1、「せっかく陸に来たんだから、楽しまないとね」

ツイステッドワンダーランド生き別れのウツボの人魚

 魔法士の卵を育成する養成学校、名門ナイトレイヴンカレッジ。
そんな学園の入学式は、新入生も在校生も皆厳かな意匠の式典服を身にまとって、闇の鏡による寮分けの儀式が粛々を行われる。
しかし今年の入学式は、魔法が使えない異世界からやって来たと思われる一人の少女と、火を吹く猫の様なモンスターの乱入により、異例の大騒ぎとなった。
 そんなトラブルだらけの入学式だったがそれも何とか終了し、寮の新入生の挨拶も済ませたオクタヴィネルの寮長、アズール・アーシェングロットは、式典服からいつもの寮服に着替えてから、VIPルームの自分のソファに座り、有能な右腕である副寮長のジェイド・リーチから受け取った、新入生の情報が細かく書かれた一覧のリストを入れたファイルの山に目を通していた。

「アズールお疲れ~」
「お疲れ様です、アズール」

 カチャリと軽い音がしたのでアズールが振り向くと、紅茶を持ってきたジェイドとその双子の兄弟のフロイド・リーチが、部屋に入って来た。

「お疲れ様です。ジェイド、フロイド。今年は得体の知れないモンスターと異世界人、異例づくしで少々疲れました」

アズールは自分の眼鏡を外すと、軽く自分の目元を揉みこんで目の凝りを軽くほぐした。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

ジェイドが彼のテーブルに持ってきた紅茶を入れたティーカップを置くと、アズールはジェイドに礼を言ってティーカップに口をつけた。
紅茶の控えめで爽やかな香りが飲みやすく、疲れ気味の身体に滲み渡った。

「また腕を上げましたね、ジェイド」
「ありがとうございます」
「ねえアズール、これって今日うちに入ってきた小魚達のリスト?」

フロイドはパラパラと山積みにされたファイルの中身のページを捲った。

「ええ、保管する前に一度目を通しておこうと思いまして」
「え~別に明日でもよくね?」
「せっかく得た情報です。少しでも早く頭に入れて、自分の物にしなければ意味がないでしょう」
「ふ~ん」

フロイドはファイルに興味を無くしたのか、それをアズールの机にポンと放ると、近くの大きなソファにドカリと豪快に座った。
ジェイドはそんな彼に困ったようで困っていない笑顔を浮かべると、彼が座った時に床に落ちた帽子を拾ってテーブルに置きながら、自分も向かいのソファに座った。

「そういえば今年は面白い所から来た新入生の方達がいましたね」
「そうでしたね。『船の墓場』……まさかあんな所から新入生が来るとは」

 船の墓場は三人の出身である珊瑚の海から大きく離れた深海にある。
その名前の通り、数十年ごとに起こる大規模な潮の流れの関係で、海のあらゆる場所から沈没した船が流れて集まってくる場所だ。
深海の部類には入れども、比較的水深が浅い箇所が多い珊瑚の海などに住む普通の人魚では、水深が倍以上ある船の墓場は水圧で内臓への負担が大きく、深海魚の人魚でもない限りとても住めるような場所では無い。
更に沈没した船が多く集まるという事は、多くの未練を持った思念が集まるという事。
その為凶悪なゴーストが多く徘徊している恐ろしい場所で、そこに落ちた者は決して生きて帰れないと言われていた。

「あそこは深海魚の人魚でも寄り付かない暗闇の地。一体どうやって生き延びていたのやら、少し興味があります」
「確かその内の一人は『はぐれ者』。この年齢まで生きているとは相当運のいい方のようだ」

産まれた時から親の庇護から離れて成長する『はぐれ者』の人魚の生存率は、普通の人魚に比べて遥かに低い。
なのでアズール達のように成魚と分類される年まで生きている者は、非常に珍しい事なのだ。

「いいじゃんそいつらがどんな奴らだって。どうせやる事は変わらないんだからさあ」
「まあ、それもそうですね。何かあればその都度対処すればいいだけの話です。が、気にはかけておきましょう」

既にこの話に飽きているフロイドの言葉に同意しながら、アズールはページを捲って次の生徒のデータに目を通し始めた。

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