山姥切コンビの特殊討伐任務in足利

刀剣乱舞刀剣展示感想あり短編小説

「結局心通院の二の舞か!また時間ギリギリだぞ!」
 
 休憩を終えて会館を出た二振りは、目的地の早雲美術館の閉館の時間が迫っていたので、心通院から美術館へ向かう時と同様、太い道路沿いに大股の早歩きで移動していた。
 
「大丈夫だ!急げばまだ間に合う!……筈だ!」
「筈、じゃない!あそこは後ろの席の水心子に、ぜひ見て欲しい刀があると頼まれているんだ!必ず間に合わせるぞ!」
 
そうやってまた言い合いをしながら急いで歩き続けると、閉館一時間前を切った所で、なんとか早雲美術館の前に到着した。
 
「な、なんとか間に合ったな……」
「ああ……早速入ろう」
 
入口の前でようやく息を整えると、二振りは受付でチケットを購入して、展示室の中に入った。

「本歌、水心子に言われた刀はどれなんだ?」
「そうだな……水心子に見て欲しいと言われた刀は……あった、この刀だ」

国広が小声で尋ねると、山姥切は数振りの刀が展示されている場所へ歩き、一振りの脇差の前で足を止めた。
 
「この刀がそうか?」
「ああ。刀工源清麿が打った脇差だ」

国広は山姥切以外に人がいないか確認すると、少しだけ中腰の状態に屈んで、ガラスの向こうに鎮座する脇差をまじまじと眺めた。
 
「この刀……茎に「環」と刻まれているが、「源清麿」ではないんだな」
「刀工源清麿の本名は山浦環。銘に「環」と刻まれている清麿が打った刀はかなり貴重、だそうだ」
「なるほど……水心子が見たがっていたのも頷ける」
「そうだね。……いい刀だ」



「日が傾いてきたな……今日最後に向かうのは、織姫神社だったかな?」
「ああ。来た道を途中まで戻らないといけない。階段が多い神社だから暗くなったら危険だ。少し急ごう」

 早雲美術館から出た二振りは元来た道を戻り、目的地へ黙々と歩き続けると、とても長い階段のある神社の入口が見えてきた。
割と急な段差の石の階段は、延々と続いている様にも見えて、階段の前で立ち止まった山姥切は、死んだ目で階段を見上げた。
  
「歩き通しの足にこの階段……とどめを刺しに来ているようなものだな……まさかこれを登るのか?一体何段あるんだこの階段……」
「調べてみたら、この『男坂』という階段は約230段あるらしい」
「……そんなに?…………はあ」

あまりの段数の多さに、山姥切はげんなりして盛大なため息を吐いた。
刀剣男士であり、普段から鍛錬を怠っていないと言っても、今は人の身。
疲れるものは疲れるのだ。
 
「……あれ。偽物くん、あの鳥居は?」

 現実逃避として、山姥切が男坂の階段から左側に視線をずらすと、紫色の鳥居がたまたま目に入った。 
よく見てみると木々の隙間から、上に上がるに連れて朱色、若草色と、鳥居は色を変えて立っているのが見える。
どうやら鳥居をくぐりながら、何度も曲がりくねった階段を登って、男坂同様上へ行く為の道になっているらしい。
 
「ああ、あれは『女坂』の鳥居だ。ここは縁結びの神社で、あの七色の鳥居はそれぞれ違う縁の意味が込められているらしい」
「なるほどね」
「それで、どうする?どちらを使っても上には行けるみたいだ」
「………………女坂にするよ。直線距離でこの急勾配を登るよりは、まだ足の疲労は軽減できそうだ」
「分かった」
 
 不必要な言い争いは更なる疲労を招くので、二振りは無言で女坂の階段を登り始めた。
途中のベンチで小休止を挟みながら七色の鳥居をくぐり、歩き通しで披露が蓄積している足に鞭打って、二振りはようやく階段を登りきった。

