4、「大変、この人髪の毛が燃えてる!」

ツイステッドワンダーランド生き別れのウツボの人魚

ボードゲーム部

 ナイトレイヴンカレッジの数ある文化部の一つで、部員達は週に数日教室を借りて、それぞれ興味のあるゲームを持ち寄っては、各自自由にゲームを楽しんでいる。
積極的な活動はしておらず、基本に自由に顔を出していい部活なので、活動に参加しない生徒がいても誰も咎めはしない。
なので皆気が向いたり都合がいい日に顔を出しては、勝手に楽しんでいる。
この部活に所属しているイグニハイド寮長イデア・シュラウドと、オクタヴィネル寮寮長アズール・アーシェングロットも同じく、人気の少ない教室の窓際の机を借りて、いつものようにゲームにいそしんでいた。

「そういえばイデアさん、ここ部員の勧誘はしないのですか?」
「そんな事して沢山来られても困りますし、部活紹介のパンフレットには載せているからそれで十分でしょ」
「さすがに一人も来ないとなると、部活の存続に関わりますよ」
「その時はその時ですしおすし」

数日前にもやったようなやり取りをしていると、ギィと教室の扉が開かれる音がした。

「「こんにちは」」

聞きなれない声に二人が目を向けると、オクタヴィネル寮の一年生の二人組、スレイドとバイトが入って来た。

「ボードゲーム部ってここかな?」
「パンフレットにはここって書いてあったぞ」

活動場所がここで合っているか分からない二人は、入り口から教室の中をキョロキョロと見渡していた。

「あれ、あの人うちの寮長だ。ここの部活だったんだな」
「あ、本当だ。寮の偉い人でも部活はするんだね」

 自分の寮の寮長のアズールの存在に気づいた二人は、知っている人を見て少し安心したような表情を見せたが、常に人前に立って忙しそうにしている彼が、普通に部活をしている姿が珍しく映ったらしく、同時に物珍しそうな顔をしていた。

「ようこそボードゲーム部へ、見学でしたらどうぞこちらへ。スレイドさん、バイトさん」

いつもの営業スマイルで自分の寮生を歓迎するアズールに声を掛けられて、二人は教室の中へと案内された。

「オレ達の名前言ったか?」
「まだジコショウカイ?はしてない筈だけど」
「自分の寮生の顔と名前は全員把握してますよ。特に貴方は噂で有名ですからね、スレイドさん」

 名乗っていないのに自分の名前を知っている事を不思議に思っている二人に、アズールは頼れる寮長の顔で微笑んだ。
感心した様に目を見開くバイトに対して、『噂』と聞いたスレイドは少しだけ眉を上げた。

「……あんたも噂聞いてたんだ。あいつらにこの前会ったけど、そんなに似てないと思うんだよね。あんたあの二人と仲良さそうだったけど、俺そんなにあいつらと似てる?」

 アズールの両腕であるジェイドとフロイドがスレイドと接触した事は、彼ら本人からその日の夜に聞いた。
スレイドが彼らの生き別れの兄弟である事を聞かされて、今まで一度も聞かされていなかった他の兄弟の存在に、話を聞いたアズールはとても驚いた。
双子の話や他の生徒達の噂でスレイドの話は聞いていたが、実際の彼は初めて対面する。
ジェイドと同じ向きに流された黒いメッシュと、少しだけ長いターコイズブルーの髪、サングラスの下から見える両の目はどちらもゴールドで、アズールを見下ろす眠そうな目つきは、フロイドに少し似ている気もする。
彼らよりも少しだけ低い身長で線の細い体つきという事もあって、あの双子より一回り小さく見えて、三つ子とまでは思えないが兄弟だろうと判断してしまう位には、スレイドは彼らに似ていた。

「彼らとはそれなりの年数の付き合いですが、似ても似つかない。そんな感じがしますね」
「そっか」

 本人は双子との記憶が無いので、本当に兄弟かどうか疑っているという話を聞いていたから、彼らと似ていると言われる事が不快に思っているのかと思い、アズールは営業スマイルのまま特に当たり障りのない感想を言った。
どうやらその答えは正解だったらしく、スレイドは特に大きなリアクションをする事無く、素っ気なく返した。


