看病の方法は図鑑に載ってない

ツイステッドワンダーランドツイステ一話完結小説

「リドルさん。アズールの髪を乾かしたいので、少しの間アズールの身体を支えてもらえませんか?」
「分かった。その後で一度体温を計っておこうか」
「ええ」
 
 パジャマに着替えさせてベッドにアズールを運んだ二人は、彼をベッドに腰かけさせると、リドルは隣に座ってアズールの肩を抱いて支え、ジェイドはその後ろからドライヤーを使って彼の髪を乾かし始めた。
温風が吹きかけられた銀髪は、ジェイドがドライヤーの角度を変える度に風の方向へ揺れて、少しずついつものフワフワとした髪に戻っていく。
アズールの髪を乾かしている間、リドルは彼の肩を抱くだけで手持ち無沙汰になったので、ジェイドの手と乾いていくアズールの髪をぼんやりと眺めた。

「終わりました」
「ありがとう。アズール、脇に体温計を入れるからちょっと失礼するよ」

 リドルはアズールに一言断ってから、彼のパジャマの一番上のボタンを外して、脇に体温計を差し込むと、腕を軽く押さえつけて体温計が落ちないようにした。
しばらく待っていたらピピピ、と電子音が鳴ったので取り出すと、予想していたより高い数値を示していた。

「思ったより高いな……」
「リドルさん」
「なんだい?」
「……ありがとうございます。僕達だけじゃ、どうすればいいか分からないままアズールの体調を更に悪化させる所でした」

礼を言うジェイドの声はいつもより沈んでいて、普段お手本の様な笑顔を浮かべている表情も今は少し悲しげで、暗い影が差していた。
 
「風邪はちゃんと対処すればすぐに治る事が多いけれど、拗らせたら肺炎などの他の病気になってしまう事だってあるんだ。軽い症状だからって決して軽く見てはいけないよ、ましてや今回みたいに水風呂に突っ込むなんて論外だからね」
「……肝に銘じておきます」
「ただいま!」

 ジェイドが纏う暗い空気を吹き飛ばすかのように、豪快な音を立てながらフロイドが入ってきた。
走って帰ってきたらしく、フロイドの息はあがってうっすらと額に汗が滲んでいる。
予想以上の速さにリドルは目を丸くして、ジェイドも音に驚いてポカンと口を開けた。

「お、思ったより早かったね……」
「頼まれた物、これでよかった?」
 
フロイドは抱えていたビニール袋を漁ると、リドル達が座っている隣に買った物を並べ始めた。
風邪用の市販薬、レトルトのお粥とゼリーが数個ずつ、スポーツドリンク数本など、リドルが指定した通りの物が揃っていた。

「上出来だよ。ありがとうフロイド」
「薬は一応すれ違ったイシダイ先生に聞いて、変身薬との飲み合わせも確認してる」
「それも確認してくれたのかい?すごく助かるよ」

フロイドがそこまで気が回るとは思わず、彼の機転にリドルは驚いたが、素直にありがたく思っておく事にした。
 
「あとウミウマくんからのオススメで、おでこに貼る薄いクラゲみたいなのも買ってきた」
「……クラゲ?……ああ、冷却シートだね。ありがとう」

フロイドのよく分からない説明にリドルは首を傾げたが、最後に彼が取り出した物のパッケージを見て納得した。

「薬を飲む水を用意した方がいいですか?」
「そうだね。スポーツドリンクと一緒に飲むと薬本来の効果が出ない事が多いから、お願いするよ」
「かしこまりました」
「金魚ちゃん、このクラゲアズールに貼ってもいい?」
「ちょっと待ってくれないか。……はい、これでいいよ」

髪の毛を巻き込まないようにリドルはアズールの前髪をあげてやると、フロイドは初めて触るにも関わらず、綺麗に冷却シートを貼り付けてみせた。

「……うぅ」
「アズール?」

貼り付けた冷却シートが冷たかったのか、小さく呻き声を漏らしたアズールを見て、フロイドが顔を覗き込むと、彼は再び薄く目を開けて起きていた。
 
「アズール、起きた?」
「……フロイド?」
「アズール、薬を飲もう。今ジェイドが水を用意しているから、もう少しだけ起きていられるかい?」
「リドル、さん……どうして?」

