1、「せっかく陸に来たんだから、楽しまないとね」

ツイステッドワンダーランド生き別れのウツボの人魚

「……っだああ!!疲れた!!」
「もう尾びれ一つも動かせない……」

 無事入学式が終わりオクタヴィネル寮に振り分けられたスレイドとバイトは、案内された部屋に着いた途端ベッドにも行かず、そのまま床に足を投げ出した。

「照明眩しいから消す?」
「そうだな」
「スイッチどこだろう」
「ああ、ドアの隣にある、あの小さい奴じゃねえか?」
「これ?どうするの?」
「出っ張ってる所を押すんだよ」

 もう立ちたくなかったスレイドは、座ったまま腕を使って移動して、バイトに言われた通り部屋のスイッチを押すと、無事部屋の照明を落とす事に成功した。
照明が落とされた部屋は、設置されている家具の輪郭が辛うじて分かる程度の暗さで、光を失った空間は静けさを増し、遥か遠くから海の中でいつも聞いていた水の音が、耳を掠めていった。

「はあ……やっぱりこの暗さと静けさが一番落ち着くな」
「うん、これならサングラス外してもいいよね」

親しみのある暗さと静けさにバイトは息をつき、スレイドは身に着けていた自分のサングラスを外した。

 陸に上がってから、二人は自分達の目が他の皆と違う事に気づかされた。
スレイドはほとんど光の差さない海の底で育った為、通常だと気づけない程の小さな光でも見逃さないように目が発達していて、昼間の明るさだとかなり眩しく感じてしまうので、入学前にサングラスを支給されている。
バイトに関してはほとんど目が見えていない上に、スレイドと同様強い光には敏感だった為、視力を補正する魔法がかけられた遮光眼鏡が渡されていた。

「バイト?眼鏡外さないの?」

サングラスを外したスレイドに対して、バイトは自分の眼鏡を外さずにどこか宙を見つめていた。

「……陸の魔法ってすげえな」

薄暗い部屋の中で、バイトはポツリと静かに言いながら、自分の眼鏡に触れた。

「こんな魔法知らなかった。海でも陸でも走れる馬車が来たし、尾びれは二本の足になった。それに生きている間に目が見えるようになるなんて……思いもしなかった。世界が変わるって、こういう事なんだろうな……オレお前の顔がちゃんと見れるとは思わなかったよ」
「……俺も、初めてバイトと目が合って嬉しい」

冗談交じりではなく、本当に嬉しそうに目を細めて笑うバイトを見て、スレイドもしっかりと焦点が合った彼の目を見て笑い返した。

「明日からの学校、何をするんだろうね?」
「さあ?どんなのでもオレ達には全部ハジメテだろう?」
「不安?」

スレイドが僅かに首を傾けて問いかけると、バイトはさっきの笑顔とは打って変わって、ニッと鋭い歯を剥き出しにしたいつもの笑顔を見せた。

「ひひっ、冗談だろ?楽しみに決まってんじゃねえか」
「ふふ、バイトならそう言うと思ってた。せっかく陸に来たんだから、楽しまないとね」

彼の笑顔を見て、スレイドは満足そうに笑った。

2021年11月21日 Pixivにて投稿

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