「はあ……さすがに……疲れたな……」 
「はあ……はあ……は、ははっ……体力バカの偽物くんでも……さすがにこの階段は堪えたみたいだね……膝が笑ってるじゃないか」
「あんたこそ……全然息が整ってないじゃないか……」
 
 石の階段を踏みしめて蓄積した足の痛みと、一定ラインを超えた疲労で何故か笑えてきて、山姥切と国広はお互いの顔を見合わせて笑い合った。
それからスタンプラリーのスタンプを押した後、二振りは神社の参拝を済ませると、休憩がてら石造りの柵から夕焼けの足利の景色を眺めた。 
 二百段以上の階段の上にある場所なので、地上よりやや風が強く感じる。
それは空の上も同じなのか、見上げてみれば薄い雲達が上空の風でみるみる形を変えて押し流されていく。
薄い雲が太陽を覆い隠して強い日の光を和らげてくれていたので、眩しく感じる事なく快適に足利の街並みを眺める事ができた。
 
「……時代が変わって足利の景色も随分と様変わりしたけど、この夕焼け空は、昔と変わっていないね」
「ああ」

柵に肘をついていた山姥切は、前を向いたまま視線だけを隣の国広に寄越して、少し意地悪な笑みを浮かべた。
 
「あの時の偽物くんは随分と幼かった筈だけど、本当に覚えているのかな?」
「記憶は朧げだが……山の端に沈む太陽が見たくて、あんたに抱き上げて見せてもらった。……それでこうやって太陽に手を伸ばそうとして、あんたの腕から落っこちそうになったのは……覚えている」
「確かに、そんな事もあったな……身を乗り出して落ちるなよ、もう抱き上げてやれないんだから」
「大丈夫だ、もう落ちない」

昔の思い出をなぞるように太陽へ向けて手を伸ばす国広へ軽口をたたきながら、山姥切は視線を前に戻して、記憶を思い起こす為に目を細めた。

「……あの時は少し肝が冷えたよ。お前にできるだけ広い景色を見せたくて、できるだけ高い場所に登っていたから、危うく真っ逆さまに落ちる所だった」
「ああ、それであんたに危ないから大人しくしていろと怒られた。……懐かしいな」
「そうだね。……まさか、偽物くんと再び足利で夕日を見る日が来るなんて、思いもしなかったよ」

 山姥切にとって、昔よりも大きく成長した写しが自分の隣に立っていて、再び足利の地で同じ夕焼けを見るのは、どこか不思議な心地だった。
打たれた頃は自分の両の手で納まる程小さな幼子の姿で、他の付喪神から「まるで人間の親子の様だ」と揶揄われる程だったというのに、長い年月の間に出会った多くの人間から寄せられた様々な思いを受けて成長して、今では自分とさほど変わらない背丈の青年の姿になっている。
ただの写しと本歌の関係だけだったというのに、今では伯仲の出来の刀として、こうして自分と肩を並べている写しの横顔を見ていると、逸話の事や自分の意地のような感情から素直になれずとも、彼の成長を喜ぶ嬉しさや、彼が多くの人間に刀の出来を認められている事の誇らしさを感じた。
 
「……立派になったものだ」
「ん?本歌、何か言ったか?」
「別に。なんでもない、よっ」
「わっ……!」
 
 山姥切が零した言葉は国広には聞こえなかったらしい。
国広は振り返って聞き返したが、彼は何も言わずにやや強めの力で頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
突然の事に驚いて声をあげようとしたが、頭を撫でられるのは本当に久しぶりで、目の前の彼の眼差しがとても優しかったから、国広は何も言わずに撫でられるがままにした。
 