アズールはリドルがここにいる事に驚いて、ぼんやりとしながらも僅かに目を丸くした。

「今はそんな事考えなくていい。自分を治す事に専念するんだ、おわかりだね?」
「すみません……」

だるい身体を無理矢理叱咤して、身を起こそうとするアズールを宥めると、彼は諦めて身体の力を抜いた。

「リドルさん、水です」
「ありがとう。アズール、薬と水だよ。飲めそうかい?」
「はい……」

 リドルは箱から取り出した錠剤の風邪薬と、ジェイドから受け取ったコップの水をアズールの前に差し出した。
ぼんやりとしながらも先程より意識がはっきりしてきたアズールは、いつもより緩慢な動作でそれらを受け取ると、薬を口の中に放り込んで、水を飲み込んだ。
熱でかなり喉が渇いていたらしく、コップの水はあっという間に飲み干された。

「はあ……っ、ケホケホ……」
「よく頑張ったねアズール。あとはゆっくり寝て、よく身体を休めるんだよ」
「はい……」

リドルはジェイドに手伝ってもらいながらアズールをベッドに寝かせると、既にかなりの体力を消耗していたアズールはすぐに寝息を立て始めた。
 
「アズール、またグニャグニャタコちゃんに戻っちゃったね。それにすげー汗」

しばらくアズールの寝顔を眺めていたフロイドはそう言いながら、アズールの首筋の汗をハンカチで拭ってやっていた。
 
「体内のウイルスを排除するために、身体が体温を上げているんだ。だから無理矢理体温を下げようとせずに安静にして、水分と栄養を摂る事が大事なんだよ」
「ふーん……」
「かといって無理矢理食べさせるのは逆効果だからね」

フロイドが相槌を打ちながら買ってきたレトルトのお粥やゼリーに視線を落としたので、「沢山食べさせれば早く治るんじゃね?」なんてとんでもない考えを起こさないように、リドルは念の為に釘を刺しておいた。
  
「……ひとまず今できる事はこれくらいかな。長居してはアズールも休めないだろうし、そろそろ寮に帰るよ」
「金魚ちゃん、ありがとね」
「リドルさん、今日は本当にありがとうございました。後は僕達でなんとかしようと思います。アズールの看病で、他に気を付けておくべき事はありますか?」

できる事を一通り終えて帰り支度を始めるリドルに、ジェイドとフロイドは彼を見送る為にドアの近くに立って礼を言った。
 
「そうだね……まず、スポーツドリンクは冷蔵庫に入れずに常温でアズールに飲ませてあげてくれ。冷やした方が飲みやすいかもしれないけれど、今のアズールじゃ身体を冷やしてしまうからね。そして一度に沢山飲ませようとはせずに、少量をできるだけこまめに摂らせること。お粥とゼリーはアズールが食べられそうだったら、無理のない範囲で食べさせた方がいい。それと、ボク達がやったのは応急処置みたいなものだから、何か異変が起きたらすぐにここの寮長か、保険室の先生に知らせて指示をあおぐ事。専門家でもないボク達生徒が自己判断で行った事が、事態を更に悪化させる事だってあるからね。それと……」

 リドルはつらつらと注意するべき事をジェイドに説明していたら、自分がエレメンタリースクールに入る前に風邪で熱を出した時の事を、ふと思い出した。
熱のせいでその日こなす予定だった課題が全くできなくて、「熱を出すなんて、自己管理ができていない証拠だ」と、リドルの母は息子に適切な処置だけ完璧に済ませると、すぐに部屋から出て行った。
風邪がうつるのであまり病人に近寄ってはいけないのは、頭で理解している。
それでも誰もいない部屋が妙に広くて静かで、光が差す窓がいつもより遠くて、とても心細かったのを今でも覚えていた。

「リドルさん?」

不意に言葉を切ったリドルに、ジェイドは首を傾げた。
 
「……ああ、すまない。アズールが起きたら、ほんの少しの間でもいいから側にいて声を掛けてあげた方がいい。アズールも初めての熱で不安な思いをしているだろうからね」
「あはっ、アズール意外と寂しがりだもんね」
「言われるまでもありませんね。それで僕達に風邪がうつったら、次はアズールに看病してもらいましょう」

リドルのアドバイスに、ジェイドとフロイドはようやくいつもの何か企んでいる様な笑顔を浮かべた。

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