十五、大倶利伽羅と本丸図書室

刀剣乱舞合歓木本丸

 それから大倶利伽羅はしばらく本の貸し出しのチェックをしていたら、かすかに足音がした。
誰だと思いながら顔を上げると、背の高い本棚を見上げているのは粟田口の銀髪の脇差、骨喰藤四郎だった。
物静かそうな刀で、本をよく読んでそうな印象はあるが、彼は普段鯰尾藤四郎を筆頭に粟田口の兄弟達と一緒にいる事が多く、彼が図書室を利用する所はほとんど見た事がない。
余り来ない刀の来室に珍しいなと思いながら、大俱利伽羅は再び仕事に戻って記録用のノートにペンを走らせた。
 大抵の刀達は、目当ての本を見つけるとその場で読み始めるか、図書室にあるテーブルに座って読み始めるか、本を借りる為に大倶利伽羅に声を掛けたりするものだが、しばらくしても図書室から動く気配が中々消えない事に違和感を覚えたので再度顔を上げると、骨喰は先程立っていた場所から移動して本を手に取っては戻して、辺りをきょろきょろと見回しながら移動するを繰り返していた。
明らかに探したい本を見つけられていない様子に、大倶利伽羅は一旦席を立って、骨喰に近づいた。

「何か探しているのか」
「大倶利伽羅。……実は兄弟が読んでいた本を俺も読もうと思って探しに来たんだが……見つからない」
「本の題名は」
「覚えておいたつもりだったんだが……忘れてしまった。表紙は覚えているから、もう一度兄弟に聞いてから出直してくる」
「待て」

そう言って大俱利伽羅は、引き返そうとする骨喰を呼び止めた。

「その本の表紙の特徴を教えろ」

大俱利伽羅にそう問われて、骨喰は思い出すために顎に手を当てて少し上を見上げた。

「確か……全体的に薄暗い色で、柳の木の下の井戸の近くに黒髪の長い女が立っていた。本はそこまで厚くない」
「……」
 
 骨喰が言った本の表紙の特徴を聞いて、大倶利伽羅は骨喰が見ていた棚から二つ隣の棚を見始めた。
それから何度か宙に指を彷徨わせながら置いてある本を確認すると、その中から一冊の本を取り出して、骨喰に表紙を見せた。
見せられた本を骨喰が確認すると、確かに彼が読みたいと思っていた本だった。

「どうして分かったんだ?」

骨喰は驚いた様に目を丸くして、大俱利伽羅を見上げた。

「それだけ特徴的な表紙の本は少ない。にっかりが表紙買いして、読み終わった後ここに置いていった怪談の短編集だ」
「ありがとう大俱利伽羅。さっそく読んでみる」
「貸出カードに日付を書く。少し待っていろ」

 そう言って大俱利伽羅はテーブルに戻ると、先程自分が使っていた記録用のノートのページを捲り、今日の日付のページに図書室の本に貼り付けている紙のポケットから、二枚入っている貸出カードを取り出して、ノートとカードそれぞれに必要な内容を書き記すと、貸出カードの一枚をテーブルの片隅にある専用の小箱に入れて、本を骨喰に渡した。

「返却期限は二週間だ。それ以上はまた借り直しに来い」
「わかった、ありがとう」

 骨喰は礼を言うと、本を抱えて入ってきた時よりも軽い足取りで図書室を出ていった。
それにすれ違うように、今度は資料の束をを小脇に抱えながらへし切長谷部が図書室に入って来た。
すれ違った骨喰に軽く目を遣ってから、長谷部は大俱利伽羅に話しかけた。

「精が出るな、大俱利伽羅」
「返却か?」
「ああ。これでこのシリーズは全て読み終えた」

 そう言って長谷部がテーブルに置いたのは、大俱利伽羅が読書にはまったきっかけになった小説シリーズの最終巻だった。
長谷部はこの本丸でも数少ない、大倶利伽羅の読書仲間だ。
大俱利伽羅が長谷部係になっている日は、長谷部の部屋で各々読書をする事が多く、本の趣味も合う事が分かってからは、時折私物として持っている本を貸し合う程の仲になっていた。
長谷部がこの本のシリーズを読んでいるのは、大倶利伽羅が冬の眠りに入る前に勧めたからで、同時に審神者が気に入っているシリーズだと教えた事もあって、すぐにこのシリーズを読み始めた。
案の定彼の本の好みに合っていたらしく、それなりの巻数あったシリーズをこの冬の間に全て読み上げてしまったようだ。

「随分と早かったな」
「夢中になって三日で呼んでしまった」
「後半から最後にかけてはあっという間だったろう」
「ああ、見事な伏線回収だった。読んでいて気持ちよかった」
「お疲れ様長谷部、大倶利伽羅。本の返却頼むよ」

 背後から違う声がかかり、二振りがそれに顔を向けると、審神者が長谷部と同じく本を数冊抱えてやって来た。
また最初から小説を読み直しているらしく、審神者が持って来た本も長谷部と同じシリーズの物だった。

「あ、長谷部もそのシリーズ読み終わったのか?」

長谷部が返却した本に気づいた審神者は、分かりやすく表情を明るくした。

「昨日読み終わった所です」
「最後数ページのどんでん返し、すごくなかったか?」
「驚きましたよ。まさか中盤のあの男の行動が伏線になっていたとは思いもしませんでした」
「そう考えると、冒頭の主人公の台詞も印象が変わってくるよな。最初からそのつもりだったって思うと、少し恐ろしさすら感じるというか。それを踏まえて今読み直しているんだけど、また見方が変わってくるんだよな」

少し興奮気味に話している審神者と長谷部のやり取りを聞きながら、大俱利伽羅は返してもらった本の貸出カードを確認して、記録用ノートに再び必要事項を書き記して、本棚に戻せる状態にした。

「これで終わりとなると、少々名残惜しいですね」
「……この小説シリーズ、もうすぐ続編のシリーズが出るらしいぞ」
「なにっ!?」
「本当か大倶利伽羅!」

しみじみと言う長谷部に大俱利伽羅が続編の事を告げると、長谷部と審神者は驚きながら大倶利伽羅に飛びついた。

「それは本当か!?嘘ではないよな!?」
「この小説家さん、もう何年も新刊出してなかったのに!」
「……万屋街の本屋の新刊情報に載っていた」

ふたりの食いつきぶりに若干面食らいながら、大俱利伽羅は情報元を告げると、それを聞いた審神者はすぐさま自分の端末を取り出して、彼が言った情報を調べ始めた。

「うわあ本当だ!!」
「よく知っていたな」

嬉しそうに声を上げる審神者の後ろから、端末の画面を一緒に見た長谷部は感心した様に大俱利伽羅を見た。

「たまたまだ」
「ありがとう大倶利伽羅!さっそく表の紙に書いて箱に入れておくよ!」
「俺も入れておく、ぜひ取り寄せてくれ」
「わかった、参考にする」

嬉しそうに手を振って審神者は図書室から出ていき、長谷部もそれに続いた。
さっき言った通り早速取り寄せ希望の紙を書いているらしく、しばらくの間ふたりの談笑の声が聞こえていた。

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