顕現
審神者が本丸に就任してから約半年、未だ顕現している刀は少ないものの、ようやく本丸の運営が軌道に乗り出した頃。
審神者とその近侍の山姥切国広が鍛刀部屋に入ると、そこには鏡の様に周りの景色を映す打刀があった。
壁の白と、遠くにある炉から燃え立つゆらゆら揺れる炎が刀身に映り、景色に溶け込んでいるようにも見える。
刀身をよく見る為に、審神者がしゃがみ込んでみると、自分の顔が綺麗に映った。
「化粧研ぎしてる訳じゃ無さそうだけど……なんか鏡みたいな刀だね、不思議な刀だなあ。……国広?」
隣に立つ近侍に目を向けると、国広は出来上がった刀を見下ろして、なんとも言えない表情になっていた。
普段表情の変化に乏しい彼が、ドン引きでもしている様な、嫌いな食べ物を前にした子供の様な、そんな「うわぁ……」とでも言いそうな顔になっている。
「なんかすごい表情になってるけど、大丈夫?」
「あ、ああ。……この刀は水鏡国広、俺の兄弟だ」
「へえ、国広の兄弟なんだね!その割にはあまり嬉しくなさそうだけど、仲悪いの?」
「いや、そう言う訳ではないんだ。切れ味は俺が保証するし、決して悪い奴じゃない。……ただ、少々苦手な部分が」
「ふーん?まあ、一度顕現してみよっか」
歯切れの悪い言い方をする国広を尻目に、審神者は顕現させる為の札を刀に乗せると、刀は白く眩く光り始め、そして目の前で桜が弾けた。
光が収まると、そこには国広と同じくらいの身長で、全身空色の青年が立っていた。
国広と同じ裾がボロボロの布を被っているが、彼の物とは違って汚れは一つも付いていない。
フードの下にはウェーブがかかった空色の髪があり、長めの前髪は右側に寄せられている。
服装は青と細い空色のストライプのスーツジャケットとスラックスに、黒い革靴とやや派手な服装だ。
青年は目を開いて審神者と国広を見つめると、被っていたフードを取って、空色の垂れ目をゆるりと細めて微笑んだ。
「やあ、僕は水鏡国広。名工堀川国広が打った刀の一振りだよ。どうぞよろしくね、主」
「うん、よろしくね。水鏡、って呼んでいいかな?」
「もちろんさ。……おや?」
水鏡は審神者の隣に立つ国広に気づくと、嬉しそうに顔を輝かせた。
「やあ、久しぶり兄弟!」
「あ、ああ、久しいな兄弟」
「以前に会った時よりも大きくなったんじゃないかい?前よりも綺麗になったね」
「なっ、綺麗とか言うな!」
「またまたぁ〜、綺麗な刀を綺麗と言わずしてどうするのさ。ま、僕も負けずに綺麗だけどね」
「お、おお……結構ぐいぐいくる刀なんだね」
国広のフードを取ろうと笑顔で迫ってくる水鏡と、それを阻止しようとする国広が、狭い鍛刀部屋の中をぐるぐる追いかけっこしている様子を見て、審神者は堀川派の部屋がまた賑やかになるなあと、和やかな目で彼らを見ていた。

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