十六、とある本丸の連隊戦前日

刀剣乱舞合歓木本丸

 昼餉が終わった厨では、外にも負けない程の熱気が立ち込めていた。
厨にある四つのガスコンロには、一つの鍋と三つの大型のやかんが火にかけられていて、湯が沸騰した事を知らせる全てのやかんの笛が、甲高い悲鳴の様に一斉に鳴り響いた。

「わあっ!?石切丸さんそっちのやかん止めて!」
「えっ!?ええっと……」

 鍋の中をへらでかき混ぜていた燭台切光忠は、慌ててやかんの火を止めながら、隣の洗い場に立っていた石切丸に声を掛けた。
洗い場で大量の麦茶を入れておける大きなウォータージャグを洗っていた彼は、いきなりの指示にあたふたしながらも、一番近くで鳴っているやかんの火を止めた。
ようやく全てのやかんの火を止めて笛の音が厨から止むと、二振りは安堵の溜息をもらした。

「「……はあ~」」
「ありがとう石切丸さん、助かったよ」
「いやいや、危なかったね。お湯を沸かした後はぱっく?を入れるんだっけ」
「そう、やかん一つにパックを五つ入れるんだ。熱いから気をつけてね」

 燭台切から渡された麦茶パックを受け取った石切丸は、熱が伝わってまだ熱いやかんの蓋を開けて、それを全て中に突っ込んだ。
パックから滲みだした茶色く染まり始めたお湯を確認すると、さっと蓋を閉めて僅かに痛みを訴える指を軽く横に振った。

「ふう……あとはお茶が冷めるのを待つばかりかな」
「そうだね」

石切丸は慌てて動いた為に、乱れてしまった着物の袖をまくり直し、燭台切は額に流れた汗を手の甲で拭った。

「それにしても今年の麦茶の減りようはすごいね。毎日沸かしても追いつかないよ」
「今年もかなり暑いからね」

 厨当番は毎年この時期になると、昼餉の後で麦茶を大量に作っている。
暑い日が続くと喉が渇いて自然と麦茶の消費が増える。大人数で生活する本丸なら、その量もかなりの量だ。
本丸の刀の数が増えてきてからは、麦茶を保管する大きなウォータージャグを購入したが、それでも最近はどれだけ麦茶を作っても追いついておらず、こうして昼餉の後で大量にお湯を沸かしては麦茶を作っているのだ。

「ところで、それは何を作っているんだい?べっこう飴、とは少し違うみたいだけど」

石切丸がウォータージャグを再び洗い始めるながら、燭台切が混ぜている鍋を覗き込むと、中には黄色く色づいた透明な何かが煮詰められていて、ブツブツと泡を立てていた。

「ああ、これは塩飴を作っているんだよ。水分補給も大事だけど、塩分の補給も大事だからね。明日からの連隊戦で気軽に塩分補給ができる物がないか調べてたら、塩飴が出てきてね。せっかくだから作ってみようと思ったんだ」
「なるほど、確かにこの暑さだとかなりの汗もかくだろうしね。ただ塩を舐めるよりもこういう物があると嬉しいよ」

 燭台切は第二部隊で隊長である鶴丸を補佐する役割を任される事がある。
誰にでも気さくに話しかけ、仲間や敵の動きをよく見ているので、戦闘で彼に助けられた者も多い。
日常生活でもこういった細かい気配りができるのも、彼が慕われる理由の一つなのだろう。

「ありがとう。沢山作るつもりだから、これが冷えたら味見してくれるかな?」
「もちろんだよ」

二振りが顔を見合わせて笑いあうと、大きな音を立てて勝手口が開いた。

「ガッハッハ!今戻ったぞ!」
「ただいま戻った」

 勝手口から大きな風呂敷の包みをいくつも担いだ岩融と蜻蛉切が入って来た。
彼らは履物を勝手口で脱ぐと、厨に上がって担いでいた荷物をどさどさと冷蔵庫の近くに置いて、運んできた風呂敷の包みを開け始めた。

「おかえりなさい」
「おかえり、頼んでおいた物は買えたかな?」

熱し終えた塩飴をシートに垂らして、常温で冷やし固める為の作業を終えた燭台切は、使っていた鍋を洗い場で洗いながら二本に尋ねた。

「ああ、米は外の荷車に積んである。頼まれていた砂糖と塩、他にも味噌と醤油、あと『かれえ』の素も買って来たぞ」
「あとは牛肉と、サラダに使うドレッシングと、ありったけの麦茶パックも買って来た」
「ありがとう、早速で悪いけど。今日の夕餉の仕込みをお願いしてもいいかな。今日の夕餉はカレーだからジャガイモの皮むきをお願いしたいんだ」
「了解した、これらを整理し終えたらそうしよう」
「ではすぐにこれを片付けなければな」
「僕も手伝うよ」

ウォータージャグを洗い終えた石切丸も一緒に、二本は購入した物を決められた場所に運び始めた。

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