げると手を洗っていた手を止めた。
長曽祢と大和守も返事を返しながら、堀川の隣の蛇口の前に立った。

「他の皆はどうしたんだ?」
「みんなには掃除道具を片付けに行ってもらいました。モップとか洗剤とか雑巾とか、結構種類が多かったんでお願いしたんです」
「壁とかタイルの黒ずみが酷い所があったと思うけど、洗剤とか足りた?」
「洗剤は何とかなりましたよ。あ、でも来年は狭い所が掃除しやすい細長いブラシみたいなのが欲しいかな。洗濯機の下とかってモップも入らないし、雑巾とかでも中々綺麗に掃除しにくいですから」
「なるほど、今度丁度良さそうな道具を探してみようかな」

そんな会話をしながら、二振りは蛇口を捻って自分の手を洗おうとした。

「あれ?ここの水、湯気が出てる……。わあ、すごく温かい」

 蛇口から出ているのは冷たい水ではなく、湯気が出る程温かいお湯だった。
大和守がお湯に手を差し込むと、寒さでかじかんでいた手がじんわりと温められていき、その感覚に彼の表情もほぐれていった。

「ここの水道に湯が出る機能なんてあったか?」

長曽祢もなぜお湯が出ているのか分からず、不思議そうに首を傾げた。

「ああ。今お風呂場が湯を張っている途中で、風呂場の湯と一緒にここの水道の水も温められているみたいなんです。長曽祢さん手が真っ赤なんで、長めに手を洗って温めた方がいいですよ」
「ああ、そうだな。そうさせてもらおう」
「え?うわ、本当だ。長曽祢さん手が真っ赤だ」

 堀川の言葉に大和守が長曽祢の手を見ると、彼の指先は長時間の拭き掃除で痛々しく真っ赤になっていた。
加州達が見回りに行っている間、ずっと冷たいバケツの水に何度も手を突っ込んでは雑巾を洗って、玄関の拭き掃除をしていたのだから無理もないだろう。
当の長曽祢は自覚していなかったらしく、自分の手を見て今気づいたといった様子で、自分の手を見下ろした。

「……もしかして。蜂須賀はこれを知っていて、長曽祢さんをここに来させたのかな」
「え?」

大和守の思わぬ言葉に、長曽祢は目を見開いて聞き返した。

「だって、僕達長曽祢さんが玄関の拭き掃除をしている事は一度も言っていないのに、特に拭き掃除にうるさい蜂須賀が長曽祢さんに「綺麗にできている」って言ってたじゃない。その手を見て、長曽祢さんがずっと拭き掃除をしていた事に気づいてたんじゃないかな」
「……さあ、どうだろうな」

 大和守の考えが本当なのかは、蜂須賀にしか知らない。
しかしそれが本当だといいなと思いながら、長曽祢は緩く口角を上げながら、温かい湯に自分の手を差し入れた。

2021年2月5日 Pixivにて投稿

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