11、「……一本くらい噛みちぎっておけばよかったかな」

ツイステッドワンダーランド生き別れのウツボの人魚

 獅子の君(ロア・ドゥ・レオン)……もといレオナ・キングスカラーは、いつもの場所に寝転がって目を瞑っていた。
植物園は授業時間以外は用がある者しか基本出入りせず、静かな場所が多いので、レオナはここを自分の縄張りの様によく昼寝に利用している。
それを知っている者はあまり近寄らないので、ここにやって来るのはレオナに用がある者くらいだ。
なのでレオナはいつものように己の快適な縄張りで夢の世界へ旅立とうとしたが、聞き慣れない足音に妨げられてしまった。

 せっかくの昼寝に邪魔が入ったとレオナは目を瞑ったまま眉を顰め、もし話しかけてきたら文句の一つでも言ってやろうと思ったが、近づいてくる足音の主は何も言わずにその場にしゃがみ込んだらしく、今度は紙にペンを走らせる音が聞こえて来た。
たまに魔法薬学や美術で植物園にある植物を観察したり、スケッチを取らないといけない課題が出る事がある。
今回もその類なら十数分すればいなくなるだろうと踏んだレオナは、ペンの音に背を向ける形で寝返りを打った。
 
……あれからそれなりの時間が経ったが、さっきからペンが走る音が異様に近い。
しばらくそのまま目を瞑っていたが、一度気になってしまっては中々眠れず、レオナは思わず目を開けてしまった。
視界に飛び込んで来る日光に顔を顰めながら音の方へ顔を向けると、自分の足元付近にサングラスを掛けた男がしゃがんでこちらを……正確には自分の尻尾を見下ろしながら、持っているスケッチブックに何かを書き込んでいた。

「おい」
「…………」

かなり集中しているのか、男はレオナが呼びかけても反応しない。
無視をされて苛立ったレオナは、小さく舌打ちをしてグッと眉間に皺を寄せた。
 
「チッ……おい、サングラス掛けたお前だ。何してる」
「……ああ、俺?スケッチしてる」

語気を強めて再度声を掛けると、男はようやくサングラスを少しだけずらしてレオナを一瞥すると、再びスケッチブックに視線を落として鉛筆を走らせ始めようとした。
 
「ここじゃなくて違う場所に行け、昼寝の邪魔だ」
「ここがいい」
「……邪魔だって意味が分かんねえのか?」
「俺静かにしてるし、寝てていいよ」

 サングラスの男は居座り続けるつもりらしく、どうも話が通じない。
幼い口調も加わって、それなりにでかい図体をしている割には、中身は一度こうと決めたら頑として大人の話を聞き入れない子供の様だ。
国に帰るたびに突進する勢いで抱きついて来ては、どれだけ邪険にしても懲りずに自分と遊びたがるあの幼い甥を思い出した。

「……あァ、説明が足りなくて悪かったな。俺は静かな場所でも他人の気配が近くにあると眠れない程繊細なんだよ」
「そうなの?」

レオナが目を細めて眉を上げながら遠回しに「邪魔だ」と伝えると、サングラスの男はペンを走らせる手をようやく止めた。
 
「うーん……じゃあ、いない時と同じくらい気配消せたらいい?」
「は?」

 子供の様な男は胸ポケットからマジカルペンを取り出すと、自分の足元の地面を三回叩いた。
すると、みるみる彼の姿が背景に溶ける様に消えていき、あっという間に全く見えなくなった。
それもただ見えなくなっただけでなく、身動きする布の音一つせず、僅かに香る鉛筆の芯の匂いや体臭も全く感じられない。
一つだけ大きな欠点が見受けられるが、そこに誰かがいるとは思えない程、綺麗さっぱり彼の気配が消えていた。
 
「……その魔法が解けたら帰れよ」

下級生にしては高度な魔法の完成度に多少驚きはしたが、どうせそこまで長い時間は魔法を維持できないだろうと判断したレオナは、追い払うのは一旦諦めて、見えなくなった彼から背を向けて再び地面に横たわった。

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