2、「残念、はずれ」

ツイステッドワンダーランド生き別れのウツボの人魚

「なあ、あいつ……」
「ああ、やっぱり似てるよな」
「弟がいるって聞いた事あったか?」
「聞いた事ねえぞ、親戚か何かか?」

 大食堂の入り口前。
学園の生徒達の視線は、たった今大食堂に入っていったある噂の新入生に注がれていた。

 一年のオクタヴィネルのスレイド。
180を超えた長身、肩近くまで伸ばされたターコイズブルーの髪に黒のメッシュ、寮のカラーの色をしたパーカーのフードを深く被り、常に黒いサングラスをかけていて顔をちゃんと見た生徒は、まだほとんどいない。
しかしふとした時に見える、フードとサングラスの下の顔は、とある他の生徒達の事を連想させた。

 彼と同じ寮の副寮長のジェイド・リーチ、そしてその双子の兄弟フロイド・リーチ。
オクタヴィネルの寮長、アズール・アーシェングロットの両腕であるウツボの人魚。
良くも悪くもこの学園では有名な双子に、僅かな身長差と髪の長さの違いを除けば見紛う程、スレイドは彼らにそっくりだった。
あの双子との関係性は何なのか、生徒達は様々な考えを巡らせては、身近な仲間同士で噂し合った。


「んっ。……あっ。……難しい」

 生徒達の不躾な視線を余所に、スレイドは一番最後に食べようと思っていたプチトマトに苦戦していた。
瑞々しい見た目と鮮やかな色に惹かれて食べてみようとは思ったものの、フォークで刺そうとしても上手く刺さらず、プチトマトはフォークから逃げてコロコロと皿の上を転がるのを繰り返していた。

「う~ん……まあ、これくらい手づかみでいっか」

数分間の奮闘の末、とうとうフォークを使うのを諦めたスレイドは、そのままプチトマトを摘まんで口の中に放り込んだ。

「むぐ……ん、っ~~!?」

 口の中に急に広がった未知の味に、スレイドは驚いて口を両手で押さえた。
味には驚いたが吐き出す事はしたくなかったので、スレイドは口を押さえながら何とかプチトマトを噛んで飲み込んだ。

「ぷはっ。……初めて食べたけどなにこれ、背中がぞわぞわした……マズくは無かったからまた今度食べてみようかな」
「……」
「えっ、バイト?」

隣で一緒に食事を摂っていたバイトが、真っ青な顔でスレイドの肩にもたれかかって来た。

「頭がいてえ……お前に絞められてるみたいだ……」

バイトはそう言いながら、頭を片手で押さえて浅く細い息を繰り返した。

 バイトはこの学園に来て、生まれて初めてほとんど見えなかった目が見えるようになった。
しかし、その為急激に視覚情報が流れ込んでくる反動で、彼は時々頭痛を訴えるようになった。
保険医の話によれば、慣れてくれば次第に収まっていくので、頭痛が酷いようなら保健室に来るようにと言い渡されていた。

「大丈夫?保健室いく?」
「いや、いい。休んでいれば治る」
「じゃあ眼鏡外して目をつぶっておいたら?動く時は言うから」
「わりいな」

普段より弱い声で一言謝ると、バイトはスレイドの言う通りに眼鏡を外して目を瞑って、ぐったりと力を抜いて彼の肩に完全に身を預けた。

「……なあ。さっきから見られてないか?」
「えっ?」
「食べる気にもならない魚に体を突っつかれてるみたいで鬱陶しいんだよ」

目をつぶったまま、いきなり声を潜めて告げられたバイトの言葉に、スレイドがさっと辺りを見渡すと、何人かが気まずそうに目を反らす生徒がいた。

「本当だ……バイトが具合悪そうだからかな?」
「ちげえよ、お前だよ見られてるのは」
「俺?」

スレイドはバイトの頭に響かないようになるべく小声で話すと、彼は僅かに目を開けてぼんやりとスレイドに視線を寄越した。
いきなりバイトの話が自分の話に変わったので、スレイドは不思議そうに首を傾げた。

「『似ている』って言葉がよく聞こえる……お前、何か分かるか?」
「うーん……俺達そこまで似てないよね?」
「おいおい、お前はウツボでオレはダルマザメだぜ?どう考えても似てねえだろ」
「爺さんにも似てないし……」
「当たり前だ。あいつら爺さんの事知らないだろう。お前と爺さんが似ている所なんて、せいぜい体が長いくらいだ」
「じゃあ、俺達がサングラスと遮光眼鏡かけてるのが珍しいんじゃない?他の人達で色が付いた眼鏡はあまりかけてないみたいだし」
「絶対原因それじゃねえと思う」
「そうだね」

軽い気持ちで言った冗談達を、バイトに苦笑交じりに全て否定されたが、スレイドは大して気にせずに残りのスープを喉に流し込んだ。

「じゃあ今度誰かに聞いてみようかな、その方が早いし」
「そう上手くいくもんかねえ……ん、大分マシになった。ありがとな」

いくらか顔色が戻ったバイトは、ゆっくりと身を起こして眼鏡をかけた。

「どういたしまして。これ返してくるよ」
「ああ、頼んだ」

スレイドは空になった二人分の食器を返してから、大食堂を出た。
その後で先に大食堂を出ていたバイトと合流して、次の授業の場所へと向かった。

「そういえばバイト、部活どうする?」
「あ?……ああ、そういえばまだ決めてなかった。お前は?」
「俺もまだ。見学できるみたいだから放課後行ってみない?」
「そうだな。寮に戻っても課題こなすだけだし、行ってみるか」
「じゃあ、俺次の選択授業違うの選んだから。放課後中庭で」
「おう」

待ち合わせ場所を決めると、スレイドはバイトに軽く手を振って別れた。

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