「……ん?そういえばあんた達誰だ?」
スレイドから眼鏡を返してもらって、ようやくはっきりとリドルとフロイドを認識したバイトは、不思議そうに首を傾げた。
「バイトこれの解除に夢中でほとんど認識してなかったでしょ。こっちの大きいのがこの前話したフロイドで、こっちの小さいのがこの魔法を掛けた……そういえばあんただれ?」
「って、お前も知らねえのかよ」
スレイドがいつもと変わりない顔でフロイドを紹介したが、リドルを知らなかったスレイドは彼を見下ろすと首を傾げた。
彼の話を頷きながら聞いていたバイトは、ガクリと体勢を崩してツッコんだ。
「ああ、確かに名乗っていなかったね。ボクは「金魚ちゃんだよーよろしくね♡」なっ、離せフロイド!後輩に変なあだ名を教えるな!!」
「えー、いーじゃん金魚ちゃんは金魚ちゃんなんだし」
小さいと言われてムッとしながらも自己紹介しようとしたリドルだったが、いつの間にか彼の背後に回っていたフロイドが、リドルの髪の触角をつまんで持ち上げた。
自己紹介を妨害された上に、呼んで欲しくも無いあだ名で紹介されたので、リドルは眉を吊り上げて、自分の髪をつまみながらケラケラ笑うフロイドの手をはたき落とした。
「金魚先輩?随分と変わった名前なんだな」
「ああ、小さくて真っ赤だから『金魚ちゃん』なんだね。怒ると声がトゲトゲするから、アカカサゴでもいいと思うけど」
「ボクにはリドル・ローズハートと言う名前があるんだ、これ以上ふざけたあだ名を増やすのは止めてくれないか」
案の定間違えて認識してしまった一年二人に、リドルはムスリとした顔で呼び方を訂正させた。
「ああ、やっぱりそうだよな。リドル先輩だな。オレはバイト・クッキーカッターだ」
「俺スレイド、よろしくねリドル」
バイトは納得した様に頷いたが、隣で自分を呼び捨てにしたスレイドに、リドルは再び眉を吊り上げた。
「他の寮の生徒だから、そこまでは口出しはしないであげよう。だが上級生相手に呼び捨ては見過ごせないね」
「リドルって名前なのに、リドルって呼んじゃ駄目なの?」
「年上に敬意を払う事は当然の事だよ」
「え~?じゃあウツボちゃんはオレらと同い年だから、別に敬意払わなくてもよくね?」
「え?」
「は?」
「はあ!?」
リドルがスレイドに呼び方について言い聞かせようとしている中、さらっと言ったフロイドの言葉に、一同驚いて聞き返した。
中でも一番驚いていたのは、何故か本人のスレイドではなく、その隣に立っていたバイトだった。
「そうなのかスレイド!オレより年上なのか!?」
「そうなの?」
目を吊り上げたバイトに胸倉を掴まれてガクガク揺さぶられながら、スレイドは不思議そうな顔でフロイドを見上げた。
「決まってんじゃん、同じ時期に生まれてんだから。てかダルマザメちゃんも知らなかったんだ」
「ずっと同い年だと思ってたんだよ!何で教えてくれなかったんだ」
再び自分に詰め寄るバイトを見て、スレイドは「ええ……」少し戸惑った顔をした。
「だって自分の年なんて知らないし、教えようがないじゃない」
「ウツボちゃん自分の年も分かんなかったの?」
「昼も夜もあってないような所で、カレンダーも時計もないのに、自分の年なんてわざわざ数えないよ」
「同い年だったのか……けれどここではキミとボクは先輩と後輩の関係だ。先輩には敬称を付けるべきじゃないのかい?」
「けいしょう……?」
「おいスレイド。アズール先輩の時と同じで、「けいしょう」は怪我の事じゃねえからな。取り敢えず名前の後に『先輩』を付けてみたらどうだ?」
首を傾げるスレイドを見て、先日のボードゲーム部でのアズールとのやり取りを思い出したバイトは、面倒くさそうな展開を察知して小声で助言をした。
それを聞いたスレイドは少し考えてから、リドルをじっと見つめた。
「リドル……先輩?」
「よろしい。これからはボクの事はそう呼ぶんだよ」
素直に言い直したスレイドに、リドルは満足げに頷いた。
「あ、オレ次移動だった。じゃあこれ返すね金魚ちゃん」
「あっ、フロイド!」
「じゃあねぇ~」
リドルは投げるように返された本を、慌てて手を伸ばして受け止めた。
再度フロイドに文句を言おうとしたが、彼は既に背を向けて手をひらひらと振りながら離れていった。
「おい、そろそろ行かねえと俺達も遅刻するぞ。じゃあなリドル先輩」
「あ、そっか。俺達も次移動だからこれ返すね。すごい魔法見せてくれてありがとう、リドル先輩」
「あ、ああ」
主に規則を違反した寮生などに放つ魔法なので、他の生徒には恐れられている自分のユニーク魔法を『すごい魔法』と言うスレイドにリドルが少し面食らっている間に、彼は微笑みながら持っていた首輪を返して、幼馴染と一緒に小走りで去っていった。
そろそろ午後の授業が始まる時間になり、人気が少なくなってきた廊下には、外された首輪と返された本を抱えて立ち尽くすリドルだけが一人ポツンと取り残された。

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