「イデアさん、見学希望の新入生が来ましたよ」
「噂をすればなんとやらって?何で話をしていた矢先に……って、ヒッ!?か、カタギじゃない人ですか?」

 イデアは案内された二人を見て、体を硬直させた。
目の前に立っていた二人組は、アズールと同じオクタヴィネル寮の一年生。
長身の方の男は、アズールの両隣にいるウツボの双子そっくりの髪色に、黒のジャケットの下に着ている無地の寮カラーのパーカーのフードを被った上で、真っ黒のサングラスをしているのでほとんど顔が見えない。
対して平均的な身長の方の男は、指どおりの良さそうなストレートの短い黒髪で、ジャケットの下は黒色のハイネックの全身真っ黒コーデで、茶色のレンズの遮光眼鏡の下からはみ出る位の大きな緑色の目が、ぼんやりと光っている。
見るからに怪しく威圧感のある出で立ちの二人組に、イデアはすっかり委縮してしまった。 
ひとまず案内された新入生に一言適当に挨拶をして、あとは見学なりさっさと帰るなりして貰おうと、イデアはブツブツとこれからの算段をつけながら、重い腰を上げて席を立った。

「え、えと……」
「あれ?……大変、この人髪の毛が燃えてる!」
「は?」

 口を開こうとしたイデアを見たスレイドは、彼の青く燃える髪を見るなり慌てた様子で声を上げた。
柄悪く絡まれる事も覚悟していたイデアは、見た目に反して幼い口調でいきなり指をさされて、つい気の抜けた声が出てしまった。

「何言ってるんだよお前。火は赤色なんだろ?青い火なんてあるのか?」
「バイト忘れたの!?高い温度の火は青色になるんだよ、ヤケドじゃすまないって!!」

最初は慌てるスレイドを不思議そうに見上げていたバイトだったが、彼の言葉を聞くとバイトもイデアの髪を見て慌て始めた。

「え!?……じゃあヤバい!!おい水、みずっ!」
「え?……は?」

イデアを知らない二人は、本気で彼が燃えていると思い込んでいるようで、慌ててマジカルペンを構えて水魔法を放った。
初対面でいきなり魔法で水をかけられそうになって、イデアは驚きと混乱で絹を裂くような悲鳴を上げた。

「キャー!?初対面でいきなりの水責め!?」

二人によって放たれた水魔法は、イデアの頭上に降りかかろうとしたが、横から放たれた別の魔法によって阻まれた。

「落ち着きなさい貴方達」

マジカルペンを構えて先程二人の魔法を相殺させたアズールが、二人とイデアの間に立った。

「何も知らない状態で、いきなり人に向けて魔法を放つものではありません。彼の髪は元から燃えているんです」
「元から?」
「人間の髪って燃えるのか?」
「全ての人間がそうではありませんが、そういう人間もいるんですよ」

表情を険しくするアズールの言葉に、二人はポカンとした表情を浮かべた。

「た、助かった……アズール氏、君の後輩達一体何なの……」
「すみませんイデアさん。彼らはまだ人間の事がまだ分かっていないので」
「いや悪気が無いのは分かるけどさ……いきなり水かけようとするってどうなの?」

二人に厳しい顔をして説明した後、振り返って謝罪するアズールに、イデアは自分の手をいじりながらブツブツと文句を垂れた。

「そうだったんだ……ごめんなさい」
「……いきなり魔法を放って、悪かった」

 文句を言えば逆ギレをするような生徒が多いナイトレイヴンカレッジだが、そんな生徒とは思えない程二人素直に謝った。
シュンと眉尻を下げて素直に謝る彼らを見ていると、遥か年下の子供を叱っているみたいで、何故かこっちが悪いような気がして来て、イデアはアズールの背中から僅かに顔を出した。

「……別に、いいよ。次は気をつけてね」

弟を持つイデアの兄心が、二人を許した。

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