十八、山姥切国広の修行

刀剣乱舞合歓木本丸

 この本丸の刀達が最も多く起きていられる黄昏時。
審神者の指示で少しだけ早い夕餉をとって、大広間に集まった本丸全員の刀達は、皆いつもと違う服装に身を包んで華やかになっていた。

 先日行われたイベントである夜花奪還作戦が終了し、審神者は報酬として新しい景趣を政府から贈られたので、その景趣のお披露目として審神者は花火大会を計画した。
せっかくの花火大会なので、審神者はこれを機に新しい装いを皆に用意しようと考えたのだ。
 予算上全員分の軽装は用意できなかったので、審神者は本丸の財政を担っている博多藤四郎と何度も相談した結果、財政に響かないギリギリの量の小判を使って、くじ引きで当たった数振りの刀達、宗三左文字、同田貫正国、加州清光、愛染国俊、そして山姥切国広の軽装を仕立てて貰った。
残念ながら外れてしまった他の刀達全員にも、軽装ではなくても何かいつもと違う装いをと、審神者個人の金から万屋街の店で好きな柄を選んで甚平を仕立てて貰った。
小物を各々で用意し、髪や爪を飾り、皆それぞれ自分の好きなように着飾っていた。


「……どうでしょうか?着物の色が少し明るすぎる気もするのですが……」

 宗三の軽装は明るい空色と桃色の縦縞模様を基調に、上前や袖の部分には鮮やかな赤い花の模様が入っており、帯紐は蝶の形に結ばれている。
普段戦や内番でも落ち着いた色合いの着物を身に着ける宗三は、着慣れていない普段より数段明るい着物の色に、少し落ち着きのない様子で自分の着付けにおかしな所が無いか何度も見直していた。

「よく似合っていますよ、宗三」 
「うん。兄さま、よく似合ってる」
「ふふ、ありがとうございます。二振りにそう言ってもらえたのなら大丈夫ですね」

兄弟刀の江雪左文字と小夜左文字が頷くと、宗三はようやく安心して微笑んだ。
 
「俺は別に甚平でもどうでも良かったんだけどな」

 大広間の端では、同田貫が所在無げに頭を掻いていた。
彼が仕立てて貰った軽装は、着物から帯まで黒一色で統一されており、さりげなく流水の模様が流れている。
そして帯には素朴な木の色合いがかえって渋さを演出している扇子が差されていた。 
 
「え~?その割にはバッチリ決まってて格好いいじゃん」
「似合ってるよ同田貫」

 同田貫の両肩の後ろから、加州清光と水浅黄色の甚平を着た大和守安定が顔を出した。
同じ部隊に所属している刀二振りに褒められると、彼は満更でも無さそうに二振りから露骨に目を逸らして頰を掻いた。

「ま、似合ってるに越したことはねえしな。お前もその軽装、いいんじゃねえの?」 
「へへ、ありがと。俺も今日に合わせて爪紅も新調したんだ、いい色でしょ?」

赤色の印象が強い彼だが着物は黒色を基調に、左半身は滝の様な白い縦縞模様の上に市松模様の牡丹が流れ落ち、帯と左袖の白の縦縞に混じる山吹色も目を惹く。
仕上げにいつもの赤い襟巻を首に巻いた加州は、得意げに紅く塗られた爪を同田貫に見せたが、見栄えにあまり頓着しない彼にとっては、いつもの爪紅と同じにしか見えなかった。

「あ~……いつもとあんま変わんねえ気がするけど」
「も~!聞いた俺が馬鹿だったー」 
「あっ!加州さんの爪紅、いつものより落ち着いた色に変わってる!」

同田貫からいい反応が貰えず加州が拗ねて口を尖らせていると、いつの間に後ろにいたのか、桜色の甚平を着た乱藤四郎が彼の腕に抱きついて声を上げた。

「そうなんだよ!乱分かる?」

爪紅の色の違いを見事言い当てた乱に、加州は表情をパッと明るくして振り向いた。
 
「うん!こっちの方がいつものより着物に似合ってるよ。いいな〜」
「ほら、全然違うでしょ?乱、まだ爪紅持ってるから良かったらあっちでやってあげようか」
「いいの?わーい!」

加州が身だしなみを整える為の道具を入れた、黒い長方形の小物入れから爪紅を取り出してみせると、乱は嬉しそうに跳ねた。
 
「よし、じゃあ行こっか」
「うん!」
「……朝清光に同じ事言われたけど、やっぱり僕もおんなじ色に見えるなあ」
「だよな」

乱と加州が和気藹々と会話しながら去って行った後、大和守が呟いた言葉に同田貫も腕を組んで同意した。
 
    
「じゃーん!!どうよ蛍!お祭りにぴったりの衣装だろ」 
「うん、よく似合ってるよ国俊」

 愛染は床にしゃがんでいる蛍丸に自分の着物がよく見えるように、両手足を大きく広げた。
黒地に右側を赤くした目立つ色の着物で、明王を連想する炎の模様が右肩に描かれている。
活発に動く愛染の為に着物の丈は若干短く仕立てられ、両袖は保護者である明石国行によって肩まで捲り上げられていた。 

