「図書当番全員招集って、何があるんだ?」
「何か会議でもするのだろうかね」
桜の木の枝にすっかり緑が生い茂った頃、肥前と南海は朝から大倶利伽羅に呼ばれて図書室に向かっていた。
どうやら図書当番全員が呼ばれているらしく、内容もほとんど聞かされていない二振りは、これから何をするのかと各々で思案していた。
「よう!おはようさん二振り共」
「うわっ!?」
「おっと」
いきなり後ろから何者かに飛びつかれて、二振りは思わず数歩前につんのめった。
何とか踏みとどまって誰なのか確かめると、朝には眩しいくらいの白の内番着を身にまとった、鶴丸がカラカラ笑いながら立っていた。
「……ちっ、危ねえだろ。転んだらどうしてくれる」
肥前はさっきの衝撃でほどけかけた首元の包帯を直しながら、じろりと後ろに立つ彼を睨みつけた。
「はっはっは、いやあすまんすまん。中々いい反応をするな君達」
「おはよう鶴丸さん。今日の図書当番の仕事はいつもと違うようなのだが、何か聞いているかね」
「おはよう。そういえば君達は初めてだったな」
「何があるってんだ?」
もったいぶったような言い方をする鶴丸に、肥前はじれったそうに先を促した。
「これから始まるのは、図書当番年内最大の大仕事だぜ」
「全員集まったな」
読書をする為の四人用テーブルに、他の部屋から椅子をさらに二つ持ってきて、図書当番である大俱利伽羅、鶴丸、髭切、膝丸、肥前、南海の六振りが集まった。
テーブルの真ん中には、大俱利伽羅が図書室の入口に設置していた白い箱が置いてある。
「おい、何が始まるってんだ」
「ここに置く新しい本の希望を募って二週間が経った。今からするのはその集計だ」
そう言いながら大倶利伽羅は箱の蓋を開けて中身をテーブルに広げた。
箱から出てきたのは大量の白い紙で、それぞれ皆がここに置いてほしいと思う本の題名が書かれていた。
「随分沢山集まったねえ」
「去年も中々の量だったが……今年はそれを上回る量だな、これは骨が折れそうだ」
テーブルに転がる沢山の紙を見て、髭切はほわほわと笑い、隣に座る膝丸は彼とは対照的に少し難しそうな顔をした。
「紙はざっと五十といった所か?」
「紙に数冊分の希望を書いている奴もいるから、実質希望数はこれの二、三倍だ」
「そんなにあるのかよ」
大俱利伽羅の言葉に肥前は少し驚いて、もう一度紙の山を見下ろした。
「伽羅坊、今年の予算はどれくらいなんだ?」
「今年は少し予算を増やして貰えた。だが今年は予想以上に希望が来たから全部の購入は難しいだろう」
「こりゃ金勘定が大変そうだな~……」
毎年本を手に入れる前に金額を試算する鶴丸は、首を捻りながら腕を組んだ。
「これをどうするのかね」
「まずはそれぞれに書かれている本の題名を確認して、紙に起こしていく。同じ題名で複数票があったものは、正の字を書いていく。ここに置く本を決める話はそれからだ」
「よし。じゃあ俺は同時に本の値段をざっと調べていくから、集計は任せたぜ」
「ああ頼む」
鶴丸は本の値段を調べる為に、共用のノートパソコンの電源を入れて用意し始めた。
「時間がかかる作業だ。さっさと始めるぞ」
大倶利伽羅の言葉で、皆一斉に作業に取り掛かった。
「なんだ?この辺りの紙、同じ題名ばかり書かれているぞ」
「どれどれ?」
肥前が持っている紙の束を、髭切と膝丸が覗き込んだ。
「ああ、これ鬼をスパスパ斬る漫画だよね。僕も面白そうだったから希望出したけど、この主人公の子の声が僕に似ているみたいで、たまに真似してってせがまれるよ」
「ん?……ああ、俺もこれに出てくる登場人物の真似をさせられた事があるな。粟田口の刀達だろうか」
「まあこれだけの票数があれば確定だろうね」
「あんたら漫画とか読むんだな……」
肥前は源氏二振りの顔を見て、彼らが漫画を読む姿を想像してみたが、全く想像できなかった。
「よし、じゃあ早速それの値段を調べるとしようか。しかし俺もその漫画は知っているが、今かなり人気のシリーズだろう?値段を見る限りは十分揃えられるようだが、全巻揃えられるのか?」