「さあ、暗くなってきたからホテルの方へ向かって移動しよう。偽物くんが行きたい店の開店時間もそろそろなんだろう?」
「あっ!」

山姥切が話題を変えると、国広は端末で時間を確認して目を剥き、途端に慌て始めた。
 
「急ごう山姥切、開店時間に並んでいては外でかなり待つ羽目になる!」
「おい、焦ると転ぶぞ」

「日が落ちて風も冷えてきた……それにしてもすごいな、開店までまだ十分少しあるのにもうこんなに人が並ぶなんて」
「ああ。人気の日本料理屋で、一部の料理はテイクアウトもできるんだ。そして今はこの展示に合わせて特別なメニューを出しているらしい」

 美術館の近くまで戻って来た二振りは、国広の案内である日本料理の店の待機列に並んでいた。
日が落ちて気温が下がる中、店の前では寒そうにしながら多くの人が並んでいて、二振りが並んだ後にも続々と人が並んでいき、その様子を見て列の最後尾へと向かう者もいる。
二振りが並んでいる他の人達を眺めている間に、いつの間にか店から出てきた店員が、列の前から順番に事前にメニューを手渡していた。
 
「本歌、メニューを貰った。予め何を頼むか決めておこう」
 
店員からメニューを受け取った国広は、メニュー表を開いていそいそと山姥切に見せた。
 
「今日一番で目が輝いているな、そんなに楽しみだったのか?」
「ああ、正直一番楽しみにしている。……ん?」
 
そう言いながらメニュー表に目を落としていた国広だったが、視界の端に見覚えのある影を捉えて、ふと顔を上げた。
見間違いかと思ったが目を凝らしてみると、道路の向こう側に短刀の時間遡行軍が一体、人目につかないように移動して、建物と建物の狭い間へ入っていく様子が見えた。
 
「本歌!時間遡行軍だ!」
「ああ、俺もこの目で見た!急いで追いかけるぞ偽物く」

遡行軍を追いかける為に山姥切が駆け出そうとした瞬間、国広の腹から大きな音が鳴った。
 
「え」 
「え、あ、ちがっ、いや、その……」
 
 音に驚いた山姥切が振り向くと、国広は自分の腹を押さえながら山姥切と店を交互に見返して、忙しなく顔を赤くしたり青くしていた。
この目で見た時間遡行軍は一体のみだが、もしこの列から離れて、時間遡行軍との戦闘が長丁場になってしまったら、店のラストオーダーの時間に間に合わない可能性もある。
明日はあしかがフラワーパークに行った後、そのまま政府へ戻らなければならないので、この店の料理を食べられるのはこれが最初で最後の好機なのだ。
 
 ここで余談になるが、実はこの山姥切国広、既に空腹が限界に達していた。
普段の彼の食事事情というと、食堂のご飯はいつも山盛りで、三食もれなく、おやつまでしっかり毎日食べている。
そんな彼の今日の食事は、朝早くに食べてとっくに消化してしまった朝食と、数時間前に山姥切に分けてもらった半分のどら焼きのみ。
任務が最優先なのは百も承知だが、昼食も食べ損ねた上に、楽しみにしていた夕食まで食べられないとなると、流石の国広も意気消沈したまま夜を過ごす事になるだろう。
 
「本歌……」

耳を垂らした子犬が縋るような顔を見せる写しを見て、山姥切は大きくため息を吐いた。

「……セットは諦めろ。代わりに料理のテイクアウトはしておいてやるから、ひとりで仕留めて来い」
「ありがとう山姥切!在庫があるならついでに概念盃も買っておいてくれ!行ってくる!」

山姥切の一言で元気を取り戻した国広は、ちゃっかりと追加で買って欲しい物も頼んで、そのまま全速力で飛び出していった。
 
「……コンビニでサラダか何か……惣菜も多めに買っておこうか。偽物くんがこの料理だけで足りる訳が無いし、栄養が偏ってしまいそうだ」

山姥切はみるみる小さくなっていく背中を眺めて苦笑すると、店員の誘導の声を聞いて店内に入って行った。

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!

コメント