「国行もほら、この着物どうだよ!」
「はいはい、よお似合ってるで」
「なんだよー!こう、ど派手だなー!とか、かっこいいなー!ないのかよ」

後ろに立っていた明石が流すと愛染は腕をぶんぶん振り回しながら、片頬を膨らませてむくれた。
 
「もう三回もそれ言うてるからなあ。ほらこっちの袖、落ちて来てるで」
「わっ」
 
 明石は揶揄うように愛染の膨らんだ頬を指で押すと、彼の口から「ぷひゅう」と間の抜けた音を立てて空気が漏れる。
そのまま彼の隣にしゃがむと、慣れた手つきで動き回ってずり落ちて来ていた右腕の着物の袖を捲り上げてあげた。

「ほら。はしゃいで駆け回って、変なとこ引っかけんようにな」
「わかってるって、他の奴らにも見せて来る!!また後でな!!」

愛染は明石に袖を直して貰うと、すぐに明石達に手を振りながら走り出して他の刀達に自分の着物を見せに行った。
 
「あーあ、俺も国俊みたいな軽装欲しかったなあ」
「蛍丸の甚平もよお似合ってるで。軽装はまた今度の楽しみに取っておき」
「うん、そうだね。国行もそれ、似合ってるよ」
「ん、おおきに」 

愛染が去った後、膝を抱えて残念そうな顔をした蛍丸に、明石は彼の隣に座ってポンポンと小さな頭を撫でた。
それに少しだけ機嫌を直した蛍丸が笑って明石を見上げると、彼も少しだけ目を細めて微笑んだ。
 
 
「ほら兄弟、こんな所で止まってないで早く入ろう!」
「……あ、ああ」
 
 兄弟刀の堀川国広に背中を押されながら、大広間の入口からおずおずと国広が顔を出した。
戦装束を連想させる紺地に縦の縞が入った着物の上にいつもの布を羽織り、少し恥ずかし気にフードで顔を隠していた。

「おお!待っておったぞ兄弟!!」

同じく兄弟刀の山伏国広が二振りに気づいて立ち上がると、国広はフードの下からそっと顔を出した。
 
「……どうだろうか。自分で着てみたが、おかしなところは無いだろうか」 
「大丈夫、すごく格好いいよ兄弟!」
「カッカッカ!よく似合っておるぞ兄弟」
「そうか。なら良かった」

兄弟刀達の賞賛の声に、国広はようやくほっとした顔で微笑んだ。

「おっ、ようやくお出ましだな?総隊長殿。その恰好、様になってるぜ」
「ああ、ありがとう」

 山伏達同様、国広に気づいた鶴丸国永は、彼の背後から飛びつくように肩に腕を回した。
中々の衝撃だったが、今まで何度もされている事なので、国広は動じる事なく、彼の褒め言葉に素直に礼を言った。

「鶴丸は黒色の甚平にしたんだな」
「そういえば鶴丸さんが黒色って珍しいですね。てっきり白色の甚平かと思ってました」
「ああ驚きだろ?」 

戦装束でも内番でも白一色を身に纏っている鶴丸だが、今は黒一色の甚平を身に着けている。
あまり見ない彼の姿に国広と堀川は物珍しそうな目で彼を見つめると、鶴丸は自分の甚平が良く見えるよう両腕を軽く広げた。
 
「白もいいが、たまには全く違う色の装いをするのも良いと思ってな。今回は黒にしたんだ」
「うむ、鶴丸殿もよく似合っているのである!」  
「ははっ、ありがとうな」
「みんなー!全員揃っているかー?」

大広間の上座から審神者の声が飛び、鶴丸は「お、始まったな」と言いながら三振りから離れていき、残りの三振りはその場に座って審神者の話を聞く体勢になった。

「皆この前の夜花奪還作戦ではよく戦ってくれた。今日は思い切り楽しんでくれ!」

立ち上がった審神者は姿勢を正すと、両手を合わせた。
 
「皆景趣が変わり終わるまで大広間からは出ないようにな。景趣変更!展望の間・花火へ!!」

 審神者が大広間中に響く声を上げると、大広間の外の景色が光に包まれ、次に光が収まると外は一面空の色を写した水辺になっていた。
日没からさほど経っていないので、空も水面も境目に近づくほど夕焼けの色がまだ残っている。
水辺へ落ちないように、いつもの縁側には簡素な欄干が設けられ、足元には夜目がきかない刀達の為に行灯が数個用意されていた。

「まだ顕現した刀が少ない新しい本丸は小さい屋形船だけど、うちも大きくなったからな。大型の屋形船なんだ。さて、お楽しみはこれからだぞ」 
 
 審神者が屋根から下がっている木の札に近づいて、のれんを持ち上げる様に揺らすと、火薬が弾ける軽い音が遠くから聞こえた。
遠くの空で小さな火が舞い上がったかと思うと、眩く光る大きな花が咲き誇り、その少し後で大きな衝撃音が刀剣達の骨の髄まで響き渡った。
 
「みんな!かき氷ができたから取りに来てくれ」
「今日のかき氷は小豆と抹茶の特別盛りだよ!練乳も用意してあるから、自分の好みでかけてね」
 
花火にも負けない大声で呼びかけた歌仙兼定と燭台切光忠筆頭の厨当番の刀達によって、お盆を乗せた何十人分もの大量のかき氷が運ばれてきた。
 
「じゃあ花火はしばらくの間打ち上げられてるから、みんな花火鑑賞を楽しんでくれ」

満開の花火に歓声をあげる刀達に、満足げに笑った審神者は自分もかき氷を食べようと、燭台切達がかき氷を配っている場所へ歩いていった。

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