鶴丸が人差し指だけで手際よくキーボードを叩き、本の値段を調べながら首を傾げた。
普段から事務作業をしている審神者や長谷部のように、全ての指でキーボードを叩くのは難しいらしく、ずっとこの打ち方でパソコンを使いこなしている。
それでもそれなりの早さで文字を打てているので、ある意味器用な刀である。
「在庫が無ければ予約する。絶版になる事はまずないだろうから、時間はかかれど必ず揃うだろう」
「わかった。じゃあ残りの金額はこれくらいだな。他の本はどうだい?」
鶴丸が決まった漫画の値段を調べ終えた頃には、ある程度の数の本の題名が書き連ねられていた。
漫画や小説が大半だったが、歌集、戦術などを綴った古書、筋トレ方法の本、家庭用レシピ、鳥の図鑑、将棋の指南本、手品のトリック本など、中々癖のある本が揃っていた。
その中には審神者と長谷部、そして大倶利伽羅がこっそり書いて箱に入れた新作の本もあった。
「随分と豊富な分野で希望が来るのだね」
「筋トレとかレシピとかはまだ誰が出したのか見当つくけどよ……誰だよ手品の本とか希望出したやつ」
「それは俺だ!」
「あんたかよ」
肥前が手品の本の題名が書かれた紙を指の先でつまんでひらひらと遊んでいると、鶴丸がいい笑顔で自己申告した。
「宴会芸でもするのか」
「最近驚きのネタに困っていてな。幅を増やす為に参考にしようと思ったんだ。もちろん初心者向けのちょっとした手品が入っている本を選んだつもりだから、君にもすぐできると思うぜ」
「やらねえよ」
「それは何か罠とかに応用できそうかね」
「おっ、南海は興味あるかい?じゃあ今度一緒にやってみようじゃないか」
「後が面倒だからやめろ」
そんな話をしながらも、彼らはようやく集計を終わらせる事ができた。
「ざっとこんなものかね」
「すげえ量だな……ああ~疲れた」
「お疲れ様、やっと終わったね」
「まだ終わっていないぞ兄者、これからどの本をここに置くのか決めるのだから」
「ああそれはもう少し待ってくれ膝丸、もう少しで全部調べ終わる」
集計が終わったリストを南海は感心したように見下ろし、肥前は作業が一段落して凝り固まった肩を回してほぐした。
向かいの髭切は既に終わったつもりで席を立とうとして、膝丸はそれを引きとめた。
その近くで鶴丸はパソコンを操作しながら、残り数冊の本の価格と合計の金額を調べ、その隣で大倶利伽羅は無言でこの図書室に置く事が既に決まっている本の題名に印をつけていた。
「ようし、終わったぜ」
鶴丸がパソコンを閉じて、最後の本の題名の隣にその本の価格を書き込んだ。
「全部の金額も計算してみたんだが、やっぱりここのリストにある本を全部買うには少しばかり足りなさそうだな」
「もう少しだったら、何とかもう少し予算増やせないの大福丸?」
「兄者、彼の名前は鶴丸殿だ」
「おや?そうだったっけ足丸」
「俺は膝丸だ!もう少し斬った範囲を絞ってくれ兄者!」
「あっははっ!今日のおやつは大福だったんだなあ髭切」
鶴丸の名前を間違えた髭切に膝丸はすぐに訂正を入れたが、自分の名前も間違われて眉をㇵの字にして少し情けない声を上げた。
温かい季節でなら日常的に見られる筈のやり取りを、数カ月ぶりに見て鶴丸は楽し気に笑った。
「けどまあ、さすがに増やして貰った予算を更に増やしてもらうのは無理だろうな。どうしたものかねえ」
本題に戻った鶴丸は難しそうな顔をしながら、背もたれに凭れ掛かって腕を組んだ。
「この辺りの漫画と小説は古本で賄えないだろうか。古本なら新しい物よりいくらか安く手に入るだろう」
膝丸がまだここに置くか決まっていない小説と漫画を指さしながら提案をすると、ずっと無言だった大俱利伽羅が口を開いた。
「本の状態によるだろうな。いくら安くても古本は破れていたり、前に読んでいた者が落書きをしている事がある。だが状態が良い物が手に入ったら、何とかなるかもしれない」
「決まりだな。じゃあ買い出しは頼んだぜ伽羅坊、膝丸」
「ああ」
「ああ、任された」

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