「……ろ……国広」
優しい声に目を開けると、困ったような微笑みを浮かべる山姥切が、俺の片頬を包んで目の前に立っていた。
「こんな所で寝ていては風邪をひくよ」
……何故だろう。
いつもの山姥切の声なのに、こんなに穏やかな声は随分と久しぶりに聞いた気がする。
自分を気遣って掛けてくれた、短く些細な言葉を聞いただけで、視界が滲み始めた。
「……あれ」
頬を滑り落ちる透明な雫は、拭っても拭っても止める事は出来ず、増えていくばかりだ。
どうすればいいのか分からなくなっていると、フワリと温かな物が体を包み込んだ。
何が起こったのか顔を上げると、山姥切が俺を頭から抱きしめてくれていた。
服の布越しに伝わってくる熱に、俺は酷く安心して山姥切に縋る様に強く抱きしめ返した。
「山姥切…山姥切……」
「どうしたのかな、怖い夢でも見たのかい?」
「分からない……思い出せないんだ……ただ、怖くて……悲しかった」
そうだ。
眠っている間、俺は夢を見ていた。
内容は殆ど覚えていない。
けれど目が覚めて、目の前に山姥切がいてくれただけで、涙が出てきてしまう位には、俺にとって恐ろしくて、とても悲しい夢だったのだろう。
いつまでも泣き止まない俺に、山姥切は「しょうがないな」と言いながらも、俺の背中を撫でてずっと傍にいてくれたが、そんな彼の優しさにまた涙が溢れて、結局俺が泣き止むのはそれから一時間も後の話だった。

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