看病の方法は図鑑に載ってない

ツイステッドワンダーランドツイステ一話完結小説

「アズール!!」
  
 双子に案内させたリドルは、アズールの部屋に突撃するとすぐさま部屋の奥にある風呂場のドアを開けた。
そこには目を閉じたまま唇を紫色にして、ぐったりとバスタブの壁に凭れ掛かって身を震わせているアズールがいた。
リドルはすぐさま彼の頬に手を添えると、人肌とは思えない程に冷え切っていて、次に彼が浸かっている水風呂に手を入れてみると、病人でない普通の人間でも身体に悪そうな程に冷たかった。
  
「このっ、バカッ!!!」

 咄嗟に出て来た言葉は拙い物だったが、いつもの癇癪じみた怒鳴り声ではなかった。
先程からずっと彼の後ろで戸惑った表情を浮かべていたジェイドとフロイドは、リドルの本気の剣幕にビクリと肩を震わせた。
 
「ほとんど意識が無い状態で風呂に入れるなんて、アズールを溺死させる気かい!?」
「えっ……溺死?」
「アズール熱かったのに……水に入れちゃ、ダメだったの?」

 良かれと思ってアズールを水風呂に入れていた双子は、リドルから出た「死」の言葉に、分かりやすく表情を強張らせた。
陸に上がってまだ半年も経っていない彼らは、陸の病気の知識はゼロに等しく、海でも病気とはほぼ無縁の健康優良児だったので、看病なんてやった事が無かったのだ。
火は水で消せるし、熱ければ冷ませばいい。
そんなシンプルな考えから、ジェイド達は熱で体温が上がってぐったりしているアズールを水風呂に入れていたのだ。
 
「ぬるま湯どころかこんな冷水に浸からせるなんて、体調が悪化するに決まっているだろう!!……何をボーっとしているんだい!早くアズールを引き上げるんだ!!返事は「はい」以外認めないよ!」
「は、はいっ」

 リドルに叱咤されて我に返ったジェイド達は、急いでバスタブからアズールを出してひとまず風呂場の床に座らせた。
全身びしょ濡れの身体は外気に触れて、彼の体温を更に奪っていく。
寒さで更に身を縮こませる仕草を見せたアズールを見て、ジェイドをフロイドは自分の制服が濡れるのも構わず、震える彼を自分達の腕に抱えた。
 
「アズール、聞こえますか?起きてください」
「アズール、アズール!ごめんね……起きてよ」

 双子は自分達の体温を分けるように、アズールをギュウギュウにして何度も呼び掛けた。
ジェイドは今までに見た事がない程真剣な顔で、フロイドに至っては若干涙目になってアズールに呼び掛けている。
リドルも彼の今の状態を確かめる為に、その冷え切った首元に手を伸ばした。
 
「アズール、アズール」
 
首元に手を当てて簡単に脈を確認したり、ちゃんと呼吸ができているかを見てから、リドルは呼びかけながらアズールの青ざめた頬を軽く叩くと、彼はうっすらと目を開いた。

「アズール、アズール?分かるかい?」
「……ぅ……さむ、い……」
「安心おし、すぐに楽になるからね。もう少し我慢するんだよ」
「…………」

 アズールは一言だけ呟くと、再びぐったりとジェイド達に身を預けて、また目を閉じてしまった。
本当は風呂に入らせるだけでも体力を消耗するので、早くベッドに寝かせてやりたかったが、こんなに身体が冷え切っていては良くなるものも良くならない。
とにかく急いで彼の身体を温める必要があった。
少し俯いて思案を巡らせたリドルは、ふと目に入った壁に掛かっているシャワーを引っ掴むと、蛇口のコックを捻って水を出し始めた。

「リドルさん?」
「ジェイド。ボクがアズールを温めておくから、パジャマとバスタオルの用意を。それと救急箱の様な物があれば探して欲しいのと、可能であれば部屋を温めておいてくれ」
「……分かりました。アズールをお願いします」

いきなりシャワーを使い始めたリドルに不思議そうな顔をしたジェイドは、彼からの指示を受けると、一度アズールに視線を落としてからその場から離れていった。
  
「金魚ちゃん、オレは?」
「今からボクがお湯をかけていくから、その間アズールの身体を支えて欲しい」
「分かった」
 
 シャワーの水は僅かに湯気が立つ温かいお湯になっていたので、リドルは勢いが強すぎないようにお湯の量を調節してから、アズールの手足の先からお湯をかけ始めた。
それきり二人は必要な事以外は無言で作業に当たっていたので、風呂場には静かな水音だけが響く。
足、手先、腹、肩、胸、そして顔にお湯がかからないように首元と、身体の末端から順番にお湯をかけていくと、ようやく彼の肌にほんのりと赤みが差した。

「リドルさん、バスタオルと着替えをお持ちしました」
「ありがとう。こちらもある程度温まったと思うから、アズールを着替えさせてやってくれ」
「分かりました」

タイミングよくジェイドの用意ができていたので、リドルはシャワーのお湯を止めると、脱衣所で待機してもらったジェイドに温まったアズールを預けた。

「それと頼まれていた救急箱なのですが、アズールの部屋にあった物はほとんどが怪我の応急処置に使う物ばかりでして、この中に使えそうな物はありますか?」

 アズールの身体をバスタオルで拭いてやりながら、ジェイドは着替えを置いている籠の隣に小さな救急箱を指さした。
リドルが中身を改めると、彼の言った通り軟膏や消毒液、包帯、ガーゼ、絆創膏などが綺麗に整頓されてそこに鎮座していたが、怪我をした時に使う物ばかりで風邪の市販薬などは全く入っていなかった。

「……体温計だけは使わせてもらおうかな」
 
救急箱の端に追いやられるように突っ込まれていた体温計だけ取り出すと、リドルは今のアズールに必要な物を頭の中でリストアップした。
 
「フロイド、アズールは常備薬は持っていないよね?それと、何かアレルギーとかはあるかな?」
「人魚の変身薬の事?だったら予備があるけど。アレルギーは……無いと思う」
「いや、今変身薬は必要ない。キミには買ってきて欲しい物があるんだ。量がそれなりにあるんだけど、メモは必要かい?」
「いい、全部覚えるから教えて」
「分かった。じゃあまずは……」

リドルが頭に浮かべたリストを読み上げるように必要な物を言うと、フロイドはその一つ一つに相槌を打ち、全部聞き終えるとブツブツ呟きながら内容を一通り反復して立ち上がった。

「……オッケー、覚えた。金魚ちゃん、アズールの事お願いね」
「ああ」

それだけ言い残すと、フロイドは部屋のドアにぶつかる勢いですぐさま部屋を飛び出して行った。

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