12、【番外編】もし生き別れていなかったら

ツイステッドワンダーランド生き別れのウツボの人魚

ナイフ投げ

タンッ

「……」

 放課後の学園裏の森。
薄暗い木の間で木にもたれて座っているスレイドは、無言で小ぶりの白いナイフを投げていた。

 スレイドのナイフ投げは幼い頃からの趣味だ。
元々は魔法の命中率を上げる為の訓練として始めたのだが、今ではアイデアを整理したり考え事をしたい時に、こうして誰もいない場所で的を作ってはナイフ投げをしている。
海にいた頃から愛用している海洋生物の固い骨を削って作られたナイフは、陸に上がってもその切れ味と鋭さは変わらない。
地面に広げた皮のホルダーに入れた五本のナイフを一本取って、しばらくの間手の上で弄んでから的へ向かって投げ、五本全て投げ終わったらマジカルペンを振ってホルダーに戻してまたナイフを手に取るのを繰り返していた。

「スレイド、ここにいましたか」

全てのナイフを戻したのが五回目を超えた頃、スレイドを探しに来たジェイドがやって来て彼の隣にしゃがんだ。

「スレイド、そろそろ夕食の時間ですよ」
「……うん」

タンッ

「今日のメニューはフロイドが作ったピラフらしいです」
「……うん」

タンッ

「フロイドがしいたけを食べるそうですよ」
「……ん」

タンッ

「……眠り薬」

ジェイドの言葉にスレイドは全部生返事で返しながら、ぼんやりとした表情のままナイフを投げ続けた。

「……嗅覚」

タンッ

「あ」

スレイドが小さく声を溢すと、ナイフを投げる手を止めた。

「ねえ、ジェイド」
「はい、スレイド」

スレイドがジェイドに声を掛けると、ジェイドは体ごと彼に向き直って返事をした。

「ちょっと聞いてくれる?」

それからスレイドはジェイドに二、三の質問をすると、スッキリした顔で立ち上がって木に刺さったナイフを回収した。

「ジェイド、アイデア浮かんだから図書館行ってくる。ご飯後で食べるってフロイドに言っといて」
「分かりました。後で何を思いついたか教えてくださいね」
「うん」

ナイフを入れたホルダーを抱えると、スレイドは再び森の中へ消えていった。

「スレイド~、いつまでやってんの?」

 消灯時間が近づいた図書館の片隅で、スレイドは小さなランプの下で大量の本に囲まれていた。
大量の本といっても全て読んでいる訳では無いらしく、読みたい箇所のページを開いた本が何冊も彼の前に広がっていて、一部は浮遊魔法で彼に見やすい角度で浮いていた。
スレイドはフロイドが近づいても気づいていないらしく、紙切れが真っ黒になる程ペンで何かを書き込んでいた。

「……ん」
「も~、まだご飯食べてないでしょ?せっかく上手くできたのに冷めちゃったじゃん」
「……ん」

 自分も気分によっては人の事は言えないが、どれだけ声を掛けても生返事しか返ってこない。
こういう気になった事はとことん突き詰めないと気が済まない所は自分の片割れにそっくりだ。
フロイドは呆れてため息をつくと、スレイドが書いている大量のメモに目を走らせた。

「ふうん……アロマ、香水とか?」
「うん、まだ使えない」
「丸い葉のサンスベリア?」
「効果が打ち消される。……カンノンチク?」
「レモングラス」
「……精油か」
「あとこれ増やしたら?」
「……3グラム、いや多い?」
「1,5」
「もっと遅効性のある薬にしたいな……あれと合わせてもいいかも」

それからスレイドは新しい紙に何かを書き込んで満足したらしく、マジカルペンを振って読んでいる本を魔法で元の棚に戻して椅子から立ち上がると、目の前に立っていた無表情の兄に目を丸くした。

「あれ、フロイドなんでいるの?」
「お前今まで誰と話してたんだよ。ほら、早く寮帰ってご飯食べるよ」
「えー……アイデアまとまったばっかだから、すぐにでも作り始めたいんだけど」
「そう言って今日のご飯食わねえつもりでしょ。……それともオレの作ったメシが食えねえっての?」
「う……食べる」

暗に「絞めるぞ」と言われたスレイドは、グッと言葉を詰まらせて俯いた。

「ん、ちゃんと残さず食べたらオレも手伝ってあげるから」
「むう……わかった」

拗ねた様に口を尖らせたスレイドが逃げないように、フロイドは彼の肩に腕を回して寮に連れ帰った。

「アズールお疲れ様、レジ締めと閉店作業終わったよ。売上の結果は後でジェイドが持ってくるってさ」
「お疲れ様です、スレイド。……おや、この匂い。珍しいですね、お前が香水を使うなんて」

