「……なあ、スレイド」
「なに?」
数日後。
全ての授業が終わって、クラスメイト達のほとんどが部活へ向かっていなくなった教室で、幼馴染のバイトは居心地悪そうにソワソワしながら隣に座るスレイドに話しかけた。
「最近誰かにつけられてないか?……それもかなり遠くから」
「あ、バイトも気づいてた?」
「なんだ。やっぱりお前も気づいてたか」
スレイドに顔を近づけて声を潜めて尋ねたのに、本人のあっけらかんとした態度を目の当たりにして、バイトは脱力して自分の席の背もたれにもたれかかった。
「今すぐどうこうって訳じゃねえけど、気配が静かすぎて逆に気味が悪いんだよな……何か知ってんのか?」
「うん、多分それ狩人さん。この前色鉛筆を使った絵の描き方教えてもらったんだ」
「しかも知ってる奴かよ。注意しねえと分からないくらい気配を薄めてるから、かなりヤバイ奴に狙われてんのかと思ったぜ」
「ふふ、確かに狩人さんはヤバイ奴かもしれないね。……まあ、今は泳がせてるけど」
「どういう事だ?お前なら簡単にやられたりしねえだろ?とっとと狩って抉り取っちまえよ」
知っている人間につけられているのに、今にも鼻歌でも歌い出しそうなくらい楽し気な様子のスレイドに、バイトは彼の意図が分からずに片眉を上げて首を傾げた。
「あっちから仕掛けてくるのを待ってるんだよ。自分が狩る側だって思ってた奴が、いつの間にか狩られる側になってた時の反応って、面白いでしょ?」
スレイドはスッと目を細めて、机に頬杖をつきながら意地悪そうな薄ら笑みを浮かべた。
最初はキョトンとして目を瞬かせていたが、スレイドの言葉の意味が分かったバイトは、ニヤリと歯を剥き出しにして笑った。
「……ひひっ、違いねえ。小魚だって勘違いして襲ってくる奴の肉を抉り取るのは気分がいいからな」
「そうでしょ?だから、じっくり待つよ。……待って、待って、一発で確実に仕留めるのがウツボの狩り。でも深海の狩りの方法はそれだけじゃないからね。……横取り、するなよ?」
スレイドはスッと無表情になり、珍しく命令形でバイトに牽制した。
突然冷たい空気を纏ったスレイドに、バイトは昔の事を思い出して背中から嫌な汗が伝うのを感じた。
昔スレイドとバイトが出会って、一年が経とうとしていた頃、スレイドからの毎日の揶揄いの言葉に、バイトの怒りが我慢の限界に達した事があった。
その仕返しとして、バイトは彼が獲った獲物を横取りして食べてしまった事がある。
その時は仕返しが成功してスカッとした気分になったが、その後で話したくない程の報復をくらった。
スレイドは自分の獲物が横取りされるのが大嫌いなのだ。
「いらねえよ、お前の獲物に手を出したらロクな事にならねえ」
「さすがバイト、よくわかってる」
声を低くして凄むスレイドを目の前に、バイトは手をヒラヒラ振ってその気が無い事を態度で示し、スレイドはそれを見て満足そうに頷いた。
「……一本くらい噛みちぎっておけばよかったかな」
スレイドはサングラスの下から目を光らせてポツリと呟きながら、彼の血の味を思い出すように小さく自分の唇を舐めた。
2023年6月20日 Pixivにて投稿

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