「あ、バイト先行ってて。俺運動着忘れた」
次の飛行術の授業の為に、運動着に着替えに行こうと二人で歩いていると、急にスレイドが立ち止まった。
「そんなに時間かかんねえだろ、それくらい待っててやるけど」
「いいよ。着替えた後にトイレにも行きたいから、先行ってて」
「そうか?じゃあ先に行くから遅れるなよ」
不思議そうに首を傾げながらも納得したバイトは、廊下の向こうへ歩いて行った。
彼の姿が見えなくなったのを見届けると、スレイドは反対方向へ足を踏み出した。
「お待たせ、バイト」
「おう、遅かったな……ん?……って、は!?」
「授業の時間だ!!」
バイトが運動場で箒を持ってクラスメイト達に紛れて突っ立っていると、スレイドの声で名前を呼ばれた。
少しの違和感を感じながら振り向くと、歩いてきた彼を見て目が零れる位大きく目を見開いた。
凪いだ表情で隣に立つ彼に声を掛けようとしたら、タイミング悪く飛行術の授業を担当するバルガスがやって来た。
「ちょっ、こっち来い!」
簡単な授業の内容の説明と注意事項を聞いたら、基本は自由行動だ。
なのでバイトはバルガスの説明が終わると同時に隣に立つ男の腕を掴むと、引きずる勢いで人の群れから離れた場所へ大股で歩き始めた。
「え、何?痛いんだけど」
「いいから!」
静かに抗議の声を上げる彼を無視して、バイトは強引に離れた木陰まで連れて来た。
ようやく腕を解放されて痛そうに腕を擦った彼は、少し不機嫌そうに顔をしかめてバイトを見下ろした。
「急にどうしたの?バイト」
「どうもこうもねえよ、何やってんだよフロイド先輩!」
「……あはっ」
バイトの指摘に、目の前の男は本人らしからぬ笑い声を上げた。
「すげーダルマザメちゃん。ジェイドから聞いてたけどホントに一発で当てちゃったじゃん。何で分かったの?」
「元気なあんたは気配がうるさいんだよ!何でオレ達の授業に出てるんだ!?いや、そんな事よりあいつはどこに行ったんだよ!?」
「うわ、うるさ」
怒鳴る様に詰め寄ってきたバイトに、スレイドに化けたフロイドは鬱陶しそうに顔を歪めた。
「空飛びたい気分だったから、ウツボちゃんに頼んで授業代わって貰ったんだよ」
「は?じゃあ今あいつ……」
「オレのクラスで錬金術してる」
「あんたのクラスの授業に出てるのか!?」
フロイドの言葉に、バイトは再び目を剥いた。
「錬金術なんて今でさえ授業ついて行くのにギリギリだってのに、二年の授業なんて分かる訳ねえだろ」
「大丈夫だって。ジェイドのクラスと合同だし、フォローは任せてるしさ」
「ええー……」
「そこ!サボるなよ!後で様子を見に行くからな!」
何を言ってもどこ吹く風のフロイドにバイトが戸惑っていると、遠くからバルガスの野太い声が飛んできた。
「ほら~、サボってっとロブスターせんせぇに怒られるよ」
「いてえっ!何でオレが怒られてるんだ、腑に落ちねえ……」
フロイドはバイトの背中をバシリと叩いて、箒を持って広い場所へとのんびりと歩いて行った。
いまいち納得がいかないバイトは、叩かれてヒリヒリする背中を擦って、ブツブツと文句を言いながらフロイドの背中を追いかけた。
その日フロイドが、スレイドの姿でいつもの彼以上に箒で空を飛んだ事でバルガスに評価され、後日かなりハードルを上げられた課題を出されたスレイドは、死んだ魚の目で少しだけフロイドを恨んだのだった。

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