夢は終わり

刀剣乱舞刀剣乱舞 一話完結小説

 意識を取り戻した国広は、少しづつリハビリをするようになった。
長義が霊力を定期的に彼に流していたとはいえ、ずっと眠っていた体は歩くのが困難になる程、全身の筋肉が弱りきっていた。
そのため、最初は布団から起き上がる事から始まり、そこから少しずつ自力でも立ち上がれるようにして、一振で自由に歩けるようになるのには一月以上かかった。
 ちゃんとした日常生活を送れるようになるまでも、時折意識がぼうっとしたり、夜中に魘される事もあったが、その都度長義が声を掛ける事でその回数は月日が流れるにつれて数を減らしていった。

 歩けるようになってからの回復は早く、国広は他の者がいない離れや、道場で刀を振るう姿が見られるようになった。
時折長義が彼と手合わせをすると、最初は全く歯が立たなかった国広だったが、今となってはほぼ互角に渡り合う事が出来るようになり、出陣するまでそう時間はかからなかった。
長義の付き添い付きではあったが、国広は大きな負傷を食らう事も無く、無事に本丸に帰還してみせた。
真っ先に敵へ突っ込んで、道を切り開く姿は勇ましく、それは正しく長義が見たいと思っていた姿そのものだった。

 そうして放置本丸から発見されてから約一年が経った頃、完全に回復したと判断された国広は、政府の刀剣として配属する事が決まった。
療養本丸で回復したと判断された刀剣は、基本刀解か、政府所属の刀剣として働く事になっている。
ずっとこの本丸にいると思っていた国広は、その話を聞かされて少し戸惑ってはいたが、簡単に配属先の部署の紹介をして、長義が希望があるかと問えば、国広は一晩考えて救援部隊の配属を希望した。
本刃曰く、少しでも自分の本丸のような出来事を防ぐ為の力になりたいとの事らしい。
その旨を政府へ伝えると、早速一週間後政府から迎えが来る事になったのだ。
国広の本丸配属が決まっても、長義の国広への態度は変わりなく、二振り共いつも通りのゆっくりとした時間を過ごした。


「山姥切国広様、お迎えにあがりました」
「……ああ」

 一週間と言うのはあっという間で、国広を迎えに来た政府のこんのすけがやってきた。
国広と政府のこんのすけが何かを話しているのを、長義は遠くからゲートが見える縁側に座って、その様子を眺めていた。
今日、長義は一度も国広と会っていない。
興味がないとか、情が無い訳では無いが、いざ彼がここを出ていくとなると、なんて声を掛けたらいいのか分からなくなってしまったのだ。
せめて国広が無事に政府へ向かったのかは見届けようと、朝から縁側に座ってずっとゲートの方を見ていたのだ。
 いよいよ政府に向かうのか、こんのすけに連れられてゲートの方に足を向けたが、ゲートをくぐる直前で国広の足が止まった。
何を思ったのか、国広はこんのすけに何かを話してから、何かを探すように辺りをキョロキョロと見渡し始めた。
一体何をしているのかと、長義はその様子を見ていたが、国広が遠くにいる長義を見つけると、彼に向かって全速力で駆け出した。
国広は驚いたまま固まる長義の目の前で止まると、息を整えながら長義の事を見つめていた。

「……忘れ物でもしたのかな、国広の」
「忘れ物……そうだな。あんたに……何も言っていなかったから」

長義から声を掛けると、国広は改めて彼に向き直った。

「……長義。俺を目覚めさせてくれて、ありがとう。あんたが言ってくれたように、強くなって山姥切にも……あんたにも恥ずかしくないよう、今度は政府で最後まで戦い抜いてみせる」

あのどれだけ声を掛けても反応しなかった、人形の様な頃の面影は無く、国広は意思の宿った真っすぐな目で長義を見つめた。

「そうか……じゃあ、さよならだ国広の。お前が二度とここへ来る事が無いのを祈っているよ」
「……っ」

長義が二度と会わないと言う意味の言葉を放つと、国広は一度悲し気な顔をしたが、それを彼に見せないように頭を深く下げた。
頭を下げた事により、彼の戦装束である制服の様なセーターから、首から下げた一つの青いお守りが見えた。
 そのお守りは、長義が自ら作って国広に渡した物だ。
刀剣破壊を防ぐための物ではなく、折れた山姥切長義の破片を入れる為の物で、丈夫な布を選んで、破れないためのまじないをかけた糸で縫って、首に下げる為の組紐は、国広の元から決して離れてしまう事が無いように、糸の一本一本に思いを込めて編んで作ったものだ。
御神刀ではないので、大した効果は無いかもしれないが、少しは加護が付いてくれるだろう。
国広がそのお守りを握りしめて顔を上げると、泣きたいのを堪える様に僅かに涙を滲ませながら笑って見せた。

「……元気で」

 最後にそれだけ告げて、国広は今度こそ政府へのゲートへ向かって行った。
ゲートをくぐって彼の姿が見えなくなっても、長義はしばらくゲートを見つめていたが、視界の端に揺れる何かに目を向けると、長義の方には目を向けないまま、同じゲートの方を見つめている南泉が隣に立っていた。

「……行っちまった……にゃあ」
「……ああ」
「あんにゃ言い方で、別れて良かったのかよ」
「何だ、立ち聞きでもしていたのかい?」
「たまたまだ」
「……ふうん」
「……せめて、じゃあなくらい、言ってもよかったんじゃにゃいか?」
「それは無い、かな」

南泉の言葉に、長義は小さく笑いながらきっぱりと否定した。
しかしその声は、いつもの無機質な物ではなく、どこか温かさを感じさせる物だった。

「ここは療養本丸だ。傷ついた刀剣男士を癒す為の本丸。……この本丸が必要になる事自体、本来あっていい物ではないんだよ。……だから、二度とこの本丸で彼には会いたくないんだ。彼はここで終わるには相応しくない刀だからね」
「あいつの事、あんなお守りまで作ってやる程、大事だったのか?」
「さあ、どうだろうね……」

南泉の問いに長義が答える事は無かったが、彼が国広が去ったゲートを見つめる横顔は、かつて自分の写しを愛おしそうに語っていた時の様に、柔らかく口角を上げて微笑んでいた。

2020年3月6日 Pixivにて投稿

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