「……ん?」
内番の畑仕事を終えて、使っていた道具を直しに倉庫へ向かう途中、ふと感じた事のない気配に足を止めた。
気配の方に顔を向けると、遠くの縁側に誰かが座っていた。
「山姥切…?」
それは確かに戦装束を着た山姥切長義だったが、纏っている気配はこの本丸にいる山姥切のものではない。
更に違和感を感じたのはその髪、綺麗な銀髪の中に金色の髪が一房混じっている。
流された前髪のせいで、表情は見えないが、どこか遠くを見つめているようにも見えた。
「国広?」
突然の声に振り向くと、うちの本丸の山姥切が不思議そうな顔で、目の前に立っていた。
洗濯当番だった山姥切は内番着の姿で、胸元に真っ白なシーツを抱えていた。
慌てて縁側に目を向けると、もう一振りの山姥切は、最初からそこにいなかったように姿を消していた。
「どうかしたのかな?そんなにキョロキョロして」
「山姥切。さっきそこの縁側に、もう一振りの山姥切がいたんだが……二振り目が顕現されていたのか?」
俺の質問に山姥切はきょとんとしていたが、顎に手を当てて考えるそぶりを見せた。
「?……いや、そんな話は聞いていないな……誰かと勘違いでもしたんじゃないか?」
先程俺が見た事を、山姥切はあっさりと否定した。
もう一度縁側を見てみても、先程のもう一振りの山姥切はいない。
ほんの少しの間しか見ていなかったから、誰かと見間違えたと言うのも否定しきれない。
きっと山姥切の言う通り、勘違いでもしたのだろう。
「……そうかもしれない。それよりどうかしたのか?まだ洗濯の途中だったんだろ?」
「ああ、主がお前の事を呼んでいたから、声を掛けに来たんだよ。……ふふっ、それにしても随分と派手に汚したね、顔についてるよ」
「んんっ、すまない」
頬に土汚れが付いていたらしく、山姥切は笑いながらその汚れを拭ってくれた。
「さっさと風呂にでも入って、その汚れを落としてから主の元へ行くんだね」
「ああ、分かった」
そう言って自分の持ち場に戻っていく山姥切をしばらく眺めて、体の汚れを落とす為に風呂場へと向かった。
もう一度先程の縁側に視線を向けたが、やはりそこには誰もいなかった。

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