十八、山姥切国広の修行

刀剣乱舞合歓木本丸

 柔らかい日差しの温かさ、どこか遠くでさえずり始めた小鳥達の声、そして何かに引き寄せられる様な感覚に、審神者はふと目を覚ました。
部屋の障子を少しだけ開くと、差し込んでくる日の光の眩しさに手をかざして目元を庇っていたが、同時にこみ上げてくる欠伸に、かざしていた手をそのまま口の前に持っていく。
普段昼近くに目が覚めるのに、何故目覚ましも無い状態でこんな早い時間に起きられたのか。
不思議に思いながらも胸をよぎる確信めいた予感に、審神者は弾かれた様に部屋の外へ飛び出した。
寝起きで鈍い足の動きにじれったく感じながら、審神者は途中曲がり角や壁にぶつかり、足がもつれそうになりながらも玄関へ走った。


「!」

 身体ごとぶつかるように審神者がようやく辿り着いた玄関の扉を開けると、そこには音に驚いた自分の初期刀が振り返った姿勢のまま立っていた。
彼も早起きが得意ではないのに、今日は早朝から戦装束の上から旅装束に身を包み、フードを被った頭には大きな笠が乗っている。
しばらく驚いた顔で固まっていた国広だったが、一度長い時間を掛けた瞬きをすると、玄関の扉に掴まったまま息を切らせて自分を見上げている審神者に身体ごと向き直った。

「……今日は、珍しく早起きなんだな」
「自分でも驚いてるよ、目覚ましもかけてなかったし。……ま、誰かさんが何も言わずに行こうとしてたからじゃないか?」

敢えていつも通りに話しかける国広に、審神者は笑ってわざとおどけて返したが、笑いもせずにじっとこちらを見つめてくる彼の顔を見て、すぐに口をつぐんだ。
 
「……行くんだな」
「ああ」
「そうか……まんば」
「何だ?」
「…………」 

いざ何か声を掛けようとしても、喉の奥で沢山の言葉がぐるぐると渦を巻いて何も出てこなかった。
それでもこの一言だけはどうしても伝えたくて、審神者はぼやけはじめた視界を誤魔化す為に乱暴に目元を服の袖で拭うと、今の自分にできる最高の笑顔を見せた。
 
「……いってらっしゃい!」
「いってきます」

 審神者の笑顔に国広も嬉しそうに笑うと、風で少しずれた笠をかぶり直しながら歩き始めた。
国広はゲートをくぐるほんの少し前に審神者の方を振り返ると、玄関の前に立つ審神者に向かって軽く手を上げた。
それに気づいた審神者は、満面の笑顔で腕を大きく振り返した。
 


「…………」 

ゲートの向こうに消えていった国広に、審神者がようやく手を下ろすと、いつの間にか厚が隣に立っていた。
 
「情けない顔するなって大将、……隊長の事、信じてやれよ」

気が付けば不安が顔に出てしまっていたらしく、厚は審神者の背中に手を当てて笑いかけた。

「厚……そうだな、信じて待つよ。この本丸で」
  
審神者は元気づけてくれた厚に笑い返して、もう一度国広がいなくなったゲートを見つめた。

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