スレイドが動いた瞬間にふと香る匂いに、アズールは書類を捌いていた手を止めて顔を上げた。

「いい匂いでしょ?たまにはいいかなって思って。ジェイドにヒント貰って、フロイドに手伝って貰ったんだ」
「主張が強い香りではありませんが、爽やかで落ち着きのある香り……良く似合ってますよ」
「ふふ、ありがとう。よかったら使ってみる?」

スレイドは嬉しそうに笑うと、ジャケットから青いアトマイザーを取り出してみせた。

「僕も今はコロンを使っているのですが……これなら重ね付けをしても支障はなさそうですね。お願いします」
「うん」

スレイドはアズールが差し出した右手首に、香水を軽く振りかけた。
重ねられた香水に鼻を寄せると、アズールは満足そうに頷いた。

「どう?」
「うん、このコロンとも合ってますね。よかったら後で分けてくれませんか?」
「いいよ。じゃあ今日の錬金術の課題、ここでやってもいい?アズールに意見聞きたい」
「分かりました。この香水の対価として許可しましょう」
「じゃあ、このテーブル借りるね」

それからスレイドはテーブルに課題のノートを広げて、時折アズールに自分の考えを伝えながら意見を仰いだ。
アズールも彼の意見に答えを返しながら書類を捌いていたが、次第にその返答が鈍くなっていき、しまいには何も答えなくなった。

「アズール?寝ちゃった?」
「……」

返事が聞こえなくなったのでスレイドが顔を上げると、アズールはペンを持ったまま椅子にもたれて規則正しい寝息を立てていた。
スレイドは立ち上がってアズールの肩をゆすっても反応しないのを確認すると、目を細めてニンマリと笑った。

「ふふ、おやすみアズール」
「スレイド、どうでしたか?」
「この通り、大成功」
「ほんとだ、アズール爆睡じゃん」

ドアが開いた音に振り返ると、ドアの外から気配を消して中の様子をずっと伺っていたジェイドとフロイドが部屋に入って来た。

「香りを嗅いだ人間の眠気を誘発する香水。対象が直接身に着けた場合は効果が出るのに五分、って所かな」

スレイドはアトマイザーと一緒にポケットに入れていた、約五分でタイマーが止まっているストップウォッチを取り出した。

「俺が事前に飲んでた効果を打ち消す薬もちゃんと効いているみたいだし。あといくつかサンプルとして何人かに使おっかな」
「ふふふ。結果を楽しみにしていますね」
「うん。さてと、せっかくアズール寝ちゃったし……これからがお楽しみだね」

スレイドがパーティーグッズの銀色の付け髭を取り出して意地悪く笑うと、ジェイドとフロイドもニヤリと口角を吊り上げた。

「ではアズールもゆっくりできるように、部屋に運びましょうか」
「あはっ、面白そうじゃん。オレもなんか持ってこようっと!」

翌日、眠っている間に沢山のイタズラをされて顔を真っ赤にして怒るアズールから、フロイドとスレイドは笑いながら逃げ回り、何種類のイタズラをされたアズールの写真数枚は、ジェイドのスマホのファイルに大切に保管された。

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ジェイドとフロイドのやり取りは「ねえ、ジェイド」「ええ、フロイド」と互いの言いたい事が分かっているかんじだけれど、ジェイドとスレイドの場合は兄と弟なので「ねえ、ジェイド」「はい、スレイド」と、スレイドが話を聞いて欲しい時にジェイドが話をちゃんと聞いてあげるイメージ。

新しい魔法を思いついたり魔法薬を「ただ作る」のは得意だけど、それを「何のために使う」のかを考えるのは下手なので、使用用途はジェイドやアズールに相談する事がある。
魔法関連の事に関してはフロイドもスレイドも天才なので、二人共スイッチが入ってると頭の回転が速すぎて会話が追い付かないから、単語の応酬みたいになってる事がある。

アズールへの寝顔イタズラ(ジェイドがそれぞれ写真に保存済み)
一番 ジェイド:翌日髪の毛が爆発するように、フロイドが持ってきていたカラフルなゴムのセットを使って、髪の毛を沢山の細い三つ編みにした。
二番 スレイド:髪と同じ色のふさふさした付け髭と、フロイドが持って来た油性ペンで目元に濃い皺を書いておじさん風にした。
三番 フロイド:スレイドが書いた皺はそのままに、鼻を真っ黒にして、そばかすと猫のひげを追加。

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