バイトが寮の部屋で課題のレポートに頭を悩ませていると、コンコンとノックの音が響いた。
集中していた所に水を差されて、少しだけ不満に思いながらドアを開けると、ドアの向こうからジェイドが顔を出した。
「失礼します、バイトさん」
「あれ、今日はジェイド先輩ラウンジじゃなかったか?どうしたんだ?」
本来ラウンジにいるはずのジェイドの来訪に、バイトは不審に思いながら首を傾げた。
「少しシフトの事でご相談がありまして、今少々お時間よろしいでしょうか」
「ああ、分かった」
「来週のシフトなのですが……」
ジェイドは作りかけのシフト表を見せながら、バイトにシフトの相談を始めた。
「ありがとうございます。ではアズールに伝えておきますね」
「……なあ、一ついいか?」
数分間でシフトの相談を終えたジェイドは、ニコリと笑って立ち去ろうとしたが、バイトはドアに凭れかかって彼を呼び止めた。
「はい、何でしょう」
バイトの声に、その場を離れようとしたジェイドは振り返って首を傾げた。
「お前敬語下手くそだな。スレイド」
「……おや、何の事でしょう?」
「オレがお前の音を聞き間違える訳ねえだろ」
バイトの言葉に目の前の男は口元に手を当てて愉快そうに笑ったが、バイトが更に畳みかけると彼は一度表情をストンと落として、口の端を持ち上げるだけの微笑みを浮かべた。
「……やっぱりばれちゃったか。さすがだね、バイト」
喉に手を当てて声を変えていた魔法を解いたスレイドは、ジェイドの見た目のまま自分の声で話し始めた。
「また入れ替わりか?」
「うん。この前はフロイドの真似をしたから、今度はジェイドの真似をしてみたの。ちなみにシフトの話はジェイドに頼まれたから本物だよ」
そう言ってスレイドは持っているシフト表をペラペラと揺らした。
「ジェイド先輩はこの事知ってるのか?」
「もちろん。ジェイドにバイトのシフトの相談を頼まれて、じゃあジェイドの真似して聞いてきていいかって聞いたよ」
「なんでそれでそんな話に発展するんだ、よくそんなの先輩からオッケー貰えたな」
「ふふ、喜んでオッケーして貰えたよ。後で結果を聞かせて欲しいだってさ」
「はあ……別にいいけどよ、この前みたいに授業の入れ替わりは止めろよな。フォローできる自信ねえし、心臓に悪いから」
「……」
「おい」
「ふふ」
「はあ……」
バイトが釘を刺すとスレイドは笑っているだけで何も答えないので、バイトはこれはまたする気だなと判断して、諦めた様にため息をついて頭を抱えた。
「これこの前教えたやり方か?」
「当たり。フロイドと入れ替わった時も同じやり方だったの。ピアスは無いから幻覚魔法を使ってるけど」
そう言いながら、スレイドはマジカルペンを振って、自分に掛けている他の魔法も解除し始めた。
ピアスは煙の様に消えて、オッドアイは両目ともゴールドに戻り、髪の元の後ろにくくった少し長い物に変わっていき、身長も少しだけ縮んだ。
「結構上手く寄せられたと思ったんだけど残念。何で分かったの?」
「ひひっ」
見た目を戻しながら口を尖らせるスレイドに、バイトは歯を剥き出しにして笑った。
「ジェイド先輩が一人で歩いている時の足音の再現はカンペキだったぜ。けれど慣れない仕草をしたせいで、音がぎこちなく聞こえてたんだよ。あとは敬語が使い慣れていないってのがよく分かる話し方だった」
「まあ確かに、敬語なんて堅苦しくて俺には向いてないや。けどこんなにあっさりバレるなんてちょっと悔しいな」
少し口を尖らせながら悔しがる彼に、バイトは愉快そうに笑い声を上げた。
「残念だったな。オレの耳は簡単に誤魔化せないぜ?」
2022年11月5日 Pixivにて投稿

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