山姥切コンビの特殊討伐任務in足利

刀剣乱舞刀剣展示感想あり短編小説

一日目

「うわっ!?」

駅舎から出た瞬間に襲われた突風に、国広は咄嗟に被っていたキャップを押さえて、たたらを踏んだ。

「……風が強いな」
「そうだね。でもまあ、晴れて太陽が出ているのが幸いしたな。おかげであまり寒くない。あまりにも寒すぎると、こちらの動きも鈍ってしまう」

 二振りはこの時代の人間に溶け込むように、国広は暗い色のダウンジャケットの格好に、キャップを被って大きなリュックを背負い、山姥切はハイネックとセミロングコートで肩にトートバッグを提げ、動きやすく防寒に優れた服に身を包んでいた。
予想外に日差しが強いので、山姥切は片手を太陽へかざして目元を庇った。
 
「今日は一日中風が強いらしいから、そのキャップは外した方がいいんじゃないか?」
「……それもそうだな。飛ばされそうだ」

山姥切を提案を聞き入れた国広は、キャップを外してリュックの中にしまい込んだ。
躊躇いなくキャップを外す様子の国広を見て、山姥切は小さく笑った。
突然笑われた国広は、不思議そうに目を瞬かせた。
 
「……どうした?」
「修行に行く前のお前なら、そのキャップすら頑なに外さなかっただろうと思ってね。極めていてよかったな」
「ああ。戦装束になった時もあの布が風に取られて、戦闘どころでは無かっただろうな」
「さて、展示を見る時間までかなり時間がある。時間遡行軍がいないか確認しながら周辺の散策をしよう。偽物くんはどこを回るか考えてきてくれたんだろ?」
「ああ」

国広はリュックの外側からのポケットから小さなメモ帳を取り出した。
中にはかなりの書き込みがされているのが見えて、彼がこの任務にかなり力を入れて準備をして来ている事に気づいて、山姥切は少しだけたじろいだ。
 
「今ここではスタンプラリーをしているらしいんだ。スタンプがある場所は美術館含めて、足利を広範囲で散策できるように計六ケ所ある。まずはスタンプラリーの台紙を配布している場所へ行こう」
「じゃあ。案内は任せるよ、偽物くん」
「ああ。ホテルに荷物を預けたら行こう」


 
「足利学校……布袋の兄弟が打たれた場所、か……まさか人の身を得て、実際にここに足を運ぶ事になるとは……審神者が率いる本丸は、こんな景色なんだろうか……ん?」

 スタンプラリーの台紙を受け取った二振りは、雲一つない青空の下の歩道橋を渡って、足利学校へ辿り着いた。
スタンプ台を見つけて一つ目のスタンプを押した国広は、街歩き用に用意していたサコッシュに台紙を入れると、しばらくひんやりとした畳の上を歩いて、中から外の庭園を眺めたり、展示されている資料を見たりしていた。
途中で山姥切の姿が見えなくなったので探していると、彼はローテーブルが並んでいる場所の片隅で、鉛筆を片手に難しい顔で大きな紙に何かを書き込んでいた。
 
「本歌。何をしているんだ?」
「ちょっとした漢字クイズが置いてあったんだ。偽物くんもたまには頭の運動をしてみたらどうかな?」

山姥切が指をさした箱には、彼が挑んでいるクイズと同じ内容の紙と鉛筆が入っていた。
国広は端末を見て時間にまだまだ余裕がある事を確認してから、山姥切の隣に座って彼と同じクイズを解き始めた。
 
「骨肉、人肉……肉、式?……肉、団子ではないし……難しいな。本歌はどうだ?」
「…………」
「本歌?」
「…………」
「……真剣だな」

 十数分後、数問飛ばした状態でクイズを一通り終えた国広は、隣の山姥切を見ると彼は肘をついたまま、険しい顔でクイズに向き合っていた。
彼の紙を覗き見ると、一問だけ解けない問題があるらしい。
団体の観光客が来たのが見えた国広は、紙の裏側の答えを見て早々に答え合わせをすると、熱中している山姥切の肩を叩いた。

「本歌」
「なんだ、今いい所なのに」
「団体の観光客が来た。混んできたから、そろそろここを離れよう」
「えっ」

山姥切が慌てて振り返ると、二振りがしていたテストに興味を持った団体の観光客が、同じようにテストを取り組み始めて、背後に並んでいたローテーブルが人でいっぱいになっていた。

「すまない、すっかり熱中して長居してしまった。次に行こう」
「ああ」
 


「次は鑁阿寺だな。近くだから歩いて十分もかからないだろう」
「ああ」

 足利学校を後にした二振りは、端末の地図を片手に次の目的地に向けて石畳の道路を歩いた。
次の目的地への道の確認を完全に国広に任せている山姥切は、国広の隣を歩きながら、この街に来てから何回か見ている山姥切国広の絵が描かれた幟を眺めた。
 
「それにしても、少し歩いただけで偽物くんの幟が確認できるなんて。本当に街をあげて今回の展示を盛り上げているようだね。すっかり人気者じゃないか」
「ああ、ありがたい事だ。……ん?」

