「おーい!レオナさーん!」
レオナが昼寝を始めて数十分後、サバナクロー寮のハイエナの獣人ラギー・ブッチは、寮長であるレオナを探しに、植物園で声を上げていた。
眉を吊り上げた機嫌の悪いクルーウェルに、彼から今日が提出期限の課題レポートを回収してくる役目を押し付けられてしまったのだ。
今回の課題は、しょっちゅう授業をサボって出席日数が危うくなっているレオナが、単位を落とさない為の救済措置としての課題だったらしく、さすがに提出しないわけにはいかない。
自分にも用事があるので正直暇なわけではないが、ラギーとて他の寮の奴らに、自分の寮の寮長は二回も留年した奴だと馬鹿にされたくはない。
だから合間の時間を縫って、彼が居そうな場所を駆け回っていたのだ。
「あ、やっぱここにいた。レオナさん、今日提出のレポート早く出せってクルーウェル先生がいっ、うわっ!?」
「あ」
いつもの縄張りでレオナが寝転がっているのを見つけたラギーは、声を掛けながら近づいたが、その途中で何か大きな何かに足をぶつけてバランスを崩しそうになった。
慌てて体勢を立て直して辺りを確認すると、いつの間にいたのか、ラギーの足元にサングラスを掛けたオクタヴィネルの生徒が、しゃがみ込んだ状態で自分を見上げていた。
「うええ!?どっから湧いてきたんスか!?」
突然現れた青年の姿に、ラギーは驚いて数歩後ずさった。
「おいラギー、それくらいの認識阻害魔法察知しろ」
「認識阻害なんてまだ習ってないっスよ!……って、あれ?よく見たら噂の『リーチ兄弟のそっくりくん』じゃないっスか」
煩わしそうに顔を歪めながら身を起こすレオナに、ラギーは噛みつきながらぶつかった相手を確認した。
フードとサングラスでほとんど隠れている黒いメッシュが入ったターコイズブルーの髪とゴールドの瞳、自分が知っている『彼ら』と同じとは言い難いが、どことなく共通点がある特徴的な容姿。
自分がぶつかったのが、あの悪名高いオクタヴィネルのウツボ達にそっくりだと言われている、噂の一年生だと気がついた。
「なんだ、コイツの事知ってるのか」
「オレ達の学年じゃちょっとした有名人っスよ?この一年生くん」
「……あ、魔法解けちゃった」
当の本人はレオナ達のやり取りに目もくれず、魔法が解けてしまった自分を見下ろして残念そうにしていた。
「おい、お前もお絵描きの時間はおしまいだ」
「この人がぶつかって来たんだから無効でしょ」
レオナはラギーがぶつかった反動で落ちてしまったスケッチブックを青年に突き返すと、彼は不満げな顔でラギーを指さした。
「避けなかったお前が悪い。とっとと帰れ」
「むう……約束だから仕方ないね。今日は諦めるよ、レオさん」
「ああ゛?」
サングラスの青年はしばらく口を尖らせて拗ねていたが、ようやく諦めたらしく、立ち上がってその場を去ろうとしたが、去り際に彼の口から飛び出したレオナの呼び方に、呼ばれた本人はドスの効いた声をあげて振り返った。
「おい待て」
「……なに?別に念押ししなくても、俺もうここから離れるけど」
レオナに呼び止められた青年は、振り返って不思議そうに首を傾げた。
「違う、なんだ今の呼び方は。まさか俺の事じゃねえだろうな?」
「あんたの事だよ、レオさん」
「俺はレオナ・キングスカラーだ。……入学式で聞いてなかったのか?一年生」
「俺とあんたはこれがショタイメン、でしょ?それにレオナ・キングスカラーも、レオナさんも、獅子の君(ロア・ドゥ・レオン)も、レオも全部意味はライオンだし。呼び方考えるの面倒くさいからレオさん」
……どうやらこの一年生の頭の中では、相手の呼び方に独自のルールがあるらしい。
レオナは自分の事を「トド」と呼ぶ二年のウツボを思い出し、なるほど「そっくりくん」って訳だと納得した。
そうと分かれば、これ以上まともに相手するだけ無駄だと判断したレオナは、額に手を当ててため息を吐いた。
「はあ、もう面倒くせえ……勝手にしろ」
「うん、勝手にする。じゃあね、レオさん」
スレイドは今度こそその場を去って行った。
「は〜……あのそっくりくん、レオナさん相手にとんだ命知らずっスねえ」
自分が巻き込まれない所まで下がって、ハラハラしながら二人のやり取りを見ていたラギーは、スレイドが去ってようやく大きく息を吐いた。
「あいつの事は気休め程度に静かになったチェカだとでも思っておけ」
「あんなでかいチェカくんなんて嫌っス。って、そんな事とりもレポート!早く出してくださいよ!」
「はいはい、寮にあるからキャンキャン喚くな」
「ほんとっスかー?じゃあ二十分後に部屋に取りに行くんで、用意しといてくださいよ?」
「ふわあ……面倒くせえ」
「そこで二度寝はダメっスからね!」
ラギーはレオナに疑いの目を向けながら、何度も念押しして駆け足で植物園から出て行った。

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