山姥切国広
「失礼する。隊長殿、部屋の掃除は終わったか」
長曽祢が障子を開けると、国広は自分の文机で何やら作業をしていたようだったが、長曽祢が入ってきた事に気が付くと、自分の作業の手を止めて胡坐をかいていた身体ごと長曽祢の方を向いた。
「今年は長曽祢か。さっき終わった所だ、よろしく頼む」
「ああ。では早速見させてもらおう」
国広の部屋はさほど物は多くない。
長曽祢が見やすいように、あらかじめ開けられていた布団を入れている押入れや、服を入れた箪笥も綺麗に整頓されている。
そして箪笥の陰に隠れる様に置かれた大きな箱の中には、彼が昼寝をする時に使う枕やクッションが沢山入っていた。
それはかなり長い抱き枕から、彼の顔くらいの大きさのクッションまでかなり豊富な種類がそろっていて、どれも国広が自分の寝心地の為にこだわって選んだ物ばかりだ。
他の刀の話によれば、中には彼の手作りのクッションも混ざっているらしい。
一見そっけない部屋ではあるが、たまにまん丸の動物のクッションとかが、この部屋の床に一つ転がっているだけで、随分と印象が変わって見える。
長曽祢が初めて彼の部屋でこのクッションを見つけた時は、普段の彼の印象とはあまりにかけ離れていて、かなり驚いたのはいい思い出だ。
「うん。さすがだな、綺麗に掃除されている。埃が積もっている所もなさそうだな、隊長殿は合格だな」
「そうか、ありがとう」
「ところで、先程から何をしていたんだ?随分と色んな端切れが置かれているが」
彼が先程まで作業をしていた文机の上には、裁縫セットと色々な端切れが散らばっていた。
端切れの布は、色も柄も使われている素材もばらばらで、布の端がほつれて糸が飛び出ている物も混ざっていた。
「昼寝用の枕が一つ大きく破れてしまってな。そのまま縫うだけなら簡単だが、せっかくなら何かひと手間加えようと思ったんだ。それで穴を塞ぐ為のいらない布切れを、皆から譲ってもらったから、これで何の形にして穴を塞ごうか考えていたんだ」
そう言って国広は、自分の傍らに置いてあった、手のひら位の大きさの穴が開いて、中の綿が見えてしまっている緑のクッションを見せた。
長曽祢はそのクッションを見てから、文机に広げられた端切れを眺めた。
どの布も一つではとてもこの大きな穴を塞ぐ事はできそうにない。
形も端切れなので不格好なものが多く、これが別の何かの形にできるのかと、彼には想像する事ができなかった。
「色も大きさもばらばらだが、本当にこれが何かの形になるのか?」
「案外何とでもできるぞ、例えばそうだな……」
国広が少し考える素振りを見せると、比較的色の濃い小さな端切れを何枚か手に取り、それを円形に並べ始めた。
並べる布を入れ替えたり、指先で所々の端切れの角度を変えたりを何回か繰り返していき、最後に並べた端切れの真ん中に黄色い小さな端切れを乗せると、ただの端切れが花の形に変身した。
「そら、ここにこの黄色い布を重ねたら花ができる。あとは鋏で形を整えてやればいい」
「なるほど、上手い物だな……他にもできるのか?」
「ああ、できるぞ。ちょっと待ってくれ」
出来上がった花に感心して長曽祢が更に尋ねると、国広はクッションを入れている箱から、いくつかの枕とクッションを持ってきた。
「この抱き枕とクッションとかは、特に出来がいい。俺の傑作達だ」
そう言って国広が見せたのは、赤い金魚がついた大きな青い抱き枕、白い椿がついた茶色の枕、そして白い鳩がついた黄色の丸いクッションだった。
ただの端切れだった布切れは姿を変えて、最初からそこにいたみたいに枕を彩っている。
「……この金魚はバンダナ、か?」
「よく気づいたな」
並べられた枕達の中で、抱き枕の青を泳ぐ金魚に使われている赤い布の独特の模様に、既視感を覚えた長曽祢は、それを口にすると国広は嬉しそうに口の端を持ち上げた。
「これは乱のバンダナだ。ついこの前破れてしまったらしくてな、もったいないからって譲ってもらったんだ。ちなみにこっちの椿は歌仙が前使っていた割烹着で、こっちの鳩は主のハンカチだ」
そう言われて改めて椿と鳩も見ると、椿の花びらの端に醤油かなにかの染みがうっすらとついているし、鳩には尻尾の所に洗っても落ちなかったのだろう泥汚れが小さく残っていた。

コメント