何かに気づいたのか、不意に国広が立ち止まった。
 
「どうした?」
「今……何かいい香りが……」 
「あそこの店じゃないかな?中を見るに、お香の店みたいだ」

そう言って山姥切が指さしたのは、落ち着いた見た目の引き戸の入口の店だった。

「入ってみようか」
「いいのか?」
「気になるんだろう?まだ時間に余裕があるから構わないよ」

 店が気になっている様子の国広を見て、山姥切はその店の引き戸を開けて、国広も慌てて彼の後ろに続いた。
店内は目に優しい明るさの照明が使われていて、落ち着いた雰囲気があり、常にお香のいい香りが漂っている。
既に他の客で賑わっていて、通る場所が狭くなっていたので、二振りは商品を引っ掛けないように持っている鞄を前に抱えながら、商品を物色し始めた。

「どれも良い香りだね。馴染みのある匂いもある」
「白いお香もあるのか。これは初めて見るな」
「どれも良さそうな物ばかりだし、せっかくだから何か買って行こうかな。……ん?へえ……こういった物もあるのか」
「本歌?どうしたんだ?」
 
山姥切が立ち止まった所には、コロンとした小さなお香が並んでいた。

「これもお香なのか?」
「置くだけのお香みたいだね。これならわざわざ火を使わなくても香りを楽しめそうだ」

それからいくつか試しにお香の匂いを嗅いで比べてみた結果、国広は金木犀、山姥切は桜と藤のお香を購入した。
 
 
「鑁阿寺の銀杏……できれば葉が黄色く色づいている所を見たかった」
「季節が違うから、こればかりは仕方ないね。代わりにあそこに並んでいる紅白の梅が綺麗だ。今のままでも綺麗だけど、もう少し待てば満開が見られたかもしれないね」

ちょっとした寄り道をしながらも、無事鑁阿寺に辿り着いた二振りは、植えられている木について談笑しながら、本堂にお参りをして、すぐ近くにあったスタンプラリーのスタンプ台を見つけた。
 
「む……押せていないな、インク切れか?」

スタンプ待ちの列に並んで自分の番が来たので押そうとしたが、何度か押してみてもスタンプが押せない。
国広が眉を寄せて首を傾げているので、山姥切が隣から覗き込むと、彼はスタンプの蓋をくっつけたまま台紙に押しつけていた。

「偽物くんがスタンプの蓋ごと持ち上げているんだよ」
「え。……あっ!」
「後ろも待っているんだ、早くスタンプを押して次に行こう」
「あ、ああ」

山姥切の指摘でスタンプの謎に気づいた国広は、慌ててスタンプを押したので、台紙の鑁阿寺の枠には斜めにずれた状態の絵が埋まっていた。
 
「…………少しずれてしまった」
「……まあ、枠内に入っているならいいんじゃないかな。さて、次はどこに行くつもりなんだ?」

綺麗にスタンプが押せずに少ししょんぼりしている国広を見て、山姥切は控えめなフォローをしつつ、次に切り替えさせた。
 
「心通院だ。だから次はかなり歩く。歩きながら端末に道案内をしてもらおう」

 立ち直った国広は、自分のサコッシュから端末を取り出すと、地図のアプリを開いて目的地を入力して、そこへ向かう為の道のりを確認しながら歩き始めた。
まず鑁阿寺から離れる為に、二振りは寺の堀に沿って歩いていたが、途中で山姥切の歩く速度が遅くなって、終いには立ち止まってしまった。

「本歌?」
「…………」 
 
国広が声を掛けても、山姥切は何も言わずに足元……正確には掘の中を見つめている。
彼の視線の先を辿ると、バタバタと水かきのある小さな足が可愛らしい鴨達が、堀の中で気持ちよさそうに水面を泳いでいた。
 
「鴨がいたのか……鴨が、好きなのか?」
「…………」

もう一度国広は山姥切に声を掛けたが、彼は完全に集中しているようで、国広の声は全く耳に入っていなかった。
 
 国広の先輩であるこの山姥切は、一度集中し出すと周りの声が耳に入らなくなる所がある。
事務仕事や偵察ではその集中力を生かして高い評価を得ているが、戦場では自分の怪我に気づかなかったり、視野が狭くなって引き際を見誤る傾向があるので、周りから危険な悪癖とも言われていた。
集中している時に話し掛けると、大抵彼の機嫌を損ねてしまうので、国広は山姥切の隣で柵にもたれ掛かりながら、時折遡行軍がいないか周りを警戒しつつ、しばらくの間待ってやる事にした。
 
「本歌」
「はっ!?俺は何を?」

ある程度時間が経って、そろそろ移動しないと展示時間に余裕がなくなって来るタイミングで国広が声を掛けると、山姥切はビクリと肩を跳ねさせて我に返った。
 
「堀の鴨を見つめたまま十分程ぼうっといていた」
「十分!?無駄に時間を消費した俺に非があるけど、なんで声を掛けなかったんだよ偽物くん!」
「最初に何度か声は掛けていたが、ずっと上の空だったぞ」

ここで山姥切に「集中してる時に声を掛けたら機嫌悪くだろう」と正直に言えば、十倍にも百倍にも言い返されてしまうので、国広は端的な事実だけを述べた。
 
「……疲れているなら、休憩するか?」
「心配には及ばないよ。すぐに次に行くぞ」

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